EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
3. 治療
(4) その他の治療法と補助器具
<4> 尿道留置カテーテル
尿失禁の原因が下部尿路の閉塞でありかつ閉塞を解除する他の治療法が適当でない場合(手術不能症例など)、全身状態が重篤あるいは終末期にあり、かつ間欠導尿などを行う介護者がいない場合、留置カテーテルを用いてもよい。(証拠の強度 : C)
McMurdoら(1992)は、78人の難治性尿失禁を有する高齢女性を対象にカテーテル留置とパッドによる管理を比較し、カテーテル留置を受けた患者の約30%がカテーテル留置を希望しており、コストは高くなるものの、難治性尿失禁患者では試みてもよいと述べている70)。
尿失禁のため陰部の皮膚に問題が生じているときや、褥瘡に対して尿失禁が悪い影響を及ぼしている場合には一時的に留置カテーテルを考慮してもよいが、原則的に溢流性以外の尿失禁に対して行うべきでない。また、カテーテル留置を行う際には、閉鎖式の採尿バックを用いるのがよい。
カテーテル留置により尿路感染症、敗血症が生じやすくなる71)。カテーテルの交換は30日ごとでよいとされているが、カテーテルの結石沈着や閉塞があれば、交換頻度をあげたほうがよい。留置するカテーテルは14〜18Fの太さが適当で、バルーンは10mLの蒸留水で膨らませる。定期的な膀胱洗浄で細菌尿を根絶することは不可能なばかりでなく、膀胱粘膜にさらなる損傷を与え細菌感染の機会を助長するので、カテーテル閉塞が生じないかぎり、洗浄は行わない。Muncieら(1989)は、カテーテル留置を受けている32人の女性を対象に無作為化試験を行い、10週間1日1回の膀胱洗浄を行ってもカテーテル閉塞の頻度、発熱の頻度、細菌尿の頻度は、行わない群と同等であったと報告している72)。カテーテルの材質に関して、ラテックス、シリコン、テフロンいずれのカテーテルがよいのか結論はない。近年、よく用いられるようになった親水性潤滑材や、抗菌物質、銀で表面をコーティングしたカテーテルは結石付着などの合併症を減らす可能性がある。Bullら(1991)は、ダウコーニング社シラスティックカテーテルとバード社バイオキャスカテーテルとを比較し、後者の平均留置期間89.6日、前者が56.7日と有意の差を認め、親水性潤滑材でコーティングしたカテーテルの方がシリコンカテーテルより優れていると報告している73)。