EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
3. 治療
(2) 薬物治療
<2> 腹圧性尿失禁
尿道括約筋不全による尿失禁の薬物治療では、(1) 膀胱頸部から近位尿道にかけ高い密度で分布しているα交感神経レセプターを刺激し、緊張を高めることにより膀胱出口の抵抗を増加させる治療と、(2) 閉経女性において女性ホルモン補充により尿道粘膜、尿道周囲支持組織の弾性を回復させる治療がありうる。(3) α交感神経刺激薬と女性ホルモンの併用も有用であるとされている。しかし、専門医の意見では、薬物治療は腹圧性尿失禁の主治療となるとは考えにくく、まず、行動療法または外科的治療が試みられるべきである。補助的療法として薬物治療を用いてもよいが、効果が認められなければ長期に用いるべきでない。
交感神経β2刺激作用を有する塩酸クレンブテロールも尿道括約筋の緊張を高め、腹圧性尿失禁に有効であるとされている。
α交感神経刺激薬フェニルプロパノールアミン(25〜100mg/1日2回)が腹圧性尿失禁に有効である。(証拠の強度 : A)
フェニルプロパノールアミンの有効性が海外で報告されている51,52,53)が、わが国では市販されていない。わが国で使用できるα交感神経刺激薬として塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸ミドドリン54)があるが、有効性を示す無作為化試験は検索できなかった。副作用として、不安感、頭痛、発汗、高血圧、心原性不整脈に注意する必要がある。
内服/経腟的/膀胱内注入エストロゲン療法
閉経後の女性の腹圧性尿失禁、混合性尿失禁に用いられる。(証拠の強度 : A)
閉経後の女性の腹圧性尿失禁、混合性尿失禁に用いられる。(証拠の強度 : A)
尿道と腟は発生学的には起源が同じであり、閉経後の女性ではエストロゲンの補充により、尿道粘膜のトーヌス、弾性、血管増生を回復させ、またα交感神経刺激に対する反応性を上昇させうる。
Samsioeら(1985)は、尿失禁を有する70歳代の女性34人を対象に、エストリオール3mgとプラセボの内服の二重盲検試験を実施し、切迫性尿失禁、混合性尿失禁では有意に症状が改善したと報告した55)。van der Lindenら(1993)は、閉経後の女性62人にエストリオール(8mgから2mgと漸減)とプラセボの内服の二重盲検試験を実施し、腟粘膜、尿道粘膜の有益な効果があると報告している56)。Kurzら(1993)は、21人の切迫性尿失禁に対し、エストリオール1mgとプラセボの膀胱内注入の無作為試験を試み、有効であったと報告した57)。一方、Wilsonら(1987)は、閉経後の女性36人を対象に硫酸ピペラジンエストロンとプラセボの比較試験において、6週目のパッド使用量に有意差はあるものの3カ月目では差がなく、女性腹圧性尿失禁に対しては女性ホルモン治療の限界があると述べている58)。また、Fantlら(1996)も閉経後の83人に対し、黄体・卵胞混合ホルモン製剤とプラセボの比較試験を行い、失禁回数、失禁量ともに差がないことを報告している59)。
α交感神経刺激薬と内服/経腟的エストロゲン療法
それぞれ単独療法の効果が不十分な症例では、併用療法が閉経後の腹圧性尿失禁に対して有効である。(証拠の強度 : B)
それぞれ単独療法の効果が不十分な症例では、併用療法が閉経後の腹圧性尿失禁に対して有効である。(証拠の強度 : B)
α交感神経刺激薬あるいはエストロゲンの単独療法が奏功しない場合に試みてもよい。Kinnら(1988)は、閉経後の36人の患者に対し、エストリオール、フェニルプロパノールアミン、両者の併用の盲検試験を試み、フェニルプロパノールアミン単独とエストリオール併用により尿道内圧が上昇し、尿漏れを35%改善したと報告した60)。
塩酸クレンブテロールは腹圧性尿失禁に有効であり、20μgを1日2回内服する。(証拠の強度 : C)
わが国では臨床使用されているが、無作為化試験で腹圧性尿失禁に対する有効性が確認されたことはない。重篤な低カリウム血症、動悸、頻脈、不整脈、震戦がありうる。