EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

 
III 尿失禁診療ガイドライン
高齢者尿失禁ガイドライン

3. 治療
(2) 薬物治療

<1> 切迫性尿失禁
抗コリン作用を有する塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリン、臭化プロパンテリンは、排尿筋の無抑制収縮に伴う切迫性尿失禁に有効である。塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリンは、膀胱排尿筋に対する直接的収縮抑制作用も有している。臭化プロパンテリンは、最近ではほとんど用いられない。米国では、口腔内の乾燥などの副作用の少ない、新しい抗コリン薬トルテロジンが市販されている。また、1日に1回の投与で効果が持続する塩酸オキシブチニンの徐放性製剤の臨床試験も進められている。切迫性尿失禁に対する塩酸フラボキセートの効果はAHCPRのガイドラインでは正当化されていないが、塩酸オキシブチニンと同等とする報告が1件あった。小児の夜尿症に有用であるとされる塩酸イミプラミンも、切迫性尿失禁に有用である。カルシウム拮抗剤テロジリンの有用性も報告されていたが、心血管系への副作用のため現在は市販されていない。

塩酸オキシブチニンが世界中でよく用いられている。(証拠の強度 : A)
わが国では1日1〜3mgから開始し、5〜6mgを最大投与量とするのがよいとされる。

Rivaら(1984)は、36〜70(平均51.5)歳の不安定膀胱を有する女性24人にプラセボを対照群として二重盲検試験を試み、排尿回数、尿意切迫感、切迫性尿失禁回数いずれも塩酸オキシブチニン投与群で有意に改善したと報告した38)。Tappら(1990)は、不安定膀胱(特発性)を有する閉経後の女性を対象にプラセボを対照群として二重盲検試験を試み、尿意切迫感、切迫性尿失禁回数を減じたと報告している39)。Enzelsbergerら(1995)は、切迫性尿失禁を有する39例の女性に対し塩酸オキシブチニンとプラセボの膀胱内注入を二重盲検試験として試み、頻尿、夜間頻尿を有意に減じたと報告している40)。一方、Zorzitto(1989)らは、60歳以上の施設入所者を対象に行った試験でプラセボに対する塩酸オキシブチニンの有効性に有意な差を認めていない41)

塩酸オキシブチニンと行動療法の併用は、高齢者の尿失禁に有効である。(証拠の強 度 : B) しかし、高齢者では有効でないとする報告もある。

Burgioら(2000)は、197人の切迫性尿失禁を有し、痴呆のない高齢者(平均69.3歳)に塩酸オキシブチニン投与単独、行動療法単独を行い、失禁が消失しなかったり、患者が結果に満足しなかった場合に併用療法を行い、単独療法での失禁回数減少率が57.5%から88.5%に改善したと報告した42)。一方、Szonyiら(1995)は、切迫性尿失禁を有する平均82.2歳の高齢者57人を、塩酸オキシブチニン+膀胱訓練とプラセボ+膀胱訓練群に分け、塩酸オキシブチニン投与群において昼間の頻尿は改善したが、尿失禁の頻度は改善しなかったと述べている43)。Zorzittoら(1989)は、24人の入院中の高齢者にプラセボを対照群とした二重盲検試験を試みたが、塩酸オキシブチニンの有効性は証明できなかったとしている41)。また、Ouslanderら(1995)も、1988 年の報告に引き続き44)、75人のホーム在住の高齢者をパターン排尿誘導+塩酸オキシブチニン群とパターン排尿誘導+プラセボ群の2群に分けて無作為化試験を行い、塩酸オキシブチニンを加えても意味のある失禁回数の減少は得られなかったと報告している45)

塩酸プロピベリンは切迫性尿失禁に有効であり、1日20mgを1〜2回で内服する。(証拠の強度 : A)

高齢者の尿失禁に有効であるという報告はまだなされていない。Mazurら(1994、1995)は、容量設定試験において1日30mgを推奨している46,47)

臭化プロパンテリンは切迫性尿失禁に有効であり、1日に3回、1錠15mgを内服する。(証拠の強度 : B)

最近ではほとんど用いられることはないが、Whiteheadら(1967)は、65歳から80歳までの痴呆症のある患者34人を対象に、15mgを毎食後、60mgを就寝前に内服させ、女性では、プラセボに比べ夜間失禁回数が減少した症例が有意に多かったと報告している48)

塩酸フラボキセートは切迫性尿失禁に有効であり、1日に3回、1回200mgを内服する。(証拠の強度 : B)

専門医の意見では、塩酸フラボキセートが有効であるとは考えにくいが、Milaniら(1993)は、頻尿、尿意切迫感のある女性50人を対象に、塩酸オキシブチニン15mgと塩酸フラボキセート1,200mg との二重盲検試験を行い、より少ない副作用の発現率と同等の効果(症状改善率 : 81.6% VS 78.9%)を報告している49)

三環系抗うつ薬である塩酸イミプラミンは切迫性尿失禁に有効であり、通常10〜25mgを1日1〜3 回投与する。(証拠の強度 : B)

三環系抗うつ薬は頻用されている薬剤ではあるが、心血管系あるいは抗コリン作用による副作用のため、高齢者では用いにくいとされる。
Castledenら(1986)は、19人の尿失禁のある高齢者に対してプラセボとの二重盲検試験を施行し、14人が尿失禁が消失したのに対し、プラセボ群では14人中6人しか消失しなかったと報告している50)
 
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