EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

 
III 尿失禁診療ガイドライン
高齢者尿失禁ガイドライン

3. 治療
(1) 下部尿路リハビリテーション

合併症を生じることなく尿失禁の頻度を減らすことができる。介護者が行動療法の理念をよく理解していることや、ハンドブックや、泌尿器科専門医などをエキスパートとして上手に利用することが行動療法の効果をあげるのに、重要な役割を果たす。(証拠の強度 : A)

Gormanら(1995)は、外来での尿失禁患者に知識を普及させるのに、ハンドブックとエキスパートシステムいずれが有効かを無作為化試験により検討し、エキスパートの知識を上手に使う方が有効であったと述べている5)。Williams(1997)らは、看護師が尿失禁に関するハンドブックを支給された群と支給されなかった群で比較し、ハンドブックを支給された群の看護婦の知識レベルが有意に向上したと述べている6)。Beguinら(1997)は、排尿の問題、特に尿失禁に関する30分程度の健康教育を受けた患者245名と受けなかった患者451名では、前者の方が専門医への相談率、検査・治療を受けた率は有意に高く、健康教育が尿失禁に対する意識向上に有用であるとした7)
行動療法は、患者の治療への関わり方により、
(1)認知障害や日常生活上動作(ADL)障害を有する患者に対し、介護者が行う治療法(受動的)
(2)患者が能動的に関わる教育とリハビリテーションが必要な治療法(能動的)
の2つに分類できるが、臨床の現場ではそれぞれに大きな垣根があるわけではない。たとえば、認知機能が正常でADL障害のみ有する患者では、膀胱訓練や、骨盤底筋体操、バイオフィードバック療法により腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁が改善するとしても、完全な禁制を得るためには介護者によるトイレ誘導が必要となることが多い。
下部尿路リハビリテーションは、下記のように3つに分けられる。
1)排泄介助(Toileting assistance)
(1) 時間排尿誘導
(2) 個々の患者の排尿パターンに合わせた排尿誘導(パターン排尿誘導)
(3) 排尿習慣の再学習
2)膀胱訓練(Bladder training)
3)骨盤底筋訓練
(1) 骨盤底筋訓練
(2) バイオフィードバックを併用した骨盤底筋訓練
(3) 腟内コーンによる骨盤底筋訓練
(4) 骨盤底筋の電気刺激

下部尿路リハビリテーションによる副作用は報告されていない。また、薬物治療や外科的治療といった他の治療法を組み合わせることが可能である。患者の動機づけが明瞭で、介護者側の援助が得られ、リハビリテーションを続けることができれば、行動療法のみで完全に尿失禁を消失させることも可能である。また、何らかの認知障害を有する患者が、完全とはいえないまでも、膀胱をコントロールできるようになることが知られている。
多くの論文で、異なった尺度で結果を報告していること、治療訓練の回数、期間、頻度などが異なっていること、訓練法の微妙な違い、長期経過観察の結果の欠如、併用療法の施行、対象となった症例の背景が異なっていること、各種の行動療法の名称が統一されて用いられていないこと、前治療の効果がなかった症例がどの程度含まれているか記載のないことなどの欠点があり、行動療法の有用性を明確にできない部分がある。しかし、全般的にみれば、行動療法は尿失禁を減らす効果があり、腹圧性尿失禁ではかなりの患者で手術が不要になると考えられる。
行動療法を施行する前に、尿失禁のタイプについて評価する必要がある。溢流性尿失禁は除外しておかねばならない。
 
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