EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

 
III 尿失禁診療ガイドライン
高齢者尿失禁ガイドライン

3. 治療

尿失禁の治療は、(1) 下部尿路リハビリテーション、(2) 薬物治療、(3) 外科的治療に分類される。それぞれの治療法に特有の利点、効果、リスクに関して、患者に十分に説明をする必要がある。患者の意向こそが最も尊重されるべきものであり、合併症が少なく、侵襲性の低い治療法が、第一に選択されるべきである。この意味で行動療法は適切ではあるが、訓練を伴う行動療法は、訓練の意義や方法を理解する能力、持続させる意欲、行動力を要するので、高齢者には難しい場合がある。上記の3つの治療法を組み合わせて行うのも有効であると考えられるが、どのような治療をどのように組み合わせると有効性が高くなるかは、今後、さらなる研究が必要である。
以下に、日常よくみられる症例に対する治療オプションを簡単に示す。(詳細なものは表2参照)
● 残尿が50mL未満の切迫性尿失禁患者
● 下部尿路リハビリテーション : 膀胱訓練、骨盤底筋訓練
● 薬物治療 : 抗コリン薬
● 残尿が50mL未満の腹圧性あるいは混合性尿失禁患者
● 下部尿路リハビリテーション : 骨盤底筋訓練、膀胱訓練
● 薬物治療 : α交感神経刺激薬、エストロゲン、α交感神経刺激薬+エストロゲン
● 外科的治療

表2 尿失禁タイプ分類と治療法
 下部尿路
リハビリテーション
薬物治療外科的治療備 考
切迫性尿失禁
(残尿<50mL)
排尿介助*
 時間排尿誘導
 パターン排尿誘導
 排尿習慣の再教育
膀胱訓練*
骨盤底筋訓練*
抗コリン薬
 塩酸プロピベリン*
 塩酸オキシブチニン*
 臭化プロパンテリン
塩酸イミプラミン
塩酸フラボキセート
前立腺肥大症など膀胱出口閉塞による切迫性尿失禁の場合
 経尿道的前立腺切除術など*
1〜3カ月で尿失禁の程度、残尿を再評価
薬物治療により尿失禁が改善しないか、残尿が50mL以上に増加する場合、泌尿器科専門医受診
腹圧性尿失禁
(残尿<50mL)
排尿介助*
 時間排尿誘導
 パターン排尿誘導
 排尿習慣の再教育
膀胱訓練*
骨盤底筋訓練*
エストロゲン療法*
β交感神経刺激薬
α交感神経刺激薬**
経膣式膀胱頸部挙上術*
恥骨後式膀胱頸部挙上術*
前膣壁形成術*
スリング手術*
尿道周囲コラーゲン注入術*
人工尿道括約筋埋め込み術**
膀胱頸部支持器*も使用可能
1〜3ヵ月で尿失禁の程度、残尿を再評価
薬物治療により尿失禁が改善しない場合、泌尿器科専門医受診
いつ流性尿失禁 膀胱出口閉塞の場合
 α交感神経遮断薬
膀胱出口閉塞の場合
 経尿道的前立腺切除術など*
間欠導尿*
尿道カテーテル留置**
泌尿器科専門医受診
機能性尿失禁排尿介助*
 時間排尿誘導
 パターン排尿誘導
 排尿習慣の再教育
  環境の整備(トイレの 表示、段差・障害物の 解消、ポータブル便器、尿器の使用)
残尿が50mL以上認められる場合は、泌尿器科専門医を受診させるべきである。
* : まず試みられるべき治療法である。** : 合併症が多いため、安易に行うべきでない。
 
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