EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
2. 診断
(2) 評価
1) 基本的評価
尿失禁の基本的評価項目は、(1) 病歴、(2) 診察、(3) 残尿、(4) 尿検査である。
<1> 病歴
以下のものが含まれる。
● | 尿失禁が生じるようになってからの期間 |
● | どのようにして尿失禁が起こるか(尿意切迫感、咳、運動など) |
● | 最も苦痛に感じている症状はなにか |
● | 頻度、生じやすい時間帯、排尿量と失禁量 |
● | 尿失禁の契機(手術、外傷、骨盤への放射線治療、薬剤の変更) |
● | 他の尿路系症状(夜間頻尿、残尿感、尿線途絶、腹圧排尿、血尿、排尿痛など) |
● | 飲水量、茶・コーヒー摂取量 |
● | 薬歴(たとえば、利尿薬などの服薬状況) |
● | 尿失禁治療の既往とその効果 |
● | パッド、おむつなどの使用枚数(量) |
● | 尿失禁消失・軽減への期待感 |
● | 排尿・尿失禁日誌(「尿失禁の基礎知識」、図5) |
● | 認知機能、身体機能、生活環境、社会的環境 |
排尿・尿失禁日誌は、24時間の排尿時間、排尿量、失禁時間、失禁量(大、中、小)を2〜3日間、本人または介護者に記録してもらう。失禁のタイプ診断に有用であり、飲水・排尿パターンから、飲水制限とそのタイミング設定、時間排尿誘導の時間設定などにも重要な情報を与える。
<2> 診察
● 一般診察
夜間頻尿、夜間尿失禁の原因となる浮腫の有無、脊椎圧迫骨折や脊柱管狭窄症などによる脊髄障害、脳血管障害など神経学的異常の有無、認知機能、日常生活動作(ADL)障害の有無を診察する。
● 腹部診察
膀胱の膨隆、その他の臓器の異常、腹水の有無を診察する。前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、神経因性膀胱などによる膀胱のコンプライアンスの低下がある場合や尿閉・溢流性尿失禁の場合には、腎機能障害がありうる。超音波検査で、水腎症の有無を確認する。
● 直腸診
陰部の感覚、肛門括約筋のトーヌス(弛緩時と収縮時)、便塊の有無、男性では前立腺の大きさと固さを診察する。前立腺の大きさと排尿障害の程度は必ずしも相関しないとされている。
● 会陰部の診察
尿失禁による皮膚の異常がないかどうか診察する。
● 女性性器の診察
会陰の萎縮、骨盤内臓器の下垂(膀胱瘤、直腸瘤、子宮脱)、骨盤内腫瘤、腟壁周囲の筋肉のトーヌスを診察する。
● ストレステスト(咳をさせて、尿漏れを直接確認する)
膀胱充満時に施行する。大きな咳をさせることが必要である。大きな咳ができない場合は、下腹部を圧迫してもよい。砕石位で認められない場合は、立位で繰り返す。膀胱が充満していない場合は、残尿測定後、膀胱に生理食塩水を注入し、行うとよい。
<3> 残尿測定
排尿後、下腹部からの超音波検査ないしカテーテルを用いて、残尿を測定する。50mL未満の残尿は問題にならないと考えてよい。残尿が50〜100mL の場合は軽度、100mL以上なら中等度以上の尿排出障害があると考えられる。残尿測定の前に排尿した量により、残尿量は影響を受ける。一般に、150mL以上の排尿量が残尿測定直前には必要であるとされている。残尿がある場合には、複数回、残尿測定を行う必要がある。
<4> 尿検査
血尿(尿路感染症、癌、結石)、尿糖(多尿による尿失禁)、膿尿、細菌尿などを検索する。男性、女性とも中間尿で白血球が1〜4/hpf未満であれば、尿路感染症は否定してよい。ただし、女性の場合、中間尿の尿沈渣で白血球を4〜10/hpf以上認めても、外陰部の細菌や腟分泌物の混入の可能性が高く、尿路感染症の証拠とはならない。この場合には、カテーテル採取尿により、尿沈渣と細菌培養検査を検査すべきである。
病院・老人施設在住の慢性疾患を有する高齢者では、症状を伴わない細菌尿(膿尿は伴っていても伴っていなくてもよい)は病的意義がないとされており、治療の必要はないとされている4)。一方、外来通院可能な尿失禁を有する高齢者では、評価・治療前に抗生物質ないしは抗菌薬により治療し、細菌尿が与える影響を調べておくとよい。