EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
1. ガイドラインの作成方法
科学的根拠に基づいて、高齢者尿失禁に対して推奨される診断・治療法を示すことが本ガイドライン作成の目的である。これまでに発表されてきた高齢者尿失禁に対する論文のうち、科学的根拠が保証されているものとして無作為化試験の報告を対象とした。
高齢者(aged)と尿失禁(urinary incontinence)をキーワードに、Cochrane Libraryから検索し得た1969年から1999年までの306論文とPubMedからRandomized Clinical Trial(RCT)のみを対象として検索した2000年1月から10月までの10論文のうち、重複のあったものを除いた289論文を4人の研究者(九州大学 : 関 成人、福島県立医科大学 : 橋本樹、名古屋大学 : 後藤百万、中部病院 : 岡村菊夫)が査読し、主題に合致しないものを除いた142論文に関して、第一に真に無作為化試験であったか、第二に結論が統計学的な有意差であったかどうか評価を行った。失禁量、失禁回数など客観的データを示した論文もあったが、完全消失、軽快というように主観的な効果判定を用いた論文も多かった。このガイドラインでは主観的な判定も信頼できるパラメータとして採用し、それらの論文も信頼できるものとして扱った。
最終的に、レベルI : 大規模のRCT で結果が明らかなもの、レベルII : 小規模のRCTで結果が明らかなもの、レベルIII : 無作為割付けによらない同時期の対照群を有するもの、レベルIV : 無作為割付けによらない過去の対照群を有するもの、および専門家の意見が加わったもの、レベルV : 症例集積研究(対照群のないもの)、および専門家の意見が加わったものの5つのレベルに分類し、このガイドラインでは、レベルI、およびIIのみを対象とした。「証拠の強さ」は、複数(2つ以上)のI、IIレベルの論文により統計学的に有効とされていた治療法をランクAとし、統計学的に有効であるI、IIレベルの論文が1つしかない場合の治療法をランクBとして表現した。レベルIII〜V の研究でしか有効性が証明されていない治療法はランクCとした。診断法に関するRCTはなかったため、診断に関する記述に関しては「証拠の強さ」は記載しなかった。現在、わが国で使用できない治療法を除いた無作為化試験に基づく74論文をガイドラインに採択した。
論文の査読に加わらなかった3人の研究分担者(九州大学 : 内藤誠二、福島県立医科大学 : 山口 脩、名古屋大学 : 大島伸一)とガイドライン作成に関わらなかった主任研究者が選んだ2人の専門医(小牧市民病院 : 近藤厚生、名古屋第一日赤病院 : 加藤久美子)にできあがった草稿のピアレビューを依頼した。