EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
I 尿失禁診療ガイドラインの概要 |
4. わが国における尿失禁の診療標準化と診療ガイドライン
近年、わが国における尿失禁の啓発には、老人泌尿器科学会(旧老人泌尿器科研究会)が大きな役割を果たしてきた。この研究会において医師と看護師および介護士を対象に実践的な記述を中心にした「高齢者排尿障害マニュアル」が作成されている13)。
わが国における尿失禁に関する成書として代表的なものに、財団法人日本公衆衛生協会の失禁対策検討委員会が、医療従事者を対象にした「尿失禁にどのように対処するか―保健・医療・福祉関係者のためのガイドライン」14)、ならびに患者・家族向けの「尿失禁の手引き―尿失禁を家庭でどうするか」15)を1993年に作成している。「尿失禁にどのように対処するか」は、わが国にエビデンスに基づく診療ガイドライン作成の概念や標準的な作成手順が広く浸透していない時代であり、エビデンスに基づく標準的なガイドラインとはいえないが、泌尿器科のみならず厚生労働省、公衆衛生学、老年病学、看護学、特別養護老人ホーム介護者、尿失禁アドバイザーなど、幅広い尿失禁専門家の意見を網羅し、一般的な尿失禁から痴呆による尿失禁まで、また社会的背景や公的サービスまで収載した尿失禁に関する実践的な教科書といえるものである。同時に「尿失禁の手引き―尿失禁を家庭でどうするか」は、患者・家族向けにわかりやすい記述と親しみやすいイラストで、尿失禁問題解決のため相談に行く所や相談内容と相談ルート、生活の仕方と工夫や介護器具、さらに在宅高齢者のケアの仕方まで、種々の尿失禁を対象にきめ細やかな記載がされており、尿失禁に悩む患者・家族にとって、極めて実践的で有用な指針を示している。
わが国においては、すでに前述の系統的論文論評の手法で作成されたEBMに基づくものとして、長寿科学研究助成金研究(岡村菊夫主任研究者)による「高齢者尿失禁ガイドライン」と、厚生科学研究費補助金研究「泌尿器科領域の治療標準化に関する研究」で作成された「女性尿失禁診療ガイドライン」(西沢 理小班長)があり、両者については別章で詳細に記載されており、本章では、西沢小班で作成された「女性尿失禁診療ガイドライン」の作成経過の概要を以下に簡単に記す。