「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」厚生科学研究補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)
III.手術適応と視機能
文献 | Ev level | 対象患者と研究施設 | 目的と方法 | 結 果 |
Tobacman JK, Zimmerman B, Lee P, Hilborne L, Kolder H, Brook RH: Visual function impairments in relation to gender, age, and visual acuity in patients who undergo cataract surgery. Ophthalmology 105 (9): 1745-1750, 1998 | IV | 10ヶ所の大学病院で1990年に白内障手術を受けた患者1139人のうち、カルテ上に視機能障害について明確に記載されていた776人のカルテ 米国、 University of Iowa | 後房レンズ挿入と水晶体嚢外摘出術を受けた776人の患者の視機能障害と、性別、年齢、術前の手術眼と対眼の視力、および手術眼が罹患していた他の眼疾患との関連を調べた。 一変量および多変量ロジスティック解析 | 白内障手術を決断した最も重篤な視機能障害は、性別、年齢および視力によって異なっていた。 二変量分析では、男性は職業上の障害、運転での障害およびグレア障害であった可能性が高く、女性では日常生活での障害および娯楽活動での障害の可能性が高かった。 ロジスティック回帰モデルにより、視機能障害と独立の変数との間の有意な所見は、 1.職業上の制限と男性 (オッズ比 : 1.92, 95%信頼区間 : 1.08-3.40) 2.職業上の制限と若さ (70-79歳に対してオッズ比 : 0.12, 95%信頼区間 : 0.05-0.28) 3.娯楽上の障害と高齢 (80歳に対してオッズ比 : 2.77, 95%信頼区間 : 1.64-4.70) 4.日常生活活動における障害と女性 (男性に対してオッズ比 : 0.72, 95%信頼区間 : 0.53-0.98) 5.日常生活活動における障害と手術眼の視力低下度 (視力20/100以下に対してオッズ比 : 5.13, 95%信頼区間 : 2.93-9.00) 6.グレア障害と若さ(80歳以上に対してオッズ比 : 0.40, 95%信頼区間 : 0.24-0.69) 7.グレア障害と良好な視力(視力20/100以下に対してオッズ比 : 0.16, 95%信頼区間 : 0.067-0.38) であった。 |
Superstein R, Boyaner D, Overbury O: Functional complaints, visual acuity, spatial contrast sensitivity, and glare disability in preoperative and postoperative cataract patients. J Cataract Refract Surg 25 (4): 575-581, 1999 | IV | 手術が予定されている視力20/70以上の白内障患者30人 カナダ、Sir Mortimer B. David Jewish General Hospital | 白内障患者の視機能に対する不満を定量化することと、定量化された不満度と他覚的なグレア障害やコントラスト感度低下との相関関係を調べる 視覚障害のアンケート、グレアテスト、コントラストテスト Optec 3000 vision tester を用いて、Glare光の有・無の状態でspatial contrast sensetivityと視力を測定。術前と術後3ヵ月以内に測定。 同時期にActivities of Daily Vision Scale (ADVS)を用いて、自覚的な視機能障害を評価。 | 術前には、Glare光が有る状態での視力とspatial
contrast sensetivityが低下しており、ADVSスコアも視機能障害の状態に相関していた。 術後は、これらの検査結果がすべて統計学的に有意に上昇しており、Activities of Daily Vision Scale (ADVS)で捕らえられた自覚的な視機能の状態と相関していた。 |
Elliott DB, Situ P: Visual acuity versus letter contrast sensitivity in early cataract. Vision Res 38 (13): 2047-2052, 1998 | IV | 視力が1.0以上の高齢者37眼。白内障の程度は、LOCSIIIシステムによって分類した。 白内障18人、コントロール19人 英国、カナダ | 早期白内障患者の視機能障害を把握するための、文字を用いたコントラスト感度(CCS)測定法の有用性を検討する。 早期白内障患者の 大きな文字のコントラスト感度=低空間周波数CS 小さな文字のコントラスト感度=高空間周波数CS 視力の3つを比較検討する。 | 早期白内障では、高空間周波数CS、すなわち小さな文字のコントラスト感度のほうが視力よりも有意に低下しており、低空間周波数CS、すなわち大きな文字のコントラスト感度の低下はあまり有意ではない。 しかし、早期白内障では小さな文字のコントラスト感度の低下度は、視力の低下と平行しており、視力以上の情報を得ることはできない。 大きな文字(低周波)のコントラスト感度=Control : 1.76, Early Cataract : 1.62 小さな文字(高周波)のコントラスト感度=Control : 0.98, Early Cataract : 0.61 視力 (LogMAR) =Control : -0.062, Early Cataract : 0.041 |
Regan D, Giaschi DE, Fresco BB: Measurement of glare susceptibility using low-contrast letter charts. Optom Vis Sci 70 (11): 969-975, 1993 | IV | 19-25歳の正常者15人。 45-55歳の正常者15人。61-78歳の正常者および白内障患者計15人。 カナダ、University of Toront | 未熟白内障の視機能障害を把握する上で、グレア光を照射しながら低コントラストの視力表を読ませる検査が有用であるか否かを検討した。 老齢者については、散瞳して細隙灯顕微鏡で写真撮影した。 | 文字のコントラストが96%,
50%, 25%, 11%, 4% の試視力表に、グレア光を当てた状態と当てない状態で判読させた結果、早期白内障患者では25%と11%での指標にグレア光を当てた状態で最も影響が強く検出された。 加齢によるレンズの褐色化や加齢そのもの、あるいは明らかなレンズの混濁があっても、グレア光に対する感度が高まるわけではない。低コントラスト文字を用いた本検査法は、感度が高いため、45-55歳の群でも加齢による影響が検出可能であり、19-25歳の視力が正常な被験者においても大きなばらつきが認められる。 |
Yao K, Flammer J: Relationship cataract density and visual field damage. Eur J Ophthalmol 3 (1): 1-5, 1993 | IV | 白内障手術前の患者58人、58眼。44-84歳。 | 白内障による水晶体混濁が視野検査結果に与える影響を検討する。 Octopus自動視野計 201 Program G1 術前2週、術前1日、術後3ヵ月、の3回測定。 白内障の硬度 : Opacity Lens Meter 701 (OLM) 解析 : Bebie Curve | 1.白内障の存在によって、視野の感度は全体的に落ちる 2.白内障の手術を受けることで、平均5.4dB改善しており、D(20)(Bebie Curve上の欠損20)では5.7dB改善していた。 この改善は統計学的に有意であった。 |
Elliott DB, Bullimore MA: Assessing the reliability, discriminative ability, and validity of disability glare tests. Invest Ophthalmol Vis Sci 34 (1): 108-119, 1993 | IV | 若年正常者24人、高齢正常者22人、初期白内障患者(視力20/70以上)33人 カナダ、 University of Waterloo | 各種のグレア障害検査装置について、その信頼性、識別能力および妥当性を検討した。 評価対象 : Miller-Nadler, Vistech MCT8000, Berkeley, van den Berg Straylightmeter, Brightness Acuity Tester(Pelli-RobsonとReganチャートを併用) 再現性 : 2回の診察時の検査スコアを比較 識別能力 : 検査によって、若年正常者と高齢正常者、高齢正常者と白内障患者を識別できる能力 妥当性 : 各検査スコアの結果と、van der Berg Straylightmeter の参照標準値を比較 | グレア存在下で測定したコントラスト感度および低コントラスト視力は、白内障患者の視機能評価において、グレア障害のスコアよりも優れていた。 グレア存在下では、Pelli-Robson、ReganチャートおよびBerkeley検査によるコントラスト感度および低コントラスト視力スコアによる白内障患者の視機能評価の信頼性、識別能力、妥当性はほぼ同じレベルであった。 Miller-Nadlerグレア検査装置は、低コントラスト閾値の各段階の間隔が大きすぎるため、初期白内障によるわずかな変化を検出する能力が劣っていた。 Vistech MCT8000は、信頼性が劣っているため有用性が限られている。 |
Mangione CM, Phillips RS, Seddon JM, Lawrence MG, Cook EF, Dailey R, Goldman L: Development of the 'Activities of Daily Vision Scale'. A measure of visual functional status. Med Care 30 (12): 1111-1126, 1992 | IV | 白内障手術を控えている白内障患者334人(平均年齢75±9歳、女性67%) 米国、Harvard | Activities
of Daily Vision Scale検査が、白内障患者の視機能障害の程度を正確にあらわしているかを検討する。白内障手術の適応を考える上での指標となりうるか否かを検討する。 Activities of Daily Vision Scale(ADVS)検査 試験-再試験信頼度、 採点者間の信頼度、 Cronbach係数 | 20のvisual
activityの項目を選定し、それを5つのサブスケールに分類した。 遠距離視覚・近距離視覚・グレア障害・夜間運転・昼間運転の各サブスケールについて0(活動不可)-100(障害なし)でスコアリングした。 ADVSのスコアは平均すると、遠距離視覚 ; 68,近距離視覚 ; 72,グレア障害 ; 66,夜間運転 ; 44,昼間運転 ; 68であり、夜間運転が低く近距離視覚が高かった。 電話を用いて調査した採点者間の信頼度係数(r)は各サブスケールで0.82-0.97であり、試験-再試験信頼度は全スケールを通じて0.87であった。 Cronbach係数αは、面談で0.94、電話で0.91ときわめて高かった。 機能低下の程度とADVSスコアの相関は、面談で-0.37、電話で-0.39であった。 |
Adamsons I, Rubin GS, Vitale S, Taylor HR, Stark WJ: The effect of early cataracts on glare and contrast sensitivity. A pilot study. Arch Ophthalmol 110 (8): 1081-1086, 1992 | IV | 110人 : 水晶体混濁なし、平均視力20/20(27人)、水晶体混濁あり、平均視力20/40、初期の白内障(83人) 米国、 The Johns Hopkins Hospital | 白内障が、グレアおよびコントラスト感度におよぼす影響を検討した。 グレア検査 : Brightness Acuity Tester, Berkeleyグレア検査 コントラスト感度 : 正弦波検査, Pelli-Robsonチャート 重回帰法を用いて、年齢および視力の影響を調整 | グレア検査スコア : 水晶体混濁のある人では、ない人に比して有意に低下していた。とくに、後嚢下混濁を有する人が最も低下していた。 コントラスト感度スコア : 水晶体混濁のある人では、ない人に比して有意に低下していた。どのタイプの混濁もほぼ同じように低下していた。 |
Drews-Bankiewicz MA, Caruso RC, Datiles MB, Kaiser-Kupfer MI: Contrast sensitivity in patients with nuclear cataracts. Arch Ophthalmol 110 (7): 953-959, 1992 | IV | 30人。18人の純核白内障患者と年齢をマッチングさせた対照者12人。 米国、NIH | 水晶体核の混濁が、コントラスト感度を低下させるか否かを検討した。 コントラスト感度を2方法で測定。 1.水晶体をとおして格子を見る従来の方法=モニター法 2.レーザーで網膜上に格子を映し出し、水晶体の影響がない状態で格子を見る方法=レーザー干渉法 核の硬化度 : Zeiss Scheimpflug 細隙灯ビデオカメラ画像で判定 | 核白内障患者で、両測定法でコントラスト感度の低下を認めたが、統計学的に有意差がみられたのは、水晶体をとおして格子を見るモニター法のときだけであった。水晶体の核硬化度と空間周波数4-16サイクル/度での感度低下との間に有意な相関(r=0.56-0.79, P<0.05-P<0.001)。また、視力と水晶体硬化の間には相関係数0.82(P<0.001)で、相関があった。 |
Elliot DB, Gilchrist J, Whitaker D: Contrast sensitivity and glare sensitivity changes with three type of cataract morphology; are these techniques necessary in a clinical evaluation of cataract? Ophthalmic Physiol Opt. 9 (1): 25-30, 1989 | IV | 白内障患者18症例の39眼および同年代の正常眼16眼 School of Optometry, University of Bradford, West Yorkshire, UK | LogMAR視力、コントラスト感度、グレアテストの比較 LogMAR視力をカイ二乗検定で正規分布であることを証明。白内障患者のLogMAR視力の左右差についてPearson 相関係数を用いるが、相関関係を認めず、両眼のデータを用いた。 | 白内障によるコントラスト感度の低下は、中間と高周波数領域の低下という結果であった。 0.5以下のLogMAR 視力の核性および皮質白内障において、低周波数領域のコントラスト感度の低下を認めなかった。後嚢下白内障において低周波数領域のコントラスト感度の低下を認めたが、視力とは相関を示さなかった。グレア感度は、すべての白内障のタイプで減少していた。これは、皮質と核白内障の両者で視力と相関していたが、後嚢下白内障では、相関していなかった。 |
Datiles MB, Edwards PA, Kaiser-Kupfer MI, McCain L, Podgor M: A comparative study between the PAM and the laser interfererometer in cataracts. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 225 (6): 457-60, 1987 | IV | 連続する白内障手術眼
35眼 National Eye Institute, National Institute of Health, Bethesda, MD, USA | 最近広く使われているGuyton-Minkowski
Potential Acuity Meter (PAM) とLaser Interferometer (LI)の比較 PAMとLaser Interferometerの比較 A群(17眼)は、視神経の観察が容易であったもの B群(15眼)は、何とか視神経が見えるか、もしくは観察出来ないもの Mc Nemar's Test (continuity-corrected)とFisherの正確検定 |
PAMの正確性はA群94%とB群33%で有意差(Fisherの正確検定、p=0.001)を認めた。また、LIもA群88%であり、B群53%に比較してよりよい予測性を示した(p=0.07)。 核白内障で強度近視性の強い網膜変性のある3例の長眼軸眼は、良好な網膜機能が認められた。そして、術後の視力結果も良好であった。 |
Vicary D, Sun XY, Montgomery P: Refractive lensectomy to correct ametropia. J Cataract Refract Surg 25 (7): 943-948, 1999 | IV | 屈折矯正を目的とした白内障手術を施行した138症例 Pacific Eye Center, Brisbane, Australia | 正視でない人のための屈折矯正手術としての水晶体摘出術の評価。 1994年から1997年に手術した症例を遡及的に解析 術後視力、屈折誤差、合併症。 Student's t-test | 90%以上で裸眼視力が20/40まで回復した。81.2%が20/30以上であった。屈折誤差は-2ジオプター(D)以下が93.5%、-1D以下が78.3%であった。術後合併症として網膜剥離が0.7%、眼内レンズ交換が2.8%、遅発性ブドウ膜炎0.7%、piggyback IOL 2.1%、後発白内障でYAGレーザーを必要とした症例8%、CMEや眼内炎は認められなかった。 |
Kolahdouz-Isfahani AH, Rostamian K, Wallace D, Salz JJ: Clear lens extraction with intraocular lens implantation for hyperopia. J Refract Surg 15 (3): 316-323, 1999 | IV | 遠視の強い10症例18眼。 University of Southern California School of Medicine, Los Angeles, USA | 遠視の強い症例に対する白内障手術。 Hoffer-Qで計算しシングルピース眼内レンズを挿入。 視力、屈折、眼軸長 | 術前の遠視の平均は+6.17Dであった。平均観察期間は10.5ヵ月。術後裸眼視力はすべての症例で20/50以上、中間裸眼視力は20/40以上であった。 |
Braganza A, Thomas R, George T, Mermoud A: Management of phacolytic glaucoma: experience of 135 cases. Indian J Ophthalmol 46 (3): 139-143, 1998 | IV | 水晶体融解性緑内障135眼。 Chell Eye Hospital, Vellore, India | 水晶体融解性緑内障に対する手術経過。 水晶体融解性緑内障群と通常の白内障群を比較。 症状が7日以上続く症例、眼圧コントロールの悪い症例はトラベクレクトミーを同時に行い、トリプル手術を行った89眼と白内障手術のみの46眼で比較。 Pearson's coefficient of correlation | トリプル群のほうが術後早期の眼圧の低下が得られた。 |
Mandal AK, Gothwal VK: Intraocular pressure control and visual outcome in patients with phacolytic glaucoma managed by extracapsular cataract extraction with or without posterior chamber intraocular lens implantation. Ophthalmic Surg Lasers 29 (11): 880-889, 1998 | IV | 1990年から1995年までに水晶体融解性緑内障で白内障手術を行った45症例。 VST Center for Glaucoma Care, Hyderabad, India | 水晶体融解性緑内障の眼圧と術後予後。 計画的嚢外摘出術と眼内レンズ挿入術を行った17例(グループ1)、計画的嚢外摘出術のみ行った28例(グループ2)。 眼圧、視力 paired t-test、カイ二乗検定 | すべての症例で眼圧は21mmHg以下となった。視力20/40以上がグループ1で76.5%、グループ2で60.7%であった。発症後2,3週間を経過しており緑内障性の視神経変化をきたしている症例もあった。 |