「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」厚生科学研究補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)
I.分類・疫学
文献 | Ev level | 対象患者と研究施設 | 目的と方法 | 結 果 |
Hennis A, Wu SY, Li X, Nemesure B, Leske MC: Lens opacities and mortality: the Barbados Eye Studies. Ophthalmology 108 (3): 498-504, 2001 | II | Barbados眼研究コホートを再検討し単純無作為標本により抽出した、主にバルバドス島生まれの黒人市民(40-84歳)評価の可能対象のうち、85%(3427例) | 黒人母集団において混濁型ごとに白内障と死亡率の関連性を評価すること 4年フォローアップ受診 ベースラインおよびフォローアップ受診では、面談、血圧その他の測定、スリットランプ水晶体等級評価(水晶体混濁分類システム [LOCS] IIプロトコール)による詳細な眼科検査を行った。フォローアップ時の死亡率は保健省記録から確認した。主要アウトカム基準 : 水晶体混濁はLOCSIIスコア2以上と定義した。混濁型は2つの方法で分類した : (1)1種類(皮質のみ、核のみ、後嚢下のみ)および混合混濁 ; (2)皮質、核、後嚢下のいずれかの混濁。死亡日および死因に関する情報は死亡証明から得た。 | 黒人において心血管疾患が死亡の主因であり(3.6%)、次いで悪性新生物(1.4%)であった。累積4年死亡率は水晶体型により異なり、白内障なしの3.2%から皮質混濁のみ6.0%、核のみ8.8%、混合20.9%まで増加した。混合混濁を有する患者は、コックス比例ハザード回帰分析において他の因子(年齢、男性、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、心血管疾患、糖尿病家族歴)で調整してもなお、死亡率が1.6倍上昇していた。何らかの核混濁を有する患者もまた死亡率が上昇していた(死亡率比1.5)。死亡率比は加齢とともに増大したが、60-69歳がピークであった。糖尿病合併によりさらに死亡率が上昇した : 混合混濁および糖尿病を有する患者では死亡リスクが2.7倍増大した。混合混濁あるいは何らかの核混濁を有する患者では、新生物により死亡率が上昇する傾向があった。 |
Leske MC, Wu SY, Nemesure B, Li X, Hennis A, Connell AM: Incidence and progression of lens opacities in the Barbados Eye Studies. Ophthalmology 107 (7): 1267-1273, 2000 | II | バルバドス眼疾患の参加者3427名(適格対象者の85%)。 | バルバドス眼研究における水晶体混濁の発生率と進行率。主にアフリカ起源の40歳以上の集団における、加齢性水晶体混濁の4年累積罹患率と進行率の検討。人口ベースのバルバドス眼研究の開始から4年後に、生存対象者を再検査したコホート研究。 スリットランプ検査時に、水晶体混濁分類法II(LOCSII)を用いた。累積罹患率の定義は、ベースライン時に同病型の混濁が存在しなかった対象者のうち、核、皮質、後嚢下(PSC)のいずれかの混濁(LOCSIIスコアが2点以上)の発生とした。 | 皮質白内障の発生率は、黒人の対象者が白人より約5倍高かった(年齢性別補正相対危険度= 4.7 ; 95%信頼区間 : 1.9-11.4)。黒人の集団における水晶体混濁の4年発生率は、各皮質が22.2%(20.4%-24.0%)、核が9.2%(8.2%-10.4%)、PSCが3.3%(2.7%-4.0%)であり、発生率は加齢とともに大きく上昇した。4年間の混濁の進行率は、皮質が12.5%、核が3.6%、PSCが23.0%であり、年齢による一定の傾向はなかった。女性は、男性より、皮質および核の混濁のリスクが高く(P<0.05)、核混濁の進行率が高かった。ベースライン時点におけるPSC混濁の存在により、他病型の水晶体混濁の発生率と進行率が2倍以上になる傾向があった。当初混濁が存在しなかった対象者では、単一の皮質混濁が、追跡期間中に発生した最も主要な病型であった。視力低下が、混濁の発生を伴うことが多かった。 |
West SK, Munoz B, Istre J, Rubin GS, Friedman SM, Fried LP, Bandeen-Roche K, Schein OD: Mixed lens opacities and subsequent mortality. Arch Ophthalmol 118 (3): 393-397, 2000 | II | メリーランド州Salisburyの65-84歳の住民の無作為標本2520例 | 人口ベースの高齢者コホート集団において、2年間の死亡リスクと、異なる病型の水晶体混濁との関連を検討する ; 死亡率と水晶体混濁との関連が、喫煙、糖尿病、年齢、人種、性など、水晶体混濁や死亡率との関連が知られている交絡要因によって説明できるか否かを検討する ; 水晶体混濁が健康状態の指標であるか否かを検討する ; 水晶体混濁の有無により、対象者の死因別死亡率に相違があるか否かを検討する。 開始時に、水晶体の写真撮影を行い、核型、皮質型、後嚢下型、混合型混濁の存在を確認した。教育程度、喫煙、飲酒、高血圧、糖尿病、その他の併存疾患、握力、体格指数に関する資料も同時に収集した。死亡と死因に関する2年間の追跡調査を行った。 | 核型混濁、特に重度の核型混濁と、核を含む混合型混濁は、有意な死亡の予測因子であり、体格指数、併存疾患、喫煙、年齢、人種、性別の影響とは独立であった(核混合型 : オッズ比、2.23 ; 95%信頼区間、1.26-3.95)。 |
Delcourt C, Cristol JP, Tessier F, Leger CL, Michel F, Papoz L: Risk factors for cortical, nuclear, and posterior subcapsular cataracts: the POLA study. Pathologies Oculaires Liees a l'Age. Am J Epidemiol 151 (5): 497-504, 2000 | IV | 南部フランスSeteの60-95歳の住民2584名 | 白内障と老人性黄斑変性症およびそれらの危険因子に関する人口ベースの研究 対象者の登録は、1995年6月から1997年7月の期間に行われた。 白内障の分類は、スリットランプによる標準化された水晶体検査に基づき、水晶体混濁分類法IIIに従った。本報告は、研究の第一期における断面分析の結果を示す。 | 多段階の目的変数を用いたロジスティック回帰分析では、女性(白内障手術 : オッズ比(OR)=3.03 ; 皮質白内障 : OR=1.67)、褐色虹彩(皮質、核、混合型白内障 : OR=1.61)、喫煙(白内障手術 : 現在喫煙者のOR=2.34、前喫煙者のOR=3.75)、既知の糖尿病の10年以上の罹病期間(後嚢下、皮質、混合型白内障と白内障手術 : OR=2.72)、経口ステロイド剤の5年以上の使用(後嚢下白内障 : OR=3.25)、喘息または慢性気管支炎(白内障手術 : OR=2.04)、癌(後嚢下白内障 : OR=1.92)、循環器疾患(皮質白内障 : OR=1.96)において、白内障リスクの上昇を認めた。高学歴(白内障の全病型と白内障手術 : OR=0.59)、高血圧(白内障手術 : OR=0.57)、高血漿レチノール濃度(核および混合型白内障と白内障手術 : 1標準偏差分の上昇につきOR=0.75)において、白内障リスクの低下を認めた。 |
McCarty CA, Mukesh BN, Fu CL, Taylor HR: The epidemiology of cataract in Australia. Am J Ophthalmol 128 (4): 446-465, 1999 | IV | 参加者は世帯人口調査およびオーストラリアのビクトリアに居住する40歳以上の住民を代表した階層別の無作為クラスター抽出により募集 都市部居住者 : 3271名(83%適格)。年齢40-98歳(平均59歳)、男性1511名(46%)。老人ホーム居住者 : 403名(90%適格)。46-101歳(平均82歳)、男性85名(21%)。郊外居住者1473名(92%適格)。 : 40-103歳(平均60歳)、男性701名(47.5%)。 | オーストラリアの40歳以上の集団における白内障の有病率および危険因子の探索 裸眼視力および矯正視力、人口統計学的詳細、既往歴、酸化防止剤の食事による摂取、生涯紫外線B曝露、水晶体撮影を含む臨床眼科検診。皮質混濁は16分割で測定した。皮質白内障は、瞳孔周囲の16分の4以上の混濁と定義した。核混濁はWilmer白内障グレード表によりグレード化し、白内障は4標準のうち核の標準が2.0以上と定義した。後嚢下混濁はすべて、高さおよび幅を測定して記録した。後嚢下白内障は、後嚢下混濁が1mm2以上と定義した。悪いほうの眼を分析対象とした。個別の白内障の危険因子を定量化するのに変数減少ステップワイズロジスティック回帰を用いた。 | 皮質白内障の全加重率は、白内障手術を除外した場合は11.3%(95%信頼限界9.68%、13.0%)、手術を含めた場合は12.1%(95%信頼限界10.5%、13.8%)であった。多変量ロジスティック回帰モデルにおいて残った皮質白内障の危険因子は、年齢、女性、5年以上の糖尿病、10年以上の痛風、関節炎、近視、βブロッカー服用者、そして年間平均眼紫外線B曝露の増加であった。全体として、白内障手術既往者を含めた場合、40歳以上のビクトリア住民の12.6%(95%信頼限界9.61%、15.7%)が核白内障であり、白内障手術既往者を除外した場合11.6%(95%信頼限界8.61%、14.7%)が核白内障であった。都市部ならびに郊外のコホートでは、年齢、女性、郊外居住、褐色虹彩、5年以上の糖尿病、近視、加齢性黄斑症、30年以上の喫煙歴、そして眼紫外線B曝露とビタミンEとの相互作用が核白内障の危険因子であった。白内障手術既往者を除外した場合の後嚢下白内障率は4.08%(95%信頼限界3.01%、5.14%)であったのに対し、白内障手術既往者を含む全体の後嚢下白内障率は4.93%(95%信頼限界3.68%、6.17%)であった。都市部および郊外のコホートにおける後嚢下白内障の独立した危険因子は、年齢、郊外在住、チアジド系利尿剤の使用、ビタミンEの摂取および近視であった。 |
Klein BE, Klein RE, Lee KE: Incident cataract after a five-year interval and lifestyle factors: the Beaver Dam eye study. Ophthalmic Epidemiol 6 (4): 247-255, 1999 | II | 1987-1988の国勢調査から抽出した43-84歳の4926例 | ビーバーダム眼研究での5年間での白内障発症率と生活様式 1988-1990のベースライン時と5年後(1993-1995)の観察 ウィスコンシン白内障分類を用いた白内障写真判定による程度分類。 | 右眼での白内障発症率は、核白内障が12%、皮質白内障が8%、後嚢下白内障が3%であった。 核白内障は喫煙(オッズ比 1.05、95%CI 1.01-1.09)、アルコール飲酒(オッズ比 1.01、95%CI 1.00-1.02)で、喫煙者の白内障手術施行率は高い傾向があった。 |
Lundstrom M, Stenevi U, Thorburn W: Gender and cataract surgery in Sweden 1992-1997. A retrospective observational study based on the Swedish National Cataract Register. Acta Ophthalmol Scand 77 (2): 204-208, 1999 | IV | 白内障手術患者453例 ノーランド大学病院 | スウェーデン白内障手術施行率の男女差の検討 1992年-1997年にスウェーデンで行われた白内障手術の95%について検討 | 50-89歳までのすべての年齢で、白内障手術施行率は女性>男性であった。この差は2眼目の手術で、より顕著であった。 |
Knudsen EB, Baggesen K, Naeser K: Mortality and causes of mortality among cataract-extracted patients. A 10-year follow-up. Acta Ophthalmol Scand 77 (1): 99-102, 1999 | III | デンマークのオールボー病院眼科にて1984年1月1日から1986年12月31日の間にICCEを施行した患者 | 本試験では、嚢内白内障摘出術(ICCE)施行患者の死亡率と性別および年齢が一致したデンマーク人参照母集団の死亡率との比較と、この患者と一般母集団の主要な死因を比較した。 診療記録を再調査した。 これらの患者の死亡に関する情報はデンマーク国民人口登録から得た。デンマークにおける死亡率に関する情報は公表統計から得た。 | 白内障患者の死亡率は上昇しており、SMR(標準死亡率)は1.12(95%信頼区間1.02-1.23)であった。男女とも、また検討した全死因について死亡率はわずかに上昇していた。 |
Ferrigno L, Belpoliti M, Carta A, Rosmini F, Maraini G: Influence of cataract surgery on progression of lens opacities in the fellow eye. Ophthalmology 106 (2): 232-235, 1999 | III | 加齢性白内障1399例 | 白内障手術が非手術眼の水晶体混濁におよぼす影響 5年間の追跡 LOCSII白内障分類による写真判定 | 白内障手術例での非白内障眼の水晶体混濁発症および進行は、手術非施行例と差がなかった。 |
West SK, Munoz B, Schein OD, Duncan DD, Rubin GS: Racial differences in lens opacities: the Salisbury Eye Evaluation (SEE) project. Am J Epidemiol 148 (11): 1033-1039, 1998 | IV | 1993-1995年、Salisbury眼評価(SEE)プロジェクトに登録した、メリーランド州Salisburyの65-84歳の住民のうち、代表性のある標本2520名。うちアフリカ系米国人26.4% | 異なる病型の水晶体混濁と白内障手術の有病率に関する人種差を検討すること 参加者は、包括的な眼検査を受け、水晶体の状態を記録するための写真を撮影した。少なくとも片眼における、皮質、核、後嚢下白内障(PSC)混濁の存在について、標準化された段階評価法を用いて、写真判定を行った。 | アフリカ系米国人は、白人よりも、皮質混濁を有するオッズが4倍高かった(95%信頼区間(CI) 3.3-4.8)。白人は、核混濁と(オッズ比=2.1、95% CI 1.7-2.6)、PSC混濁(オッズ比=2.5、95% CI 1.7-3.6)を有する確率が有意に高かった。白内障手術のオッズは、白人が2.8倍高かった。 |
Deane JS, Hall AB, Thompson JR, Rosenthal AR: Prevalence of lenticular abnormalities in a population-based study: Oxford Clinical Cataract Grading in the Melton Eye Study. Ophthalmic Epidemiol 4 (4): 195-206, 1997 | IV | イギリスの地域ベース疫学研究(Melton眼研究)における55-74歳の患者560名 | 母集団ベース試験においてOxford臨床白内障分類および段階評価システム(OCCCGS)によって評価された11病態の相対頻度を検討すること。 560例の両眼をOCCCGSの十進法を用いて細隙灯で評価した。対象者の有病率はロジスティック回帰および、もし存在するならば通常の誤差回帰に対する範囲で評価された。 | 白眼核散乱(WNS)、褐色化、皮質性スポーク(CS)、前嚢下混濁(ASC)、線維ひだ(FF)、水隙(WC)および核周囲の徹照下点状混濁はすべて年齢により増加した(p<0.05)。後嚢下混濁(PSC)、液胞、点状混濁(FD)および冠状混濁(CF)は年齢による有意な増加を示さなかった。各病態の有病率および平均オックスフォードスコアーはWNS(1.33)、褐色化(0.88)、CS36%(0.34)、PSC11%(0.52)、ASC2%(0.53)、FF18%(0.53)、WC17%(0.29)、徹照下点状混濁11%(1.15)、液胞59%(0.43)、FD98%(1.79)、CF39%(1.24)であった。女性でより有意に見受けられたのは冠状混濁(p<0.001)と水隙(p<0.05)であった。 |
Klein BE, Klein R, Lee KE: Incidence of age-related cataract: the Beaver Dam Eye Study. Arch Ophthalmol 116 (2): 219-225, 1998 | II | 1988-1990年に施行されたビーバーダム眼研究に参加した4926例中、追跡調査(1993-1995年)に参加した3684例 | ビーバーダム眼研究において核、皮質および後嚢下白内障の発症率を検討すること。 評価には水晶体の写真記録が含まれた。核性混濁評価には細隙灯写真が、また皮質部および後嚢下白内障評価には後方照明写真が撮影された。写真の評価判定は、訓練された評価者によりマスク方式で、ベースラインおよび追跡調査写真に同じプロトコールを用いて施行された。両評価には同じ評価者があたった。 | 核性白内障は対象者右眼の13.1%、皮質白内障は8.0%、後嚢下白内障は3.4%で発現した。右眼核性白内障の累積発症は、ベースライン時43-54歳の人の2.9%から75歳以上の人の40.0%に増加した。同様に皮質性および後嚢下白内障に対してはそれぞれ、1.9%から21.8%、1.4%から7.3%であった。年齢調整後でも、女性は男性よりも核性白内障に罹患しやすい傾向にあった。 |
Leske MC, Chylack LT Jr, He Q, Wu SY, Schoenfeld E, Friend J, Wolfe J: Risk factors for nuclear opalescence in a longitudinal study. LSC Group. Longitudinal Study of Cataract. Am J Epidemiol 147 (1): 36-41, 1998 | III | 764例 | 核白内障の危険因子の探求 4年間の追跡 LOCSIII分類を用いた白内障写真判定 | 核混濁の相対危険度は年齢が1.07、白人2.94、低学歴1.50、痛風治療薬内服2.32、喫煙1.58、白内障家族歴1.39、既存の後嚢下混濁6.67、若年からの眼鏡装用1.37であった。 |
Leske MC, Chylack LT, He Q, Wu SY, Schoenfeld E, Friend J, Wolfe J: Incidence and progression of cortical and posterior subcapsular opacities: the Longitudinal Study of Cataract. The LSC Group. Ophthalmology 104 (12): 1987-1993, 1997 | III | 水晶体混濁の早期症例対照試験における764例 | 白内障追跡試験(LSC)において、皮質部および後嚢下(PSC)混濁の発症と進行率を評価すること。 1988年まで収集されたベースラインデータにはカラースリットおよび後方照明写真を含めた。同じデータが1989-1993年の追跡調査時に収集された。ベースラインと追跡調査時の写真の変化を評価するため水晶体混濁分類システム3(LOCSIII)を用いた。また、発症と進行率を評価するためproduct-limit法を用いた。 | 追跡調査5年後の皮質部混濁、PSC混濁の発症率はそれぞれ7.7%、4.3%であった。5年後の既存皮質部混濁の進行率は16.2%で、発症率の2倍であった。既存のPSC混濁の進行率はさらに高く、追跡調査5年後には55.1%に達した。新たに発症した皮質部またはPSC混濁は加齢的に増加した。ベースライン時に両混濁が存在した場合、PSC混濁の発症もまた増加した。 |