III. 分担研究報告 |
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7. Evidence-based guideline作成に際して生じる問題点の検討 |
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厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野) 分担研究報告書 科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究 Evidence-based guideline作成に際して生じる問題点の検討 分担研究者 小山 弘 京都大学医学部附属病院総合診療部講師 |
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研究要旨 : 白内障の診療ガイドラインの策定に携わることで、Evidence-based practice guideline作成に際して生じる問題点を明確にし、その問題点の解決を図った。
外科的治療が主体となる白内障であってもEvidence-based guideline作成は可能であった。
ガイドライン作成作業開始時に、Standard、Guideline、Optionの差異、患者アウトカムの意味について、作成者の間で確認しておくことの重要性が認識された。
また、いくつかの分野で質の高いエビデンスが欠如していて、エビデンスを得る必要性の高い分野の同定と、そのエビデンスを得るための臨床研究の必要性が認識された。
更に、治療、診断以外の勧告に関するエビデンスをレベル付けするシステムを標準化する必要がある。 |
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A. 研究目的 |
Evidence-based practice guideline作成に際して生じる問題点を明確にし、その問題点の解決を図る。 |
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B. 研究方法 |
白内障の診療ガイドラインの策定に携わることで、Evidence-based practice guideline作成の現場で実際に生じる問題点を同定、その問題点を解決するために各種文献やインターネット上に公開されたEvidence-based medicineに関連した機関の資料を検索、検討する。 |
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C. 研究結果 |
1.分類・疫学
白内障の診断・分類は確立していたが、その分類方法が患者アウトカムを改善するかどうかのエビデンスはなく、勧告を行うことはできなかった。
有所見率、発症率に関してはエビデンスのレベルはCentre for Evidence-based Medicine, Oxfordでも作成されておらず、レベル付けを行うことができなかった。
2.危険因子
危険因子に関しては、Centre for Evidence-based Medicineにおいてもエビデンスのレベル付けはなされておらず、今回は治療・予防/害/病因のランク付けを流用した。
その結果、ランダム化比較試験が困難であることから、質の高いエビデンスはほとんど存在しなかった。
しかし、質の良い観察研究は多数存在した。日本国内で得られたエビデンスは少数であった。
3.術適応と視機能
手術適応に関するエビデンスのレベルを策定していなかった。
治療に関するエビデンスのレベルを流用することにより、手術適応決定において遠距離視力のみを使うべきではないこと、コントラスト感度を測定すること、自覚症状を評価すること、のエビデンスをレベル付けし、グレードを付けた勧告とした。
しかし、どの検査を用い、どの値を手術適応の目安とするかについては、エビデンスも、エビデンスをレベル付けする方法も欠如していたため、勧告を行うことができなかった。
4.手術
質の高いエビデンスが比較的豊富に存在していた。
眼内レンズの材質・形状など、比較的急速に進歩することが予想される領域において、勧告を行うことの困難さが明確となった。
現時点でのエビデンスに基づいていることを明示すること、改訂計画を設定しそれを遵守することが解決策として合意された。
また、術前の洗浄液に消毒薬や抗菌薬を使用するか否かに関してsurrogate outcomeである細菌数の減少を示した研究があったが、患者アウトカムを明らかにしたエビデンスがないことから、勧告として取り上げないことで合意された。
5.糖尿病白内障
危険因子に関してのレベル付けはなされておらず、治療・予防/害/病因や予後におけるランク付けを流用したが、このレベル付けはかなりの困難を伴なった。
また、糖尿病患者に特有の術式が存在するかについては、質の高いエビデンスがなく、勧告を行うことが困難であった。
6.薬物療法
本来もっともランダム化比較試験の行いやすい分野であるにもかかわらず、質の高いエビデンスが欠如していた。 |
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D. 考察 |
薬物療法よりもランダム化比較試験を行うことが困難であると思われている外科的治療が主体となる白内障であっても、Evidence-based guidelineを作成することは可能であった。
しかし、ガイドライン作成に際し、いくつかの問題点が明確となった。
まず、ガイドラインを作成する側、使用する側にとっても、Standard、Guideline、Optionの間に存在する概念上の差異を理解することが必要であると考えられた。
また、作成者側にもEvidence-based Medicineにおけるエビデンスについての混乱が認められた。
この領域でのエビデンスとは、患者アウトカムを改善するか否かを臨床疫学的手法に則って証明したものであるということを、作業開始の最初に確認しておくことの重要性が認識された。
Evidence-based Guideline作成に際してもっとも重要とも言えるエビデンスのレベル付けに関しての問題が生じた。
治療、疾患を診断するための検査以外に、勧告の対象となりうる患者に対する行為には、重症度診断のための検査や手術適応決定がある。
これらに関するエビデンスのレベルを、治療および疾患診断におけるエビデンスのレベルと整合性を持った形で策定する必要がある。
またEvidence-based guideline作成の優先順位を決定するためには、各疾患の社会に与えるburdenを参考にする必要があるが、このburdenの推計には、prevalenceやincidenceに関するエビデンスを要する。
従って、このincidenceやprevalenceに関するエビデンスのレベル付け方法を定める必要があると考えられた。
また、危険因子に関する研究のデザインに対するレベル付けが存在せず、治療・予防/害/病因のレベル付けを流用したが、これは必ずしも理想的な解決策ではないように感じられた。
更に、いくつかの分野で質の高いエビデンスの入手が困難であった。
例えば、術前に消毒薬や抗菌薬の局所投与をするべきか否かについて、患者アウトカムをエンドポイントとした研究はなく、この問題に関してエビデンスを作り出すことが必要であると考えられた。
一方、内服薬や点眼薬に関しても質の高いエビデンスが欠如していたが、手術療法という有効な治療方法が存在することと、現状での内服薬や点眼薬に画期的な効果を期待できないことを合わせると、これらの治療に関する大規模なランダム化比較試験が必要か否かは、慎重な検討を要すると考えられる。 |
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E. 結論 |
外科的治療が主体となる白内障であってもEvidence-based guidelineを作成することは可能である。
しかし、いくつかの分野で質の高いエビデンスが欠如していて、エビデンスを得る必要の高い分野を同定し、そのエビデンスを得るための研究が必要である。
また、治療、診断以外の勧告に関するエビデンスをレベル付けするシステムを標準化する必要がある。 |
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F. 健康危険情報 |
なし |
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G. 研究発表 |
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H. 知的財産権の出願・登録状況 (予定を含む) |
1. | 特許取得 なし | 2. | 実用新案登録 なし | 3. | その他 なし |
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