「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」厚生科学研究補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)

 
III. 分担研究報告
 
3. 視機能から見た白内障手術適応
 
厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)
分担研究報告書
科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究
視機能から見た白内障手術適応
分担研究者  北原 健二  東京慈恵会医科大学眼科教授
 
研究要旨 : 視機能からみた白内障手術適応のガイドラインを策定する目的で、1987年〜2001年に刊行された英文および和文論文の中から、科学的根拠に基づいた質の高い文献を選択し、その内容を吟味した。その結果、通常行われている遠見視力の数値のみでは、白内障患者の視機能障害を正しく把握することはできず、他の視機能検査や自覚的な視覚障害の把握が手術適応を決定する上で重要であることが明らかにされた現時点での診療ガイドラインを作成する。
 
A. 研究目的
白内障に罹患することによって生じた視機能障害を正確に把握するための検査法を検討するとともに、科学的根拠に基づいた文献を吟味することによって、白内障手術の適応基準となりうる視機能障害の種類と程度を明確にする。
 
B. 研究方法
白内障の診断および予後に関する海外および本邦の文献をPubMedおよび医学中央雑誌から収集し、その中から視機能に関する質の高い文献を選別した。 視機能障害を、視力障害、コントラスト感度障害、グレア障害、自覚的視覚障害、その他の障害の5項目に分類し、アブストラクト・フォーム、アブストラクト・テーブルを作成した。 白内障における視機能障害のエビデンスと、そこから導かれる手術適応の基準について検討するとともに、視機能障害以外の理由で白内障手術適応となる事例についても探索した。
 
C. 研究結果
視力の項では、科学的根拠に基づく質の高い論文9編について検討した結果、白内障の視機能障害の程度は、単に遠見視力の数値のみでは判断できないことが明確に示された。 つまり、白内障手術の時期を決定するには、視力以外の視機能の障害程度を、種々の検査で正確に把握することが必要である。 コントラスト感度の項では、9編の質の高い論文を検討した結果、視力が良好な白内障患者の手術時期を決定する際には、コントラスト感度を測定して、機能障害の程度を把握することの重要性が認識された。 グレアの項では、選択された10編の論文を吟味した結果、水晶体に混濁が進行している患者では、グレア光下での視力およびコントラスト感度が有意に低下しているというエビデンスがみられた。 しかし、視力が良好な白内障患者の手術時期を決定する基準としてグレアの程度を測定することについては、術前のグレアの程度と手術後の満足度との間の相関関係が証明されていないため、あまり重視されていないことが分かった。 自覚的視覚障害の項では、術前の視覚障害と術後の満足度を比較検討した5編の論文を選択した。 患者が白内障手術を決断する上で重視する視機能障害は、性別、年齢によって異なっているという結果が得られており、患者の生活に直結した視機能障害を、アンケート形式で質問することの重要性が述べられていた。 その他の障害では、白内障患者の視野に関する論文を2編検討した結果、白内障患者では、視野全体に感度の低下があることが分かった。 また、視機能が良好であっても、眼圧低下や屈折矯正を目的として水晶体摘出術が必要なことがあることが示されていた。
 
D. 考察
白内障の視機能に関する文献は多数みられるが、われわれが必要とした科学的根拠に基づく質の高い論文は数少なかった。 これらの文献のみでは、種々の視機能検査について、そのエビデンスを正確に収集することは不可能である。 今後、この分野におけるEBMに則した臨床研究を促進させる必要があると思われる。
 
E. 結論
白内障に罹患したことによる患者の不都合は、遠見視力の低下のみではない。 白内障患者の視機能障害を正しく把握するためには、視力以外の視機能検査や自覚的な視覚障害の把握が重要であり、これらの結果を総合して手術適応を決定する必要がある。
 
F. 研究発表
1.論文発表
なし
2.学会発表
なし
 
G. 知的所有権の取得状況
1.特許取得
なし
2.実用新案登録
なし
3.その他
なし

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す