「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」厚生科学研究補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)

 
II. 総括研究報告書
 
D.考察
 
科学的根拠に基づいた診療ガイドラインを作成するためにはいかに優秀な文献を選択し、正しく評価することから始まる。 医療は日々進歩を続けているので時代に合った分析が行われて過去の成績への評価が変わることがある。 常に新しい根拠のある成績を基にした文献を検索しなければならない。 一方では歴史的に普遍的事実として評価される文献の採用を忘れてはならない。 今回の研究に際して白内障に関する臨床研究の刊行数をCochrane Controlled Trial Register で調査した結果、1987年から2001年2月の範囲で検索することとし、絶対的に必要とされる文献はそれ以前にさかのぼって採用した。 その結果PubMed、Cochrane Library、医学中央雑誌から総計7246編の論文が検索され、最終的に396編が採用され評価の対象となった。 臨床研究には計画、実行、統計学的解析、内容の解釈そして報告のステップがある。 臨床研究の基本となる研究デザインはrandomized controlled trial (RCT:ランダム化比較試験)である。 我々の研究でもまずRCTの文献を検索することから始めた。 研究課題によってはRCTが実行出来難い場合もあることから研究レベルを下げざるを得ない事情がある。 結果的に外国文献が多く採用された。ガイドラインを日本で臨床に活用するには日本語文献を採用すべきだと考える。 しかし、残念ながら、RCTが少ない。 「研究施設が1施設」「対象が少ない」「観察が短期間」「統計学的手法が明記されていない」「結果、結論が明確でない」など採用できない欠点が認められた。 我々は文献をまとめる基本的手法を守っていないことを反省すべきである。 今後、臨床研究組織を作って積極的にRCTを試み、文献報告をする必要性を痛感させられた。
研究課題に関してエビデンスを集積したが、「白内障の診断」「白内障危険因子」は課題の内容から勧告することは難しいと判断し、研究レベルの判断にとどめた。
白内障診断は日本白内障学会で過去に学会シンポジウムとして議論を重ねたが結論に至っていない。 今回、皮質、核、後嚢下の3主病型を分類の基本としたことは有意義なことである。 各種の分類法が報告され、その再現性に問題はないものの日常診療で一般的に使用できる分類法であってほしい。 白内障研究者だけが使う分類法であってはならない。 白内障は高齢者で発生することは周知のことであるが、60歳代で有所見率が66%〜83%であることが分った。 混濁の進行率も米国では5年間の追跡調査で明らかにしている。 多施設による長期の研究に対して我国も組織化しなければならない。
白内障危険因子として多数の因子がリストアップされた。 加齢性白内障は加齢を基に複数の因子が絡んで発生、進行すると考えられる。 単独の因子で生じるものではないので危険因子として特定することは難しい。 しかし、強い危険因子には、糖尿病、ステロイド薬、放射線などがある。 糖尿病は白内障に限らず、網膜症や角膜潰瘍などを生じやすいことから眼科的検査を要する。 ステイロド薬の副作用として白内障発生については周知の事実であるが、ステロイド薬が原疾患の治療に欠かせないことから使用を中止する勧告はできない。 使用に際しては水晶体の観察を勧める。紫外線が水晶体に吸収されて混濁を生じることは生化学的に証明されている。 臨床研究においても白内障のリスクを高めることが言われている。 しかし、危険因子となる曝露量はわかっていない。 日常から紫外線カットメガネや帽子の着用など曝露を減らす工夫は必要である。 喫煙量が多いほど白内障発生危険率が上昇している。対照者が非喫煙者であってもその生活様式や環境が異なると喫煙だけの因子と限定し難い。 アルコール量についても同様であって、アルコール量が多いとリスクとなることが報告されているが、果たして因子としてアルコール単独に限定されるのか疑問である。 抗酸化剤の服用が白内障発生を抑制、あるいは血中成分で抗酸化剤が少ないとリスクを高めるとされている。 しかし、コントロールの設定に疑問があってリスクとして決定的でない。 これらのリスクに対して戦略を立てるにしても幼少時からの対策が必要になるので、成人ではやがて水晶体の加齢現象が始まって白内障発生抑制につながらない。
白内障手術適応と視機能では視力だけで手術適応は決められない。 視力が良くてもコントラスト感度の低下やグレア難視度の進行、そして視野にも影響がでることから水晶体混濁の観察のみならず、視機能の評価が白内障患者の管理に欠かせない。白内障手術については時代的背景、術者の技量、患者・家族の理解度などで手術適応や術式の選択が決まる。 白内障手術は眼局所や全身に障害がなければ95.5%で0.5以上の視力を得る程に術式が確立されてきた。 現在は、小切開創手術+眼内レンズ挿入術が主流であるが、切開創が少し大きい嚢外摘出術であっても、あるいは嚢内摘出術であっても症例のもつ眼の性状にとって適しているならそれらの術式を採用する。 症例にとって最上の方法は何であるか常に考えるべきである。 術中および術後合併症には多種類があって、いずれも対処の仕方によっては視機能を悪化させる。 早期の発見と迅速な対応が予後に影響する。 手術の実施に当たっては手術の意義、術式、眼内レンズ挿入術、眼内レンズ、術後の視機能、後発白内障などについてインフォームドコンセントをしっかりと行う必要がある。糖尿病白内障は糖尿病で高率に発生し、白内障の形態や進行に特異性がある。 混濁には皮質型と後嚢下型が多く、進行性であるので網膜症の管理にとってやりにくいことがある。 白内障手術は網膜症を進行させる。術後炎症は増殖型糖尿病網膜症があると有意に強い。 また、糖尿病白内障では術後に前嚢収縮や後発白内障の発生が多いことから血糖コントロールのみならず、局所の消炎など積極的な対応を要する。 加齢に加えて糖尿病があると白内障が有意に発生し、視力障害をより進行させるので関連他科医との連携が大切である。薬物療法は、白内障治療薬として認可されている薬物や臨床試験を試みた薬物による治療が行われているのが現状である。 成績が主に自覚検査の視力のみによる判定であったり、客観性に欠け有効性を正しく証明するための再現性や評価方法が不足している。 反面、薬効のないことを明らかにした文献もないので、使用にあたっては正しいインフォームドコンセントが必要と考える。 薬物療法は、薬効の判定基準をしっかりとしてランダム化比較試験を行なうことで今後、新しい展開がなされると考えられる。 ぜひランダム化比較試験を大規模に行なってほしい。

 

 
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