(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説― |
9.メタアナリシス
4)結果
(3)出血性胃潰瘍に対する内視鏡的治療
Sacksら13)の1990年に発表されたメタアナリシスは25の論文を採用し,消化性潰瘍2,139例を対象にしたメタアナリシスであり,うち胃潰瘍は総数765例以上である。投薬その他の保存的治療と内視鏡的治療を比較した結果は消化性潰瘍全体としてしか報告されていないが,出血の再発あるいは出血の持続を判断指標とした場合,何らかの内視鏡的治療を行った場合,Absolute Risk Reduction(ARR)は0.27±0.15(95%CI,Relative Risk Reductionは0.69)であり,外科手術に至ることを判断指標とした場合,ARRは0.16±0.05,全体的死亡を判断指標とした場合,ARRは0.03±0.02であった。すなわち,出血性消化性潰瘍に対する内視鏡的治療は明らかに有効であることが示された。用いられた内視鏡的介入はさまざまで,Monopolar electrocoagulation,Bipolar electorocoagulation,Neodymium-YAG laser photocoagulation,エピネフリン(Epinephrine)注入,アルコール注入,エピネフリン+ポリドカノール(Polidocanol)の注入などである。これら治療手技の間の差については明らかでなく,全体として有効であることが示されている。
Rollhauserら14)の2000年に発表されたメタアナリシスは,出血性胃潰瘍を対象に,アルコール(エタノール),エピネフリン,硬化剤(Sclerosant),トロンビン(Thrombin),フィブリン糊(Fibrin glue),単独および組み合わせ,Thermal,Laserなどの内視鏡的介入を投薬と保存的治療を対照に,再出血を判断指標として解析したものである。アルコール対対照(4つのRCT,総対象者数140名/139名):ARR=21%(95%CI:4.5〜38%),NNT(Number needed to treat)=5(3〜22)。エピネフリン+硬化剤対対照(6つのRCT,総対象者数260名/237名):ARR=32%(95%CI:21〜42%),NNT=3(2〜5)。Thermal,Laser治療についてもNNTはそれぞれ4(3〜5),9(5〜86)。エピネフリン単独と何らかの硬化剤の組み合わせでは有意差なし。トロンビン,フィブリン糊はエピネフリンあるいはポリドカノールと有意差なし。ThermalとInjectionでは有意差なし。ThermalとInjectionの組み合わせはInjection単独と差がない。したがって,内視鏡的治療がいずれも出血性胃潰瘍に対して,有効であることを示している。
出血性胃潰瘍に対しては,アルコール,エピネフリン,何らかの硬化剤の注入,熱凝固,レーザー照射などのうち,いずれかを用いた内視鏡的治療により,ARR20〜30%程度,NNTにして3〜5程度の治療効果が得られる。勧告のレベルはAである。どの手技が最も有効性が高いかは今後の検討課題である。
また,Gisbertら15)は,出血性消化性潰瘍を対象に7つの研究をまとめ,除菌治療を非除菌胃酸分泌抑制療法で維持療法を行うものと行わないものとを比較した。7つの試験(578例)のメタアナリシスでは,除菌治療群の再出血率は2.9%で,非除菌療法で維持療法を行わない場合は20%であった(OR=0.17,95%CI:0.10〜0.32)。研究間の異質性は認められなかった。NNTは7(95%CI:5〜11)であった。3つの研究(470例)を対象にしたメタアナリシスでは,除菌治療群の再出血率は1.6%で,非除菌療法で維持療法を行った場合は5.6%(OR=0.25,95%CI:0.08〜0.76,NNT=20,95%CI:12〜100)であった。再出血時にNSAIDを服用していた例を除いた亜群解析では,除菌群での再出血は2.7%(最初のメタアナリシス),0.78%(2つめのメタアナリシス)であった。除菌成功例のみでは,再出血率は1.1%で,NNTは7から6に低下した。いくつかの例では,H. pylori 再感染が再出血の原因と思われた。除菌治療は抗分泌薬(維持療法をする場合もしない場合も)の治療に比べ,再出血の防止効果が高いことが判明した。したがって,すべての消化性潰瘍患者は,H. pylori 感染の検査を行い,陽性の場合には,除菌を行うべきであると報告した。
Levineら16)は,出血性消化性潰瘍を対象に潰瘍の再出血,手術,死亡をアウトカムとしてH2RAの静脈内投与をプラセボと比較した。H2RAの静脈内投与は出血性十二指腸潰瘍に対しては,潰瘍の再出血,手術,死亡を変えなかった。出血性胃潰瘍に対しては,これらアウトカムにおいて,小さいが有意な減少が認められた。絶対リスク減少はそれぞれ,7.2%,6.7%,3.2%であった。したがって,H2RAの静脈内投与は出血性十二指腸潰瘍に対して効果がない。出血性胃潰瘍に対してはわずかなベネフィットがあるかもしれないが,PPIがより強い胃酸分泌抑制作用があることから,今後出血性潰瘍においてもより効果が高いかもしれないと報告した。
Gisbertら17)は,出血性消化性潰瘍を対象に,PPI(オメプラゾール,ランソプラゾール,パントプラゾール)をH2RA(シメチジン,塩酸ラニチジン,ファモチジン)と比較した11試験をまとめた。持続性あるいは再発性出血がPPI治療群で6.7%(95%CI:4.9〜8.6),H2RA治療群で13.4%(95%CI:10.8〜16)認められた(OR=0.4,95%CI:0.27〜0.59)(同質性試験カイ二乗検定18,P=0.09)。手術は,PPI治療群で5.2%(95%CI:3.4〜6.9),H2RA治療群で6.9%(95%CI:4.9〜8.9)認められた(OR=0.7,95%CI:0.43〜1.13)。それぞれ死亡率は,1.6%(95%CI:0.9〜2.9)と2.2%(95%CI:1.3〜3.7)であった(OR=0.69,95%CI:0.31〜1.57)。5試験では,ボーラス注射の効果をみており,6%(95%CI:3.6〜8.3)と8.1%(95%CI:5.3〜10.9)であった(OR=0.57,95%CI:0.31〜1.05)。高リスク患者(Forrest Ia,IbおよびIIa)ではPPI治療群で13.2%(95%CI:7.9〜8),H2RA治療群で34.5%(27〜42%)で持続性出血あるいは再発性出血が認められた(OR=0.28,95%CI:0.16〜0.48)。内視鏡治療を受けなかった群では,それぞれ4.3%(95%CI:2.7〜6.7)と12%(95%CI:8.7〜15)であった(OR=0.24,95%CI:0.13〜0.43)。内視鏡治療を受けた患者ではその差が縮まり,10.3%(95%CI:6.7〜13.8)と15.2%(11.1〜19.3%)であった(OR=0.59,95%CI:0.36〜0.97)。さらに,1つの外れ値の研究を除外すると,有意差は認められなかった。PPIはH2RAよりも,効果が高い。この差は,内視鏡治療を受けない場合により大きい。このベネフィットはForrest Ia,IbまたはIIaの患者で同様かまたはより高い。しかしながら,確実な結論を引き出すためには,データは不十分で,さらなる比較研究が必要であると報告した。したがって,この結果はステートメントには採用しなかった。