(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-

 
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
7.NSAID潰瘍
7-2予防

3)ステートメントの根拠
(1)ミソプロストール

NSAIDは予防薬を併用しない場合,高率に胃潰瘍を引き起こす。その頻度は4〜43%である。NSAIDによる胃潰瘍の予防に関して最もその有効性が検討されている薬剤は,プロスタグランジン(PG)E1製剤であるミソプロストールである1),2),3),4),5),6),7),8),9),10),11),12)。ミソプロストールの有効性は多くのランダム化比較試験(RCT)およびメタアナリシスで証明されている1),2),3),6),7),8),9),10),11),12),13)。しかし,ミソプロストールはさまざまな消化器系の副作用を同時に起こす。特に下痢の頻度は高く,200µg1日4回を用いた場合,プラセボと比較して有意に多数の患者に下痢を引き起こすことが報告されている5),6),8),10),13)。ミソプロストールは200µg1日2回から3回でも有意にNSAIDによる胃潰瘍を予防することから,低用量の併用が望ましいと考えられる1),2),10),11),12)。NSAIDに低用量アスピリンを併用して用いる頻度が増加しているが,この場合ミソプロストールは,潰瘍の既往がある再発の高危険群でプラセボに比較し有意に潰瘍再発を予防する。有効性はPPIと同等である14)

(2)酸分泌抑制薬
胃酸分泌の抑制はH. pylori 関連潰瘍では治癒・再発の予防にきわめて有効である。NSAIDによる胃潰瘍の発生に関しては強い酸分泌の抑制が必要で常用量のH2受容体拮抗薬(H2RA)が有効であるという根拠はなく15),16),17),18),19),20),21),この結果はメタアナリシスからも支持される13)。予防的に使用する場合は高用量のH2RA22)またはPPI23),24),25)の使用はメタアナリシスの結果13)からも妥当と考えられる。PPIの有効性はH. pylori 非感染者26)やNSAIDと低用量アスピリンを潰瘍の既往がある患者に併用した場合にも認められる14)。PPIの予防効果は最近のジクロフェナクに対する検討でも確認されている27)。PPIの場合,ミソプロストールにみられるような副作用は認められない。NSAID潰瘍の予防におけるミソプロストールとPPIの有効性の比較ではPPIの有効性が高いという報告24),26)がある一方,ミソプロストールがより有効とする報告28)もある。下痢を中心とした副作用の比較ではいずれもPPIが少なく,またミソプロストールは妊婦には禁忌である。

(3)その他の抗潰瘍薬
スクラルファートに関しては,プラセボ29)やミソプロストール30)との比較を行ったRCTでNSAIDによる胃潰瘍の予防効果は示されておらず,予防を目的として併用することは支持されない。その他の制酸薬や防御因子増強薬に関してもその有効性を示す根拠はない。

(4)H. pylori 除菌
NSAIDによる胃潰瘍の発生予防を目的としたH. pylori 除菌の有効性に関しては,NSAID開始予定者でH. pylori 感染者を対象としたRCTで効果が示されている31),32)。ジクロフェナクを用いて除菌とPPIの予防効果を比較した検討では,両者は同等の予防効果があるが症状に対しては酸分泌抑制が必要であると結論されている27)。しかしながら,NSAID継続投与を行っている患者ではH. pylori 除菌により胃潰瘍の治療が遷延し,治癒後の潰瘍再発にも影響を与えないことが指摘されている33)。その後の検討でもNSAIDの継続投与例では有意の予防効果はない,またはPPIの方が有効と報告されている34),35)。これらの報告を集積したメタアナリシスでは,1 NSAID投与者全体ではH. pylori 除菌によって潰瘍の発生は減少する,2 特にNSAID開始予定者(NSAID-naïve)では顕著である,3 H. pylori 除菌はPPIに比較して予防効果は劣ると結論されている36)
低用量アスピリンによるNSAID潰瘍に関しては他のNSAIDと異なりRCTでH. pylori除菌による出血の再発予防効果が示されている35)。さらに,H. pylori 除菌後に発生する低用量アスピリンによる潰瘍再発は,PPIによって有意に抑制されることが示されている37)。したがって,低用量アスピリンによるNSAID潰瘍の治癒後の再発防止に関しては,H. pylori 除菌に加えてPPIの投与が推奨される。この詳細は治療の項を参照されたい。

(5)COX-2選択的阻害薬
NSAIDは,PG合成酵素であるシクロオキシナーゼ(COX)を阻害することにより薬理作用を発揮すると考えられている。COXは常時発現しているCOX-1と刺激により誘発されるCOX-2に分類されるが,胃粘膜の恒常性の維持にはCOX-1が,炎症の発生にはCOX-2が重要であるとの考えからCOX-2選択的阻害薬が開発された(図11)。欧米より関節リウマチ患者を中心に,炎症の抑制と胃粘膜障害に関してCOX-2選択的阻害薬と従来のNSAIDとのRCTが報告されている。COX-2選択的阻害薬であるセレコキシブとロフェコキシブは,炎症の抑制に関しては従来のNSAIDと同等で胃潰瘍の発生は低率であった38),39),40)。その後の検討でも,ロフェコキシブ41),42)のみならずバルデコキシブ43),44),ルミラコキシブ45),46),エトリコキシブ47)でも報告されている。
また,従来のNSAID+PPIの併用とCOX-2選択的阻害薬を比較した場合,同等に潰瘍の再発48)や再出血49)を完全ではないが予防すると報告されているが,リスクの高い対象では必ずしも潰瘍再発は予防できないとの知見もある50)。COX-2選択的阻害薬と低用量アスピリンを用いた場合の潰瘍発生は,従来のNSAIDと変わらないことも報告されている51)
これらの報告からは,COX-2選択的阻害薬はNSAID潰瘍予防の選択肢として有用と考えられるが,最近このクラスの一部の薬剤(ロフェコキシブ)の中長期的な使用で心筋梗塞などの心血管イベントが増加することが報告された52),53),54)。しかし,通常のNSAIDにも心血管イベントのリスクを増加させる可能性が否定されていないため,米国ではNSAIDの添付文書に心血管リスクの増加の可能性が記載されている。この事項についてはFDAのホームページにアクセスされたい(http://www.fda.gov/fdac/departs/2005/205_upd.html#nsaid)。
わが国においては,COX-2選択的阻害薬であるセレコキシブが関節リウマチ,変形性関節症を適応として2007年3月16日に保険適用となり,6月12日に発売された。なお,セレコキシブの添付文書には「外国において,COX-2選択的阻害薬等の投与により,心筋梗塞,脳卒中等の重篤で場合によっては致命的な心血管系血栓塞栓性事象のリスクを増大させる可能性があると報告されている」との警告が記載され,冠動脈バイパス再建術の周術期患者では禁忌になる。

図11 PGの合成経路
図11PGの合成経路

 

 
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