(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説― |
3.内視鏡的粘膜切除術後の潰瘍
3)ステートメントの根拠
内視鏡的粘膜切除術後潰瘍の検索式で検索された総文献数は126編で,ランダム化比較試験(RCT)はこのうち4編認められ,臨床的検討が行われていたRCTの2編を採択し,検討した。
エビデンスとして採用した文献は内視鏡的粘膜切除術後潰瘍の薬物療法に関する2編のみであった。Yamaguchi1)らは内視鏡的粘膜切除術を行った57症例の潰瘍治療をファモチジンとオメプラゾールの2群にランダムに分けて出血率,潰瘍の大きさや経費について検討している。ファモチジン群(28例)では術当日から2日間ファモチジン20mgを2回静脈投与し,その後20mgを1日2回内服,オメプラゾール群(29例)では2日間オメプラゾール20mgを2回静脈投与し,その後20mgを1日1回内服としている。出血はファモチジン群で18%,オメプラゾール群で14%と差はなく,術後30日,60日の潰瘍の大きさも差を認めなかった。Yamaguchiらは,ファモチジンで差を認めなかった理由として,内視鏡的粘膜切除術後潰瘍は消化性潰瘍に比べ治癒しやすいこと。PPIに比べH2RAの胃酸分泌抑制効果の発現は早いため,術後24時間以内の出血が多い内視鏡的粘膜切除術後潰瘍の治療にH2RAの投与は向いていると考察している。
Leeら2)は,内視鏡的粘膜切除術後潰瘍に対するPPIの投与期間を調べる目的で,内視鏡的粘膜切除術を行った69症例の潰瘍治療を術後よりオメプラゾール40mg,12時間おきに3回静脈内投与した後,ランダムにオメプラゾール(20mg/日)を7日間内服させた群(26例)とオメプラゾール(20mg/日)を28日間内服させた群(34例)に分けて,潰瘍縮小率,潰瘍ステージ,潰瘍に起因する症状を比較検討している。成績として,すべての評価項目に有意差を認めなかったと報告している。Leeらは内視鏡的粘膜切除術後潰瘍の治療にPPIを用いる場合は使用期間を短くすることを推奨しているが,さらなる追試が必要であるとも述べている。本文献は費用効果の面では優れた成績であるが,内服治療を1週間へ短縮するには,多くのRCTや大規模なトライアルに基づく根拠が必要であり,診療指針には載せなかった。
内視鏡的粘膜切除術後潰瘍の出血に関してレベルIII以上のエビデンスは見いだせなかった。一般に,これらの合併症に対する治療は胃潰瘍に準じて行われている。