(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-

 
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
2.出血性潰瘍診療指針
2-1内視鏡的治療

6)解説

胃潰瘍に限定された内視鏡的治療のRCT以上の文献は皆無であったため,ガイドラインを作成する上でメタアナリシスを多く取り入れることで対応した。また,メタ解析では多くの文献を収集する必要があり,症例数が60例に満たない文献もRCTであれば採用した。
上部消化管出血の主症状は,黒色または鮮血の吐血である。これに加えて1 経鼻胃管より血性の胃内容が引ける23),38)2 タール便が証明できる9),30),39)3 ショック症状(収縮期血圧が100mmHg未満かつ脈拍数が100回/分を超える)を呈する2),23),40),41)4 12時間以内に輸血を必要とする4),9),23),40),のいずれか認められる場合は上部消化管出血が強く疑われる。
ショックまたは大量の出血のある患者では補液や輸血等の緊急処置を行って循環動態を安定させてから緊急内視鏡検査を行う3),10),26),38)
出血性潰瘍に対する内視鏡的止血治療は通常の内科的治療に比べ,初回止血および再出血の予防1),2),3),4),5),6),7),8),9),10),11),12),13),緊急手術1),2),3),4),7),8),9),10),11),12),13),35),36)や死亡1),2),3),4),5),6),7),8),10),11),12),13),36)の面で有意に優っている。また,潰瘍の出血状態からみると,活動性出血や非出血性の露出血管を有する例で内視鏡的治療はきわめて有効であり,よい適応である1),2),3),4),5),6),7),8),10),12),13),14),15),16)
内視鏡的止血治療として高周波凝固法,レーザー照射法,ヒータープローブ法,エピネフリン局注法,エタノール局注法などが行われているが,初回止血および再出血の予防効果に差はみられなかった6),9),18),19),20),21),22),23),24),25)。以上の成績は1990年にSacksら42)が25文献(2,139例)を用いたメタアナリシスの結果と同様であった。
Kahi43)らは,血餅付着の出血性潰瘍に対する内視鏡的治療法と非内視鏡的治療法の比較をメタアナリシスし,報告している。RCTの6文献(2文献は会議録)を用いて解析しているが,血餅付着の潰瘍に内視鏡的治療を施すことで非内視鏡的治療法に比べ再出血のリスクが0.35(95%CI:0.14〜0.83,会議録を除いた解析)と有意に低いと報告した。これに従えば,血餅付着の潰瘍(改変Forrest分類のIIb)にも内視鏡的治療を施さなければならなくなる。しかし,メタアナリシスで扱われた4文献146例(会議録を除く)は2002〜2003年の短い期間に公表されたものであり,あえて古い時代の文献は除外されている。また,非内視鏡的治療法にプロトンポンプ阻害薬(PPI)の経静脈内投与を採用していたのは1文献あり,この文献の成績は他に比べて薬物療法のみを受けた患者の再出血率が著しく低い値であった。前述した成績は報告年代を限らず解析したものであるが,IIb(潰瘍底に血餅付着のみ)では再出血のオッズ比0.52(0.26〜1.04)と有意差を認めていない。また,出血性潰瘍の薬物療法の主体が本国ではPPIの静脈内投与になっていることを考えると,血餅付着潰瘍に対するアプローチはさらなる検討が必要であると考えられる。
近年,異なる内視鏡的止血治療を比較したRCT文献で成績に差が認められる報告が散見されるようになった。検索したRCT文献で,初回止血または再出血に関して差が認められた報告が8編あり,クリップ法の報告が3編含まれていた。クリップ法単独と他の内視鏡的治療を比較した試験は,これらを含めて5論文に認められた。そこで,5論文を用いてメタアナリシスを行った30),31),32),33),34)。その結果,クリップ法は再出血の予防効果に優れていた。ただし,クリップは手技が他の止血法に比べ煩雑であること,潰瘍の観察が接線方向となる場合や線維化が進行した潰瘍の初期止血には向かないことがこれらの論文でも述べられているように,クリップ法はすべての出血性潰瘍に有用な方法ではない。
エピネフリン局注に引き続き,他の内視鏡的治療を追加する効果に関するメタアナリシスの論文が2004年にCalvetら44)によって報告された。RCT16文献(1673例)を用いたメタアナリシスである。エピネフリン局注に引き続き他の内視鏡的治療を追加する方法は,エピネフリン局注法単独に比べて,持続再出血率を18.4%から10.6%に減少させた(Peto odds ratio:0.53,95%CI:0.40〜0.69)。また,緊急手術を11.3%から7.6%(OR:0.64,95%CI:0.46〜0.90),死亡率を5.1%から2.6%に減少させた(OR:0.51,95%CI:0.31〜0.84)。しかし,サブアナリシスにおいて両群は初期止血に差はなく,露出血管例や計画的に内視鏡による経過観察を行った群では持続再出血率に差を認めていない。つまり,追加の内視鏡的治療は初期止血よりも再出血を予防する効果が強く,持続再出血に対する予防効果は活動性出血例において顕著であると解釈できる。前述のごとく,同様な観点からエピネフリンやアドレナリンを用いた血管収縮薬の局注に引き続き,他の内視鏡的治療を追加する方法についてRCT7文献(876例)を用いて検証した22),24),25),26),27),28),29)。併用療法は血管収縮薬の局注法単独に比べて持続再出血率の予防効果が認められた。しかし,876例の多数を対象とした結果としては,オッズ比0.64(95%CI:0.42〜0.97)と強い値ではなかった。このような理由から,エピネフリン局注に引き続き他の内視鏡的止血治療を追加することは,再出血の予防に対し上乗せ効果が期待できると評価するに止めた。
内視鏡的止血治療の実施後に上部消化管内視鏡検査による経過観察をし,必要があれば内視鏡的治療を追加することで再出血率の減少に貢献できるかを,2003年にMarmoら45)はRCT4文献(785例)を用いたメタアナリシスを行い報告している。それによると,24時間以内に内視鏡による経過観察を行うことで再出血率を減少させる効果が認められた(OR 0.64,95%CI:0.44〜0.95)。しかし,出版バイアスに関して問題があり,非内視鏡的治療に高用量PPIの静脈内投与が行われた場合に有意差が消失する可能性が示唆されている。そこで,Marmoらは以下に述べるような再出血の危険性の高い患者に関して計画的な内視鏡による経過観察を推奨している。すなわち,2002年にWongら46)は,3,386例の連続した出血性潰瘍患者を基に再出血の危険を予測する目的で多因子ロジスティック回帰を用いて解析を行っている。それによると,再出血の危険性の高い患者とは止血前の状態で,収縮期血圧が100mmHg未満の低血圧,ヘモグロビン値が10g/dL未満,胃内に新鮮血を認める場合,活動性出血,2cm以上の大きな潰瘍──のうち1つ以上を満たす患者である。
IVRや外科手術の適応について検討した論文は見いだせなかった。しかし,IVRや外科手術の絶対適応は内視鏡で止血のできない出血性潰瘍であり,3回目の内視鏡的治療で止血できない再出血40),4単位の緊急輸血後も循環動態が安定しない場合12),18),26),31),全輸血量が2,000mLを超えても止血できない場合40)やショックを伴う再出血12),13),26)なども適応となりうる。
内視鏡的治療は行われていないが,手術の適応を早期(積極的)に行う群と晩期(保存的)に行う群に分けて検討した報告によると,早期群では60歳以上の死亡率は少なく,特に胃潰瘍では有意に少ないとの成績がある47)

 

 
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