(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-

 
第1部 胃潰瘍の基礎知識

 
7.治療の医療経済的評価
3)胃潰瘍治療における医療経済的研究

胃潰瘍の多くはH. pylori 陽性であり,その頻度から,胃潰瘍治療全体の中で,H. pylori 陽性潰瘍治療の医療経済的評価が最も重要な分野であり,わが国で医療経済的研究がなされている。
(1) H. pylori 陽性潰瘍において,除菌治療は従来治療(PPIによる初期治療およびH2RAによる維持療法)より効果が高く,医療費は低額となり,費用対効果に優れることが示され,また除菌治療に用いられるレジメンについては,PPIに抗菌薬2剤を併用する3剤併用療法が2剤併用療法より費用対効果に優れることが示されている(日本における研究)(図2864),65)
次に高頻度にみられるNSAID胃潰瘍については,欧米諸国を中心に,以下の検討がなされている。
(2) NSAID胃潰瘍の初期治療について,PPIであるオメプラゾールはPG製剤であるミソプロストール,H2RAであるラニチジンより費用対効果に優れることが示されている(スウェーデンにおける研究)。
(3) NSAID継続が必要な関節リウマチ患者を対象としたミソプロストール予防投与について,重症ないし致死的な消化管病変の発生率をエンドポイントとした臨床試験の結果を基にした費用対効果分析が存在し,ミソプロストール予防投与は予防プログラムとして費用効果的な範疇に入ることが示されている(オーストラリアにおける研究)。また一般住民を対象としたコホート研究においても,消化管合併症の高リスク患者に対するミソプロストール・ジクロフェナク合剤投与は費用節減的であることが報告されている(英国スコットランドにおける研究)。

図28 除菌治療と除菌によらない従来治療の累計医療費
図28除菌治療と除菌によらない従来治療の累計医療費
羽生泰樹,清田啓介,井口秀人,他:消化性潰瘍治療におけるnew triple therapyとdual therapy─除菌率と費用効果の観点から─.日本臨牀,57:135-9,1999

(4) 欧米において広く使用されているCOX-2選択的阻害薬について,非選択的NSAIDと比較したランダム化比較試験(RCT)の結果を基に費用対効果分析が行われ,NSAID継続投与が必要な患者におけるCOX-2選択的阻害薬の投与は,消化管合併症の高リスク患者(消化管合併症の既往をもつ,または高齢患者)においては費用対効果が高いことが示されている(カナダ,米国,英国における研究)。一方,COX-2選択的阻害薬は心血管系の有害事象が多いとする報告があること,低用量アスピリンが同時投与されると,消化管合併症における優位性が小さくなることなどの問題点や,実際には,COX-2選択的阻害薬が処方される際には,潰瘍治療薬が同時に投与される場合が有意に多いことがコホート研究で示されており(アイルランドにおける研究),現実の臨床におけるCOX-2選択的阻害薬の費用削減効果には議論の余地が存在する。

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す