(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-
第1部 胃潰瘍の基礎知識 |
6.治療
2)薬物治療
(1)概説
消化性潰瘍の成因は胃酸やペプシンなどの攻撃因子と,防御因子としての粘液,血流,重炭酸バリアなどとのアンバランスにより潰瘍が発生するとするバランス説(Shay & Sun, 図22-a)で理解されてきたが,現在はH. pylori 感染,NSAIDが二大要因であり,胃酸がそれぞれに共通した増悪因子であると考えられている(図22-b)
強力な酸分泌抑制薬であるH2RAやPPIの出現により,今日ではそれらによる薬物治療が胃潰瘍治療の中心となっている。従来,胃潰瘍の薬物治療は潰瘍を治癒に導くための初期治療と,白苔の消失後もしくは瘢痕期以降に再発を防止するための維持療法が行われてきた。近年,H. pylori 除菌治療によって胃潰瘍の再発が有意に抑制され,維持療法が不要になることが判明し,維持療法に対する考え方が大きく変化している。
図22 消化性潰瘍の成因 |
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伊藤俊之,千葉勉:消化性潰瘍.薬局,53(増刊号):658-666,200237)(一部改変) |
(2)胃潰瘍治療薬
胃潰瘍治療に用いられる薬剤は,バランス説で示された攻撃因子の抑制および防御因子の増強を目的とした薬剤,そしてH. pylori 除菌治療薬とに分けて考えると理解しやすい。代表的薬剤の一覧を表11に,作用機序を図23,図24に示す。
胃潰瘍の初期治療ではPPIもしくはH2RAなどの酸分泌抑制薬が主体となる。防御因子増強薬も適宜併用されることがあるが,酸分泌抑制薬と防御因子増強薬との併用効果についてはエビデンスに乏しく今後の評価が待たれる38)。維持療法ではPPIに保険で投与期間の制限があることからH2RA(多くは半量投与)が主体となっている。代表的薬剤の特徴を下記に示す。
表11 胃潰瘍治療薬 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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図23 攻撃因子抑制薬の作用機序 |
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図24 防御因子増強薬の作用機序 |
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1)攻撃因子抑制薬(図23)
(1)酸分泌抑制薬
![]() 壁細胞がH+を分泌する最終段階であるプロトンポンプH+/K+-ATPaseを特異的に阻害する非常に強力な酸分泌抑制薬。主として肝排泄。1日1回服用のためコンプライアンスが得られやすい。オメプラゾールとランソプラゾールには注射薬がある(1日2回投与)。胃潰瘍では8週間と保険適用上の制限がある。 ![]() 壁細胞のH2受容体に対しヒスタミンと拮抗する。PPIに次ぐ強力な酸分泌抑制薬。主として腎排泄。経口薬のみならず注射薬も揃っており使用しやすい。 ![]() H2RAよりも酸分泌抑制効果は弱い。塩酸ピレンゼピンはM1受容体特異的で,M2受容体には比較的作用が少ないので前立腺肥大症,緑内障や心疾患を有する患者に用いてもよい。 ![]() H2RAよりも酸分泌抑制効果は弱い。 ![]() H2RAよりも酸分泌抑制効果は弱い。現在ではいわゆる鎮痙剤としての使用が主体となっている。 |
即効性だが作用時間が短い。一般にアルミニウム塩は副作用として便秘を起こしやすく,マグネシウム塩は下痢を起こしやすい。
2)防御因子増強薬(図24)
さまざまな作用機序を有する多数の薬剤がある。防御因子増強薬は潰瘍治癒の質を高める効果や自覚症状の改善効果を有することが知られている。胃潰瘍に対しては単剤で酸分泌抑制薬を上回る効果を有する薬剤はなく,酸分泌抑制薬と併用投与されることが多い。
多くの薬剤は副作用が少ない。PG製剤はNSAID潰瘍に有効な薬剤であるが,下痢や腹痛などの出現頻度が高い。また,子宮収縮作用があるので妊婦には禁忌である。
3)H. pylori 除菌治療薬
わが国では2000年11月に,胃潰瘍・十二指腸潰瘍に対するH. pylori 除菌療法が保険適用となった。副作用として下痢,軟便,味覚異常,口内炎などの頻度が高い。(除菌治療の項参照)