(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-
第1部 胃潰瘍の基礎知識 |
6.治療
1)出血性潰瘍の治療方針
出血性胃潰瘍はそのまま放置するとショックとなり,重要臓器の不可逆的な機能不全が生じて死に至る危険な病態である。以前は緊急手術の対象であったが,現在では内視鏡的止血治療および薬物治療により,ほとんどが治療できるようになっている。
(1)ショックの治療
出血性潰瘍に伴うショックとは循環血液量減少性ショックである。つまり,失血によって心臓への血液還流量が減少し,心拍出量の減少とともに血圧の低下が生じる。これを補うために頻脈となり末梢血管が収縮するため各組織の循環不全が生じ,組織からサイトカイン類が血液中に放出される。これらの物質によって重要臓器に障害が生じ,最終的には不可逆的な多臓器機能不全となる。
出血性潰瘍患者ではショック状態を呈していることが多く,このような状態にある場合は,原則としてショックに対する処置を先に行ってから内視鏡検査や内視鏡的治療を安全に行う必要がある。
出血によるショックではただちに血管を確保してカリウムの入っていない点滴や膠質液による補液を開始し,循環血液量を回復させる必要がある。下肢をあげる体位をとることで心血液還流量を増やし,一時的に血圧を上昇させることも考慮する。また,患者に合致する輸血が用意できた時点で血圧維持に必要な量の輸血を行う。意識が混濁または消失している場合には,吐血による窒息や誤嚥を予防する目的で気管内挿管を行うこともある。これらのショック治療を行い,バイタルサインの改善を認めた後に緊急内視鏡検査を行う。
(2)内視鏡治療
緊急内視鏡検査では,まず出血の部位,原因,出血の状態を把握する。出血性潰瘍では出血の状態を評価することで,エビデンスに基づいた合理的な治療法が選択できる。潰瘍からの出血状態の評価にはForrestの分類が世界的に用いられている。表10にForrestの分類(改変)を示す。潰瘍に凝血塊が付着している場合は,水による洗浄や鉗子などで積極的に凝血塊を除去し,出血の状態や露出血管の有無を正しく評価する必要がある(処置困難な部位の潰瘍は除く)。噴出性の出血(Ia)(図19)や湧出性の出血(Ib),出血はしていないが露出血管を認める潰瘍(IIa)(図20)では内視鏡的止血治療のよい適応である。それ以外の潰瘍では内科的治療(非内視鏡的治療)で十分な止血効果が認められている。
内視鏡的止血治療には多くの方法がある(図21)。大きく分類すると,加熱して凝固止血するレーザー照射法・高周波凝固法・ヒータープローブ法・アルゴンプラズマ凝固法(APC),血管を収縮させて止血する高張Naエピネフリン(HSE)局注法,薬物で血液を硬化させ止血する純エタノール局注法・エトキシスクレロール局注法,血管を直接結紮し止血するクリップ法などである。いずれの方法も内科的治療単独に比べ,初回止血および再出血の予防,手術移行率の面で明らかに有効な治療法である。しかし,どの方法が最も優れているか現在のところ明確な結論はでていない。ただし,クリップ法は再出血の予防効果の面で他の方法よりも優れる傾向にある。また,エピネフリンを用いた局注法は単独で行うよりは,引き続き他の内視鏡的止血治療を追加することで,再出血の予防に対し上乗せ効果が期待できる。
止血後の経過観察は有用であり,特に再出血の危険性の高い患者では,内視鏡的治療後24時間以内に上部消化管内視鏡検査による経過観察を行い,必要があれば内視鏡的治療を追加することで再出血が減少する。
内視鏡で止血できない潰瘍がinterventional radiology(IVR)や手術の絶対適応である。さらに,3回目の内視鏡治療で止血できない再出血,4単位の緊急輸血を行っても血圧などが安定しない場合,全輸血量が2,000mLを超えても止血できない場合や,ショックを伴う再出血なども考慮される。また,60歳以上の高齢者では外科的手術の適応は早期に決定した方が生命予後を良好にするとの報告がある。
表10 出血性病変に対するForrestの分類(改変) | ||||||||||||||||
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Kohler B, et al: Upper GI-bleeding--value and consequences of emergency endoscopy and endoscopic treatment. Hepatogastroenterology, 38:198-200,1991 |
図19 噴出性潰瘍(Ia) | 図20 露出血管を認める潰瘍(IIa) | |
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図21 内視鏡的止血に用いる処置具 |
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