(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-
第1部 胃潰瘍の基礎知識 |
5.診断
1)X線診断
近年,消化管の分野では内視鏡検査を優先する傾向にあるが,実地臨床の場ではX線造影検査で病変の診断を行うことも求められる。胃X線検査において胃潰瘍を診断する場合,病変の有無を明らかにする存在診断がまず必要である。胃潰瘍は病期や部位によりさまざまな形態を示し,そのために出現する所見も多様である。これらを直接所見と間接所見に分けて代表的なものを解説する。また次の段階として質的診断,つまり悪性潰瘍を鑑別することが必要不可欠であり,この点に関しても言及する。
(1)直接所見
1)ニッシェ(niche)
開放性潰瘍の場合,陥凹部にバリウムが貯留することによってできるX線所見である。正面から潰瘍をとらえた場合を正面ニッシェ(図12),側面でとらえた場合を側面ニッシェ(図13)と呼ぶ。形態は円形のものから線状のものまでさまざまである。
2)ひだ集中像
新鮮開放性潰瘍が治癒期に移行すると,粘膜が収縮することにより潰瘍中心に向かう放射状のひだ集中像を伴うようになる。
図12 胃体上部後壁の正面ニッシェ | 図13 胃体下部小弯の深い側面ニッシェ | |
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(2)間接所見
1)硬化
潰瘍によって胃壁が線維化することにより,側面像で硬化所見を認める。小弯側にみられることが多い。
2)弯入
胃体部の前後壁に対称性に潰瘍が存在した場合,その治癒過程の線維化に伴って大弯側に蠕動様のひきつれができる。

胃角小弯の潰瘍瘢痕により胃角が開いた状態である。
4)小弯の短縮
胃角小弯付近に潰瘍が存在する場合,治癒に伴う線維化により小弯側が短縮する。線状潰瘍や多発潰瘍の場合その変化は著明となり,嚢状胃を呈するようになる。
(3)悪性潰瘍との鑑別(図14)
胃潰瘍のX線診断において最も重要な点である。的確な質的診断を行うには,良好な二重造影像を得るために十分な体位変換と空気量の調節,さらに圧迫を行う必要がある。
1)潰瘍面と辺縁の性状
一般的に良性の潰瘍面は均一で,辺縁は整である。不整形を呈する場合も外に凸であることが多い。それに対して悪性潰瘍では陥凹面の模様が不均一または無構造で,島状の残存粘膜を認めることもある。辺縁は不整となり蚕食像といわれる像を呈する。
2)ひだの性状
良性潰瘍の場合,集中するひだの先端は潰瘍の中心部に向かい,なだらかに消失する。それに対し悪性潰瘍においては先細り,急激な途絶,肥大,癒合などの所見を認める。
3)周囲粘膜の性状
悪性潰瘍も深いものでは良性潰瘍との鑑別が難しく,ニッシェ周囲の粘膜面を詳細に観察する必要がある。周辺に不整形の淡いバリウム斑や粗造な粘膜面を伴っていないかに留意する。また新鮮潰瘍の周囲には浮腫による隆起を伴うことがあり,進行癌の隆起と鑑別する必要がある。良性潰瘍の場合なだらかな立ち上がりを示し,表面に不整がなく柔らかいことから鑑別可能である。
H. pylori 感染と胃潰瘍の関連が明らかになったため,最近では胃潰瘍=感染と考えられる傾向にあり,過去の胃を中心とした消化管の診断学は忘れられる傾向にある。ニッシェ=胃潰瘍ではなく,良性潰瘍に類似した潰瘍形成型胃癌が存在すること,また治療によって潰瘍型癌が良性潰瘍と同じく治癒すること(悪性サイクル)も認識しておかなければならない。
図14 良性潰瘍と悪性潰瘍の鑑別 |
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