(旧版)科学的根拠に基づく 乳癌診療ガイドライン 5 疫学・予防 2005年版

 

Research Question 11
BRCA1 or 2遺伝子変異を持つ女性に対する予防的両側卵巣切除は乳癌発症リスクを減少するか

エビデンスグレード III    予防的両側卵巣切除により乳癌発症リスクは減少すると考えられるが,まだ結論づけるには十分ではない。


【背景・目的】

BRCA1 or 2遺伝子変異を持つ女性の生涯の乳癌発症率は90%近くに達する。よって,BRCA1 or 2遺伝子変異のあることがわかった女性では,予防法をとることが何よりも望まれる。乳癌は乳房内の上皮細胞が女性ホルモンの強い影響を受け癌化するため,外科的ホルモン療法である予防的両側卵巣切除について,その予防法としての有用性を知るために文献を検索した。

【解説】

外科的ホルモン療法による乳癌の発症予防としては,両側予防的卵巣切除(bilateral prophylactic oophorectomy:BPO)の成績が発表されている。BRCA1 or 2の遺伝子変異を有する女性551人を無作為ではないが両側卵巣切除をする群としない群とに分けて前向きに最低8年間観察した結果,乳癌の発症減少率は53%に及んだ1)。また,同様に卵巣付属器切除では,2年の観察期間ではあるが,乳癌発症率は75%減少したという報告もある2)乳癌予防のためのBPOについては報告が少なく,エビデンスレベルも十分に高くはないため,結論をまとめるにはまだ問題がある。

【検索式・参考にした二次資料】

海外文献検索
MEDLINE(Dialog)1966~2004/04/30よりBRCA 4,050件
1×(PREVENTION+PROPHYLAXIS) 631件
2×HUMAN×言語ENGLISH×1995以降 553件
Cochrane Library(Web)2004 Issue 2よりBRCA 49件
4×(PREVENTION+PROPHYLAXIS+BREAST NEOPLASMS) 27件
5×1995以降 27件
3+5-重複文献 573件
 
国内文献検索
#1  医中誌Web 1983~2004/04よりBRCA 309件
#2  #1×予防 10件
#3  #1×(乳癌+乳房+乳腺+マンモグラフィ) 197件
#4  #2+#3 198件
#5  #4-(会議録,症例報告) 50件

海外文献該当573件より,タイトルと抄録で75件選択,原論文査読により19件の構造化抄録を作成,本RQの解説に2件引用した。
国内文献該当50件には採択すべき論文はなかった。

【参考文献】

1) Rebbeck TR, Lynch HT, Neuhausen SL, Narod SA, Van' t Veer L, Garber JE, et al. Prophylactic oophorectomy in carriers of BRCA1 or BRCA2 mutations. N Engl J Med 2002;346(21):1616-22.
2) Kauff ND, Satagopan JM, Robson ME, Scheuer L, Hensley M, Hudis CA, et al. Risk-reducing salpingo-oophorectomy in women with a BRCA1 or BRCA2 mutation. N Engl J Med 2002;346(21):1609-15.


RQ11 BRCA1 or 2遺伝子変異を持つ女性に対する予防的両側卵巣切除は乳癌発症リスクを減少するか
アブストラクトテーブル
参考
文献
EV
レベル
目的 対象患者(数・人種) 介入
(曝露・case vs. control)
結果
1 2b BRCA1/2遺伝子変異をもつ女性に対する予防的卵巣切除術が卵巣癌,乳癌のリスクをどれぐらい減少させるか。 BRCA1 or 2のgerm-line変異を有する女性551人,うち両側卵巣切除群259人,コントロール群292人。 両側卵巣切除後の前向きの経過観察(prospective non-randomized)。 乳癌発症:卵巣切除群21.2%,温存群42.3%,ハザード比0.47
2 2b BRCA1/2遺伝子変異女性に対する予防的な卵巣付属器切除による乳癌発症のリスク減少効果はどうか。 BRCA1 or 2の遺伝子変異が発見された35歳以上の170人の女性。 卵巣付属器切除群と温存群を前向きに毎年経過観察しながら比較検討する(prospective none randomized)。 切除群98人中3人に乳癌を発見,温存群72人中8人に乳癌,4人に卵巣癌を発見。切除群では発見までの中央値は10.3カ月,温存群では12.7カ月。危険率は切除により0.25%に減少。

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す