(旧版)科学的根拠に基づく 乳癌診療ガイドライン 5 疫学・予防 2005年版

 

Research Question 1
アルコール飲料の摂取は乳癌の危険因子になるか

エビデンスグレード II    アルコール飲料は1日平均2杯以上摂取すると量-反応関係的に危険因子としての影響が生じる。


【背景・目的】

「アルコール飲料の摂取は乳癌の危険因子になるか」という命題は,依然として論争的である。生物学的なメカニズムが不明であることに加えて,疫学分析も対象規模,人種,アルコール飲料種類,などにおいて課題がある。

【解説】

システマティック・レビューを行い,ケースコントロール研究以上のエビデンスレベルで20件の論文が選択された。このうち15件が関連性を示唆し「危険因子になる,または関連性がある」とし,5件が否定的で「危険因子にならない,または関連性はない」としていた。肯定した論文群ではメタアナリシスが3件1),2),3)あり,大規模な対象数,複数の国を含んだ研究であった。日本人を対象にした論文が1件4)あり,関連性を示唆していた。一方,否定した論文群ではメタアナリシスはなかったが,3万人を超える対象数を設定した論文が1件5),3千人を超える対象数の論文が1件あった。肯定群の論文でも概して1日に1杯程度のアルコール飲料摂取は,危険因子にならないとしている1),2)。アルコール飲料摂取と乳癌との関連性の結果は,生活習慣や人種差が強く反映するため,諸外国の疫学データの結果をそのまま日本人に適用できない。また,日本人を対象とした論文では関連性があるとしていたが,「ときどき飲酒する人と飲酒しない人では相対リスクに有意な差はなかった」という結果を示していた。以上より,システマティック・レビューがある場合にはその結果を優先する,日本人対象者の論文結果を優先する,という基準に従うと上記のRQの回答は「日本人女性においては1杯/日程度の少量の飲酒では危険因子にならないだろうが,2杯/日以上の中等量の飲酒では乳癌の危険因子になるだろう」となる。
なお,1杯,2杯の基準となる容器の大きさは酒の種類によって異なるが,通常アルコール濃度の高いものは小さな器,濃度の低いものは大きい器で飲まれることが多く,上記の推奨ではこのような通常の場合(日本酒なら1合ぐらい,ビールなら中ぐらいのグラスや小さめのジョッキ,ワインならワイングラスなど)を目安にしている。

【検索式・参考にした二次資料】

1.  Breast cancer 7,193件
2. 1×Alcohol×Risk factor 181件
3. 2×(Meta+RCT+Cohort+Case-control) 85件
4. 3×Explicit criteria* 20件
    *「中心テーマでないもの,テーマが違うもの,レビュー形式のもの,などを除く」


【参考文献】

1) Smith-Warner SA, Spiegelman D, Yaun SS, van den Brandt PA, Folsom AR, Goldbohm RA, et al. Alcohol and breast cancer in women:a pooled analysis of cohort studies. JAMA 1998;279(7):535-40.
2) Longnecker MP. Alcoholic beverage consumption in relation to risk of breast cancer:meta-analysis and review. Cancer Causes Control 1994;5(1):73-82.
3) Hiatt RA. Alcohol consumption and breast cancer. Med Oncol Tumor Pharmacother 1990;7(2-3):143-51.
4) Kato I, Tominaga S, Terao C. Alcohol consumption and cancers of hormone-related organs in females. Jpn J Clin Oncol 1989;19(3):202-7.
5) Kuper H, Ye W, Weiderpass E, Ekbom A, Trichopoulos D, Nyren O, et al. Alcohol and breast cancer risk:the alcoholism paradox. Br J Cancer 2000;83(7):949-51.


RQ1 アルコール飲料の摂取は乳癌の危険因子になるか
アブストラクトテーブル
(EVレベル:エビデンス・レベル)
参考
文献
EV
レベル
目的 対象患者(数・人種) 介入
(曝露・case vs. control)
結果
1 3a アルコールの量および種類と乳癌の危険因子との関連性を評価すること。同時に食事摂取の要素がその関連性を修正しているかどうかを評価すること。 浸潤性乳癌の診断を受けた患者4,335人を含み,11年間にわたり追跡調査したカナダ,オランダ,スウェーデンとアメリカの女性322,645人。 6つの前向き研究を使ったプール解析 1日のアルコール量10g(0.75〜1杯)のプールド多変量RRは1.09(95%CI:1.59-9.84)であった。1日のアルコール量30g以上60g未満(2〜5杯)と飲酒無しとを比較した多変量調整RRは1.41(95% CI:1.18-1.69)であった。
2 3a 乳癌の危険性とアルコール消費との関連を検討すること。 1966〜1992年のMEDLINEデータベースで検索した,既存のメタアナリシスを含む疫学研究38件の対象者。 乳癌の危険性とアルコール消費との関連を検討した38疫学研究のメタアナリシスを行った。 毎日1杯のアルコールを摂取した場合のRRは1.10(95%CI:1.08-1.17)であった。アルコール飲料(1種類)を毎日摂取した場合と摂取しない場合を比較したところ11%の乳癌危険因子の増加がみられた。
3 3a 乳癌とアルコール摂取の関連性を過去の症例から再検討すること。 26件の疫学症例研究の対象者。 女性の乳癌の危険性とアルコール消費との関連性を検討した38疫学研究をメタアナリシスした。 論文をレビューすると,16件のケースコントロール研究のうち,10件が「関係あり」という結果であった。その結果,1日あたり1または2杯アルコールを摂取すれば,50%リスクが増加する。
4 3b アルコール摂取と胸部,子宮体,卵巣部の癌との関連性を検討すること。 1,740人のケース群(乳癌,子宮癌,卵巣癌の20歳以上の女性)。8,920人のコントロール群(他の癌と診断された20歳以上の女性)。 診察を受ける際に変数項目の情報を得た。 乳癌の単変量分析による年齢調整RRは,アルコール摂取する人としない人を比べた場合1.20,毎日飲酒する人とほとんどしない人を比較する場合1.34,ときどき飲酒する場合としない場合では1.14,毎日する人としない人とでは1.36であった。多変量ロジスティック回帰によって得た乳癌の関連性RRは1.35であった。
5 3b 乳癌の危険因子に影響を与えるアルコール摂取のレベルを検討すること。 1965〜1995年のスウェーデン国立衛生局,社会福祉機関において,アルコール依存が確認された36,856人の女性。 一度でもアルコール依存症の診断を受けた女性を対象とした。期待癌患者数は,観察人-年と年齢,性別,罹患率とを掛けて計算した。 平均年齢42.7歳。追跡の平均期間は9.6年。乳癌との関連は見出されなかった。乳癌を治療した年齢と,生理の関係もなかった。

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す