(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
付録:メタボリックシンドローム
5.日本のメタボリックシンドローム診断基準(表1)
WHO基準またはNCEP基準を日本人に適応する場合,肥満の定義が問題となる.日本人においては,欧米人に比べて軽度の肥満でも心血管疾患の危険因子が集積しやすいことが報告されている11).このため,NCEPの腹囲の基準はアジア人のメタボリックシンドロームの診断に適応できない可能性が指摘されており,これまでの日本人を対象としたメタボリックシンドロームに関する報告は,WHO基準およびNCEP基準の肥満の項目を日本肥満学会の基準に変更している9),11),12),25).さらに,JDCSのデータでは,WHO基準では女性にのみ心血管疾患発症リスクの有意な増加が認められるのに対し,NCEP基準では男性にのみ有意な心血管疾患発症リスクの上昇が認められており,診断基準により男女差が認められている11).
これらのことから,日本人独自のメタボリックシンドローム診断基準作成の必要性が認識され,2004年に関連する8学会(日本内科学会,日本糖尿病学会,日本循環器学会,日本動脈硬化学会,日本高血圧学会,日本肥満学会,日本腎臓病学会,日本血栓止血学会)が合同でメタボリックシンドローム診断基準検討委員会を構成し,2005年4月に診断基準が発表されたf).この8学会合同のメタボリックシンドローム診断基準は,同時期にIDF(International Diabetes Federation)を中心に作成されていたメタボリックシンドロームの新しい診断基準との整合性も念頭に置かれているe).
本診断基準設定の大きな目標は,できる限り簡便でかつ病態を反映しており,保健指導に用いることによって,過栄養および運動不足により生じる複数の病態を効率よく予防し,心血管疾患および2型糖尿病の予防につなげることである.
8学会合同のメタボリックシンドローム診断基準c)では,IDFと同様の観点から,腹部肥満(腹囲の増加)を必須項目とし,脂質代謝異常(高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症),血圧上昇,空腹時高血糖の3項目のうち2項目以上を合併した場合,メタボリックシンドロームと診断する(各項目のカットオフ値設定の根拠については,メタボリックシンドローム診断基準検討委員会のステートメントを参照).ただし,ATP-III基準やIDFでは,高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症を独立させているのに対し,日本の基準では,高トリグリセリド血症と低HLDコレステロール血症は共通の基盤から生じているという考えから,両者を1項目として扱っている.
表1 これまでに提唱されたメタボリックシンドロームの診断基準
これらのことから,日本人独自のメタボリックシンドローム診断基準作成の必要性が認識され,2004年に関連する8学会(日本内科学会,日本糖尿病学会,日本循環器学会,日本動脈硬化学会,日本高血圧学会,日本肥満学会,日本腎臓病学会,日本血栓止血学会)が合同でメタボリックシンドローム診断基準検討委員会を構成し,2005年4月に診断基準が発表されたf).この8学会合同のメタボリックシンドローム診断基準は,同時期にIDF(International Diabetes Federation)を中心に作成されていたメタボリックシンドロームの新しい診断基準との整合性も念頭に置かれているe).
本診断基準設定の大きな目標は,できる限り簡便でかつ病態を反映しており,保健指導に用いることによって,過栄養および運動不足により生じる複数の病態を効率よく予防し,心血管疾患および2型糖尿病の予防につなげることである.
8学会合同のメタボリックシンドローム診断基準c)では,IDFと同様の観点から,腹部肥満(腹囲の増加)を必須項目とし,脂質代謝異常(高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症),血圧上昇,空腹時高血糖の3項目のうち2項目以上を合併した場合,メタボリックシンドロームと診断する(各項目のカットオフ値設定の根拠については,メタボリックシンドローム診断基準検討委員会のステートメントを参照).ただし,ATP-III基準やIDFでは,高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症を独立させているのに対し,日本の基準では,高トリグリセリド血症と低HLDコレステロール血症は共通の基盤から生じているという考えから,両者を1項目として扱っている.
表1 これまでに提唱されたメタボリックシンドロームの診断基準
構成要素 | 8学会合同 (2005) | IDF (2005) | 改訂NCEP ATP III (2005) | WHO (1999) |
必須項目 | 内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積 | 中心性肥満 | インスリン抵抗性 | |
ウエスト周囲径*1 男性≧85cm 女性≧90cm (内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)*2 | ウエスト周囲径*6 男性≧85cm 女性≧90cm (日本人の基準) | 耐糖能異常,IGT,または糖尿病の合併 かつ/または インスリン抵抗性の存在*12 | ||
以下のうち2項目以上*3 | 以下のうち2項目以上 | 以下のうち3項目以上 | 以下のうち2項目以上*13 | |
腹部肥満 | 男性≧102cm*9,10 女性≧88cm*9,10 | ウエストヒップ比 男性>0.9 女性>0.85 または BMI≧30または腹囲≧94cm | ||
トリグリセリド | ≧150mg/dL*4 かつ/または <40mg/dL*4 男女とも | ≧150mg/dL*4 | ≧150mg/dL*4,11 | ≧150mg/dL |
HDLコレステロール | 男性<40mg/dL*4 女性<50mg/dL*4 | 男性<40mg/dL*4,11 女性<50mg/dL*4,11 | 男性<35mg/dL 女性<39mg/dL | |
収縮期血圧 | ≧130mmHg*4 かつ/または ≧85mmHg*4 | ≧130mmHg*4 または ≧85mmHg*4 | ≧130mmHg*4 または ≧85mmHg*4 | ≧140mmHg または ≧90mmHg |
拡張期血圧 | ||||
空腹時血糖 | ≧110mg/dL*4,5 | ≧100mg/dL*4,7,8 または 2型糖尿病の既往 | ≧100mg/dL*4 | |
微量アルブミン尿 | ≧20µg/min または ≧30mg/g・Cre |
- *1:ウエスト径は立位,軽呼吸時,臍レベルで測定する.脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合は肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定する.
- *2:CTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい.
- *3:糖尿病,高コレステロール血症の存在はメタボリックシンドロームの診断から除外されない.
- *4:高TG血症,低HDL-C血症,高血圧,糖尿病に対する薬剤治療を受けている場合は,それぞれの項目に含める.
- *5:メタボリックシンドロームと診断された場合,糖負荷試験が薦められるが診断には必須ではない.
- *6:BMI>30ならば中心性肥満が存在すると想定されるので,ウエスト周囲径の測定は必要ない.
- *7:もしFPG≧100mg/dLならばOGTTの施行を強く勧めるが本症候群の診断確定に必須ではない.
- *8:日常臨床ではIGTでもよいが,メタボリックシンドロームの有病率に関する報告では,この診断基準を評価するために,すべて空腹時血糖と2型糖尿病の既往のみを用いる必要がある.2時間血糖値を加えた有病率も補足として加えることは可能である.
- *9:腹囲は,腸骨稜の頂点のレベルで,通常の呼気終末に測定する.
- *10:アジア系米国人では,腹囲の基準を男性≧90cm,女性≧80cmとする.
- *11:フィブラート系薬剤とニコチン酸は高TG血症と低HDL-C血症に対して最も頻用される薬剤である.これらの薬剤のうち1つを内服している患者は,高TGと低HDLを合併しているとみなされる.
- *12:グルコースクランプ法によるグルコースの取り込み率が集団の下位1/4に相当する
- *13:メタボリックシンドロームに関連するいくつかの構成要素(高尿酸血症,凝固異常,PAI-I上昇など)が知られているが,診断には必須ではない.