(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
付録:メタボリックシンドローム
4.これまでに提唱されたメタボリックシンドロームの診断基準(表1)
1998年にWHOによってメタボリックシンドロームの診断基準が作成されたa),2001年にはNCEP ATP-IIIにて,メタボリックシンドロームはLDLコレステロールに次ぐ冠動脈疾患予防のターゲットであるとされ,その診断基準が作成されたc).その後も,いくつかのメタボリックシンドロームの診断基準が提唱されているが,WHO基準とATP-III基準が世界的に広く使用されている.
WHO基準は,インスリン抵抗性をメタボリックシンドロームの主要な病態のひとつととらえているa).このため,インスリン抵抗性または,その代替としての糖代謝異常を必須項目としている.これに加え,腹部肥満,脂質代謝異常,高血圧,微量アルブミン尿のうち2つ以上合併する場合,メタボリックシンドロームと診断すると定義されている.
ATP-III基準は,メタボリックシンドロームの病因が1つであるかどうか明らかではないという観点から,腹部肥満と高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症,高血圧,空腹時高血糖を同列に扱い,5つのうち3つ以上を合併する場合,メタボリックシンドロームと定義しているc),d).また,2005年版のATP-III基準d)では,(1)アジア人の腹囲の基準(男性≧90cm,女性≧80cm)が設定されたこと,(2)空腹時高血糖の基準が≧110mg/dLから≧100mg/dLに変更されたこと,(3)脂質代謝異常や高血圧,高血糖に対する治療を受けている場合も,おのおのの構成要素を合併しているとみなされることが,2001年版の基準c)から変更されている.
2005年に発表されたIDFの基準e)は,内臓脂肪の蓄積がメタボリックシンドロームの主要な役割を担っているという考えおよび保健指導の現場で腹囲を測定するだけでメタボリックシンドロームの高リスク患者を簡単にスクリーニングできるという観点から,腹囲の増加を必須項目としている.これに加えて,高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症,血圧上昇,空腹時高血糖のうち2つ以上を合併する場合,メタボリックシンドロームと診断すると定義されている.
WHO基準とATP-III基準,IDF基準ではメタボリックシンドロームの診断基準が異なるため,それぞれの基準では異なる集団をメタボリックシンドロームと診断している可能性がある.米国人を対象としたNHANES III(the Third National Health and Nutrition Examination Survey)では,白人においては86.2%が同じカテゴリーに分類されたが,WHO基準とNCEP基準でアフリカ系米国人ではメタボリックシンドロームの有病率が異なることが報告されている28),29).WHO診断基準4),11),17),NCEP基準9),10),11),12),13),14),16),17),18),19),IDF基準22)のいずれも,メタボリックシンドロームを有していると心血管疾患発症および心血管疾患死が増加することが示されている.しかし,心血管疾患の発症率や死亡率に関しても,対象となる集団の違いにより,これらの3者で異なる結果が得られることがある4),11),22),30).日本人2型糖尿病患者を対象としたJDCSでは,NCEP基準は男性の,WHO基準は女性の心血管疾患発症リスクとなるが11),IDF基準は男女ともに心血管疾患発症のリスクとはならないことが報告されている30).一方,中国人においては,NCEP基準よりもIDF基準のほうが心血管疾患発症リスクが高いことが報告されている22).
表1 これまでに提唱されたメタボリックシンドロームの診断基準
WHO基準は,インスリン抵抗性をメタボリックシンドロームの主要な病態のひとつととらえているa).このため,インスリン抵抗性または,その代替としての糖代謝異常を必須項目としている.これに加え,腹部肥満,脂質代謝異常,高血圧,微量アルブミン尿のうち2つ以上合併する場合,メタボリックシンドロームと診断すると定義されている.
ATP-III基準は,メタボリックシンドロームの病因が1つであるかどうか明らかではないという観点から,腹部肥満と高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症,高血圧,空腹時高血糖を同列に扱い,5つのうち3つ以上を合併する場合,メタボリックシンドロームと定義しているc),d).また,2005年版のATP-III基準d)では,(1)アジア人の腹囲の基準(男性≧90cm,女性≧80cm)が設定されたこと,(2)空腹時高血糖の基準が≧110mg/dLから≧100mg/dLに変更されたこと,(3)脂質代謝異常や高血圧,高血糖に対する治療を受けている場合も,おのおのの構成要素を合併しているとみなされることが,2001年版の基準c)から変更されている.
2005年に発表されたIDFの基準e)は,内臓脂肪の蓄積がメタボリックシンドロームの主要な役割を担っているという考えおよび保健指導の現場で腹囲を測定するだけでメタボリックシンドロームの高リスク患者を簡単にスクリーニングできるという観点から,腹囲の増加を必須項目としている.これに加えて,高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症,血圧上昇,空腹時高血糖のうち2つ以上を合併する場合,メタボリックシンドロームと診断すると定義されている.
WHO基準とATP-III基準,IDF基準ではメタボリックシンドロームの診断基準が異なるため,それぞれの基準では異なる集団をメタボリックシンドロームと診断している可能性がある.米国人を対象としたNHANES III(the Third National Health and Nutrition Examination Survey)では,白人においては86.2%が同じカテゴリーに分類されたが,WHO基準とNCEP基準でアフリカ系米国人ではメタボリックシンドロームの有病率が異なることが報告されている28),29).WHO診断基準4),11),17),NCEP基準9),10),11),12),13),14),16),17),18),19),IDF基準22)のいずれも,メタボリックシンドロームを有していると心血管疾患発症および心血管疾患死が増加することが示されている.しかし,心血管疾患の発症率や死亡率に関しても,対象となる集団の違いにより,これらの3者で異なる結果が得られることがある4),11),22),30).日本人2型糖尿病患者を対象としたJDCSでは,NCEP基準は男性の,WHO基準は女性の心血管疾患発症リスクとなるが11),IDF基準は男女ともに心血管疾患発症のリスクとはならないことが報告されている30).一方,中国人においては,NCEP基準よりもIDF基準のほうが心血管疾患発症リスクが高いことが報告されている22).
表1 これまでに提唱されたメタボリックシンドロームの診断基準
構成要素 | 8学会合同 (2005) | IDF (2005) | 改訂NCEP ATP III (2005) | WHO (1999) |
必須項目 | 内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積 | 中心性肥満 | インスリン抵抗性 | |
ウエスト周囲径*1 男性≧85cm 女性≧90cm (内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)*2 | ウエスト周囲径*6 男性≧85cm 女性≧90cm (日本人の基準) | 耐糖能異常,IGT,または糖尿病の合併 かつ/または インスリン抵抗性の存在*12 | ||
以下のうち2項目以上*3 | 以下のうち2項目以上 | 以下のうち3項目以上 | 以下のうち2項目以上*13 | |
腹部肥満 | 男性≧102cm*9,10 女性≧88cm*9,10 | ウエストヒップ比 男性>0.9 女性>0.85 または BMI≧30または腹囲≧94cm | ||
トリグリセリド | ≧150mg/dL*4 かつ/または <40mg/dL*4 男女とも | ≧150mg/dL*4 | ≧150mg/dL*4,11 | ≧150mg/dL |
HDLコレステロール | 男性<40mg/dL*4 女性<50mg/dL*4 | 男性<40mg/dL*4,11 女性<50mg/dL*4,11 | 男性<35mg/dL 女性<39mg/dL | |
収縮期血圧 | ≧130mmHg*4 かつ/または ≧85mmHg*4 | ≧130mmHg*4 または ≧85mmHg*4 | ≧130mmHg*4 または ≧85mmHg*4 | ≧140mmHg または ≧90mmHg |
拡張期血圧 | ||||
空腹時血糖 | ≧110mg/dL*4,5 | ≧100mg/dL*4,7,8 または 2型糖尿病の既往 | ≧100mg/dL*4 | |
微量アルブミン尿 | ≧20µg/min または ≧30mg/g・Cre |
- *1:ウエスト径は立位,軽呼吸時,臍レベルで測定する.脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合は肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定する.
- *2:CTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい.
- *3:糖尿病,高コレステロール血症の存在はメタボリックシンドロームの診断から除外されない.
- *4:高TG血症,低HDL-C血症,高血圧,糖尿病に対する薬剤治療を受けている場合は,それぞれの項目に含める.
- *5:メタボリックシンドロームと診断された場合,糖負荷試験が薦められるが診断には必須ではない.
- *6:BMI>30ならば中心性肥満が存在すると想定されるので,ウエスト周囲径の測定は必要ない.
- *7:もしFPG≧100mg/dLならばOGTTの施行を強く勧めるが本症候群の診断確定に必須ではない.
- *8:日常臨床ではIGTでもよいが,メタボリックシンドロームの有病率に関する報告では,この診断基準を評価するために,すべて空腹時血糖と2型糖尿病の既往のみを用いる必要がある.2時間血糖値を加えた有病率も補足として加えることは可能である.
- *9:腹囲は,腸骨稜の頂点のレベルで,通常の呼気終末に測定する.
- *10:アジア系米国人では,腹囲の基準を男性≧90cm,女性≧80cmとする.
- *11:フィブラート系薬剤とニコチン酸は高TG血症と低HDL-C血症に対して最も頻用される薬剤である.これらの薬剤のうち1つを内服している患者は,高TGと低HDLを合併しているとみなされる.
- *12:グルコースクランプ法によるグルコースの取り込み率が集団の下位1/4に相当する
- *13:メタボリックシンドロームに関連するいくつかの構成要素(高尿酸血症,凝固異常,PAI-I上昇など)が知られているが,診断には必須ではない.