(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
付録:メタボリックシンドローム


2.メタボリックシンドロームの概念

メタボリックシンドロームは,インスリン抵抗性,肥満,糖代謝異常,脂質代謝異常(高トリグリセリド血症,低HDLコレステロール血症),血圧上昇といった,動脈硬化性疾患と2型糖尿病発症の危険因子が個人に集積した病態である.同一個人への糖脂質代謝異常の集積は1920年代より知られていたが,1980年代後半から心血管疾患のリスクの高い病態としてシンドロームXや死の四重奏,インスリン抵抗性症候群,内臓脂肪症候群などの名で注目されるようになった.これらは同一の病態と考えられ,1999年に世界保健機関(WHO)がメタボリックシンドロームと呼ぶことを提唱しa),現在に至っている.
メタボリックシンドロームの原因には,種々の要因が関与していると考えられているが,インスリン抵抗性と肥満(特に腹腔内脂肪蓄積)が本症候群の発症に主要な役割をしていると考えられている.インスリン抵抗性と肥満はしばしば同時に合併し,インスリン抵抗性の発症に肥満が強く関与していると考えられているが,身体活動の低下や加齢,内分泌異常,遺伝因子などさまざまな因子もインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームの発症に関与していると考えられている.
メタボリックシンドロームの構成要素について因子分析で解析すると,採用する変数や人種により異なるが,多くの研究でメタボリックシンドロームは2〜4つの独立した成分に分けられることが示されている1),2),3),4),5),6),7),8).このことは,メタボリックシンドロームの原因は単一ではなく,少なくとも2つ以上の病態からなることを示唆している.肥満と空腹時高血糖,空腹時インスリン値はまとまった因子として抽出されることが多く,共通の基盤を有していると考えられる.脂質代謝異常についても,肥満や空腹時高血糖,空腹時インスリン値と共通した因子として抽出されることが多く,肥満・空腹時高血糖と脂質代謝異常が独立した因子として抽出されたとしても,空腹時インスリン値が両者に共通していることが多い.多くの報告で血圧は独立した因子として抽出される.また,メタボリックシンドロームおよびメタボリックシンドローム個々の構成要素に遺伝的要因が関与することが示唆されている6),7).一方,メタボリックシンドロームの個々の構成要素をおのおの1つの変数(腹部肥満;腹囲,インスリン抵抗性;HOMA-R,高血圧;平均血圧,脂質代謝異常;トリグリセリド/HDLコレステロール比の4変数)とし,検証的因子分析で検討した報告では,1因子モデルが最も適合度が高かった8).因子分析では,収縮期血圧と拡張期血圧のように互いに非常に相関の高い項目があると,他の項目との相関が消されてしまい,変数の選び方によって基盤にある病態の関連性を明らかにできない可能性があることに注意を払う必要がある8),b)


 
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