(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
21.2型糖尿病の発症予防


解説

3.糖尿病発症予防研究
ハイリスク者を対象に生活習慣の修正や薬物介入を行い,糖尿病の発症を遅延あるいは予防できることを示す研究成績が報告されている36),37),38),39),40),41),42),43),44),45),46),47)
フィンランドでは5つのセンターが参加して介入研究が行われた40).対象は家族歴を有し,肥満したIGT(平均年齢55歳,平均BMI 31)であり,無作為に生活習慣介入群と対照群に分けられた.介入開始1年目の時点で,介入群では43%が5%を超える減量に成功した.平均値でみると,対照群では0.8±3.7kg(0.9%±4.2%に相当)の体重減少であったのに比し,介入群では4.2±5.1kg(4.7±5.4%)の減少がみられた.4年後の糖尿病の累積発病率は,コントロール群で23%,介入群で11%と,介入により糖尿病の発症は58%抑えられた.このように,比較的軽度の体重減少でも糖尿病発症の抑制に十分有効であることが示された.また,いずれの群に属していたかに関係なく,1年目の時点で5つの行動目標(5%以上の減量,脂肪摂取30%未満,飽和脂肪酸摂取10%未満,食物繊維15g/1000kcal以上,運動4時間/週以上)の成功スコアが多い者ほど,3年間の累積糖尿病発症率が低かった.
DPP(Diabetes Prevention Program)42)は全米から27の糖尿病センターが参加して行われた大規模臨床試験であり,生活習慣修正と薬物介入(インスリン抵抗性改善薬としてメトホルミンが投与)の効果が検討された.対象はBMI≧24(アジア系では≧22)の耐糖能異常者(空腹時血糖値95〜125mg/dL,75g糖負荷後2時間血糖値140〜199mg/dL)で,白人,アフリカ系,ヒスパニック系,アジア系など種々の人種が含まれている.これらの対象者(平均年齢51歳,平均BMI34)は無作為に,対照群,生活習慣介入群,メトホルミン投与群の3群に分けられた.生活習慣介入群では低カロリー・低脂肪食と1週間に150分以上(1日30分の運動を5日間)の運動をすることによって体重を7%減少させることを目標に積極的に生活習慣の改善が指導された.そのために,最初の6ヵ月の間に担当のケースマネージャーによる16回以上の個別指導があり,その後は原則として毎月1回の個別ないしグループ指導がされた.その結果,生活習慣介入群では介入開始6ヵ月後で50%が体重の目標を達成しており,74%が運動の目標を達成できた.4年間の累積糖尿病発症率はコントロール群に比し,生活習慣介入群,メトホルミン投与群いずれにおいても低下(それぞれ,58%,31%の低下)した.効果は生活習慣介入のほうがメトホルミンの投与に勝る成績であった.
最近,本邦においても耐糖能異常者に対する生活習慣介入研究が行われている43),44),45),46),47).健診でIGTと判定された中年男性(80%は国家公務員)を無作為に,生活習慣に介入する群(102例)と非介入群(356例)に分け4年間の追跡調査が行われている.ベースラインにおける平均BMIは非介入群で23.8,介入群で24.0であったが,4年後の平均の体重減少は前者で0.4kg,後者で2.2kgと介入群でより大きな体重減少効果がみられた.4年間の累積糖尿病発症率は非介入群の9.3%に対して,介入群では2.9%と有意に低率であった44)
IGTを対象とした薬物介入については,DPPの他にも,αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)48)の効果を検討した介入研究がある.STOP-NIDDMでは平均フォローアップ期間が3.3年で,アカルボース投与群ではプラセボ投与群に比し,累積糖尿病発症率が35.6%減少した.経口血糖降下薬による2型糖尿病予防に関するシステマティックレビューでは,メトホルミン(RR 0.69),アカルボース(RR 0.75),トログリタゾン(RR 0.45)について効果が認められた49).ほかにも,抗肥満薬オルリスタット,降圧薬ACE阻害薬,ARB,抗高脂血症治療薬プラバスタチン,フィブラート系薬剤,女性ホルモン補充療法に2型糖尿病の発症予防効果が認められている49),b)
小児期から成人までを対象に地域を基盤とした介入研究が行われており,糖尿病予防に関する知識の普及,身体活動量の増加と健康的な食生活の獲得に効果が認められているc)
職域の健診成績と診療報酬請求書により算出した研究から,ハイリスク群に介入し25%有効な場合,3,4年後に減少する医療費は年間1名あたり約3,000円と推定されており,低コストな介入方法の開発が望まれるd)
以上のように,生活習慣の修正や薬物による介入により,2型糖尿病の発症を抑制あるいは遅らせることができる.

 
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