(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
20.糖尿病の療養指導・患者教育


解説

9.実践的マニュアルの導入
学会が示す診断基準・指針に沿った治療方針とその実施ガイドラインは重要である.診断や治療開始についての基準が普及していない場合,非専門医による診断および適切な治療の開始が遅延する.1999年,日本糖尿病学会では非専門医を対象に『糖尿病治療ガイド1999』を発表した(その後,2年毎に改訂を行い,現在『糖尿病治療ガイド2006-2007』).ケアの質の保証は公式ガイドブックの普及と密接に相関する.米国では,主要な専門医学会,政府機関はガイドラインが医療従事者と患者の病気に対する考え方を変えるために必要であることを認めている.
糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究(JDCStudy)では,2,547例の2型糖尿病患者を看護師による電話介入の有無別に経過観察した.介入開始5年後にHbA1cが介入群で有意に低くなったが,介入者を変えてから実践的マニュアルの教育不足から,顕著な改善がなかった.これは,本調査研究に参加した施設がほとんど日本糖尿病学会の教育認定施設であったことから,非介入群に対し,主治医,患者教育要員ともに学会が勧告するガイドラインに沿って療養指導していたことによる38)
事実,患者のコンプライアンスを向上させ,学会が示す糖尿病の管理規準を満たすには専門医による介入はあらゆる時と方法を選んで積極的に一般医との連携を強化しなければならない.プライマリケアの場においても専門医の介入が非専門医と療養指導士のケアの水準を向上させる39)
糖尿病患者の管理はプライマリケアベースで行われるべきであり,一般医と療養指導士の継続教育を欠くことはできない.介入の質を向上するには,従来の教科書的な講義より実践的マニュアルの記載に準拠するほうがよい40)
一方,実践的マニュアル(practice guideline)は,学会や関係諸機関が設定した基本的なガイドラインを臨床の現場へ運ぶ手段であって,チェックリストの役割を持つ.諸家が著わす実践的マニュアルはチームにおけるケアの標準化に役立つ.しかし,治療の画一化ではなく,非専門分野の医師が臨床上のevidenceを安全確実に利用し,療養指導士の指導の進行を効率化する.また,ケアと教育の計画,それに伴う他部門との調整を行う共通の地図として利用され,チームのプロトコールとして,個々の患者のニーズに対応することができる28),30).すなわち,実践的マニュアルの導入にあたっては,チームのコンセンサスを得ながら,個々の症例や地域社会の実情に合わせてカスタマイズし,治療の開始と調整段階においてチームとして一貫した基準をもつ手がかりを示すことができる28),29).しかし,実践的マニュアルがあれば,それで質のよい糖尿病診療が流れ作業的にできるというわけではない.安全でより的確なアプローチを示すことが目的であって,運用上,個々の症例に合わせる作業は主治医の責任である.
学会が示すガイドラインと患者が受ける医療サービスとの間にはギャップがあることが多い.多岐にわたるプライマリーケアに従事する医師,コメディカルのガイドラインの受け入れは良好であることから,患者の考えるQOLの改善を目指した医療を実践するためにガイドラインの普及とその応用を推進する必要がある41)
SDM(staged diabetes management)の目的は,実証的データに基づく,誤りのない(error-free)医療の確立,治療に関する基準の検証,患者参加のチーム医療の活性化,治療成績の改善手段の追求である.単に医療現場におけるマニュアルにとどまらず,システムとして機能している.一例として挙げると,SDMをインディアンヘルスサービスの診療施設に導入し,非専門医や看護師がフローチャートを参考にして足病変患者を診療することにより,下肢切断率が有意に低下した.このような実践的マニュアルは従来の診断と対策における抽象的記載から非専門分野の医師やコメディカルに具体的方法を示すことによる有用性を示している42)


 
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