(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
20.糖尿病の療養指導・患者教育


解説

7.血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose:SMBG)
血糖自己測定に際しては,以下のことを銘記すべきである.
  • (1)全血を測定試料としているが,表示されるのは血漿換算値である.
  • (2)全血の血漿換算値と静脈血漿値とでは,食後では差がみられる.
  • (3)以上のことから,糖尿病の診断に自己測定用の簡易測定機器を用いてはならない.
  • (4)また,正しい測定のためには,取り扱い説明書に記載されている手順を遵守し,特に,血液量,測定時の室温に留意すべきである.
血糖自己測定機器の取り扱い指導には,個々の機器別に適切な指導を行う必要がある27)
患者が多尿,口渇,多飲,体重減少など高血糖の古典的症状を自覚するのは,空腹時血糖値が200〜250mg/dL以上になってからである.一方,冷汗,動悸,震えなど典型的な交感神経反射を示す低血糖症状は血糖値が急速に低下するか,60mg/dL以下となってからのことが多い.近年,厳格な血糖コントロールが行われるようになり,無自覚低血糖の頻度が増加している.SMBGを行うことにより,高血糖や低血糖から生じる危険を回避することができる.特に,各種感染症など急性の予測できない病気を発症した場合(シックデイ),SMBGを行うことができれば,医療機関と連絡の上,在宅のままより的確な対応処置が可能となる.また,SMBGの血糖値に基づくインスリン注射用量の調節は強化インスリン療法を行う上で必須である.
同様に,食事・運動療法や薬物療法を行っても,どの程度高血糖が改善したのか,通常はその効果を患者自身が認識できない.しかし,SMBGにより日々変化する生活の中で変動する血糖値を患者自身が知ることは,過食や運動不足による血糖への影響や食事・運動療法の効果を自覚でき,治療意欲を高く保つためにも重要である.さらに血糖値の予知力を強化することにより,低血糖症やシックデイにおける対応を的確にすることができる.
1型糖尿病例の合併症発症予防および進展抑制に強化インスリン療法が有用であることを示したのはDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)である3).DCCTの強化療法群では1日3〜4回のインスリン注射かポンプによるインスリン持続注入療法におけるインスリン用量調節にSMBGが用いられた3).一方,従来治療法群では1日1〜2回のインスリン注射に対するSMBGによるフィードバックは行われていない.したがって,DCCTにおいて,SMBGは強化療法の一部として合併症予防に寄与することを示した.
2型糖尿病例においても,インスリン療法群はいうまでもなく,経口血糖降下薬療法群,食事・運動療法群でもSMBGが治療上有用であったとする報告がある4).この研究では無作為にSMBG実施群と非実施群に分け調査したところ,血糖コントロールの改善とQOLスコアの改善が認められている.2型糖尿病例にSMBGを実施する意義についてのメタアナリシスが発表されているが,この研究では,SMBGがHbA1cからみた血糖コントロールの改善に有利な傾向はあったが,有意差は認めていない28)
糖尿病合併妊娠あるいは妊娠糖尿病症例では,非常に厳格な血糖コントロールが要求され,妊娠糖尿病例ではSMBGの実施がコンセンサスとなっている.また,SMBGを空腹時に実施した群と,食後血糖値を測定した群を比較すると,後者のほうが母体のHbA1cや胎児の予後の改善を認めた,とする報告がある5).これは空腹時,食前のみならず,食後高血糖をSMBGにより認知し治療することの重要性を示している.
インスリン療法など薬物療法例の中には,低血糖を自覚できない患者がいる.このような無自覚低血糖への対処はSMBGによって,血糖値を高めに保ち,低血糖への反応を正常化する方法がとられる29)
重症低血糖の予防にはSMBGを行って自分で血糖の動向を伺い知るだけでなく,予知のための特別なプログラムをSMBGに併用すると効果的である30)

 
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