(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
19.糖尿病と膵臓・膵島移植


解説

2.膵臓移植
膵臓移植は提供膵臓を臓器としてレシピエントに移植する方法である.臓器の移植に関する法律(平成9年制定)以降,ドナーとしては主として脳死者からでありa),2006年4月には保険適用となった.心停止者からの移植あるいは生体部分膵の移植例もある.
透析療法期の腎症を有するレシピエントでは腎臓の移植も適応となる.したがって,腎臓移植との関連から,膵臓移植は膵臓と腎臓を一緒に移植(膵腎同時移植,simultaneous pancreas kidney:SPK),腎臓移植をすでに受けた症例に膵臓を移植(腎移植後膵臓移植,pancreas after kidney:PAK),膵臓のみの移植(膵臓単独移植,pancreas transplantation alone:PTA)に分類される.
諸外国を含め,2003年末までに21,208例が膵臓移植を受けたと報告されている.2002年に報告された膵臓移植1,444例のうち,SPKが65%と一番多く,次いでPAKの26%であり,PTAは9%にとどまるb)
日本では,脳死ドナーからの移植26例のうち22例がSPK,4例がPAKであるa)
米国では,膵臓移植後の1年生存率は94%以上である.米国において膵臓移植を行った症例の死亡率を,待機リストに登録されていまだに移植を受けずに通常のインスリン治療を続けている症例の死亡率と比較してみると,全死亡の相対危険度がSPKでは0.43と低いのに対し,PTAでは1.57,PAKでは1.42と高いことが報告された1).ただし,危険度に変わりがないとの報告もある2)
膵臓の生着率(インスリン離脱,血糖正常などから判断)は,SPKで84.7%(腎臓の生着率は91.6%)であるのに対し,PAKでは78.5%,PTAでは78.2%と低かった.これは,SPKでは移植膵臓に対する拒絶反応を同時に移植した腎臓に対する拒絶反応(血清クレアチニン値の上昇)である程度診断できることによる.
膵臓移植によって膵臓が生着すれば,低血糖や高血糖などの糖尿病の急性合併症が消失する.インスリンの注射や血糖測定をする必要がなくなるなど,QOLの改善が認められる.ただし,移植後における慢性合併症の発症・進展がどうなるかは現時点でははっきりしない.また,ステロイド,タクロリムスあるいはシクロスポリン,MMFなど免疫抑制薬を長期にわたって使用する必要があり,発癌や重症感染症など免疫抑制に伴うリスクが否定できない.
なお,日本では,脳死ドナーからの移植10例(9例がSPK,1例がPAK)の結果が報告されている.marginal donorが多いにもかかわらず,各移植施設が協力し,常にわが国で求められる最良の移植手術を行っており,生存率・生着率とも欧米に劣らない成績をあげている3)

 
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