(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
18.糖尿病における急性代謝失調


解説

1.糖尿病ケトアシドーシス
糖尿病ケトアシドーシスは,1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)の初発症状として認められるのみならず,1型糖尿病患者での感染症の併発,また感染症に引き続き胃腸炎を併発し,嘔気・嘔吐などの消化器症状のため十分な摂食ができないときにインスリンを減らしたり,中止した場合,インスリン注射のマネージメントエラー(食欲がないので注射をしないなど),アルコール多飲やステロイド,向精神薬などの薬剤によってももたらされる病態であるa),b).また,2型糖尿病患者でも大量の糖質摂取によりもたらされる(ソフトドリンクケトーシス)ことがあり,138人の糖尿病ケトアシドーシス患者のうち30人(21.7%)は2型糖尿病であったという報告がある1)
(1)糖尿病ケトアシドーシスの病態
糖尿病ケトアシドーシスの病態の特徴は,肝臓におけるグルコースとケトン体の過剰産生および筋肉や中枢神経系でのグルコースやケトン体の処理能の低下である.
インスリンの欠乏とカテコラミンなどのインスリン拮抗ホルモンの増加は脂肪組織におけるホルモン感受性リパーゼの活性を亢進し,脂肪分解(lipolysis)を促進して大量の遊離脂肪酸(long-chain non-esterified fatty acids:NEFA)を供給する.遊離脂肪酸は肝臓でCoA(coenzymeA)の作用を受け,CPT(carnitine palmitoyltransferase)-I,CPT-IIにより能動的にミトコンドリア内に取り込まれケトン体の産生に結び付くa),b)
(2)糖尿病ケトアシドーシスの診断
臨床所見としては,1〜2日の経過で急激な口渇,多飲,多尿,倦怠感をもたらし,脱水,種々の程度の意識障害,体重減少を呈する.腹痛,嘔気を伴うこともあり,急性腹症と誤って診断されることもある.代謝性アシドーシスを補正するための過呼吸(Kussmaul呼吸),呼気のアセトン臭,口腔粘膜の乾燥,低血圧,頻脈などを認める.
検査所見としては,高血糖(≧250mg/dL),高ケトン血症(β-ヒドロキシ酪酸の増加),アシドーシス(pH≦7.30,重炭酸塩濃度<18mEq/L)などの所見が特徴的である.
(3)糖尿病ケトアシドーシスの治療
ケトアシドーシスの際には,平均して体重の10%の水分と10mEq/kgのNaClが欠乏しているので,生理食塩水を中心とした十分な輸液と電解質の補充,インスリンの適切な投与が重要であるa),b),c)
生理食塩水は,500mL/時間のスピードで輸液を開始し,最初の3〜4時間は200〜500mL/時間で輸液する.大量の生理食塩水は脳浮腫をきたすおそれがあるが,一般に治療開始後24時間以内の輸液量が4L/m2以下では脳浮腫は起こらない.血糖値が250〜300mg/dLとなれば,ナトリウム入りの維持輸液を5〜10%ブドウ糖に調整して点滴静注を行う.
インスリンは少量持続静注法が原則であるa),b),c)
速効型インスリンを生理的食塩水溶解して0.1U/kg/時間の速度で点滴静注することで75〜100mg/dL/時間の速度で血糖が低下する.血糖が低下しない場合は点滴の速度を2倍にするなどに調節するb),c)
超速効型インスリンアナログの皮下注射でも有効であるという報告もある2),3),4)
生理食塩水,1/2(生理)食塩水を中心とした輸液を行い,0.3U/kgの超速効型インスリンアナログを投与し,その後1時間毎に0.1〜0.2U/kgの皮下注射を繰り返し,血糖が250mg/dLとなった段階で,糖質を含む輸液を行いつつ,2時間毎に0.1U/kgの超速効型インスリンアナログを投与するという方法である.血糖,重炭酸濃度,pH,ケトン体,遊離脂肪酸の経時的な変化はインスリンの静脈注射で治療したときと差がないと報告されている2),3)
輸液に関しては,血中のβ-ヒドロキシ酪酸が正常化するまで,10〜20%グルコース濃度の輸液を行いつつ,インスリンの持続点滴を行うことで,ケトーシスが速やかに改善するという成績もある5)
カリウムの補給に関しては,血清カリウム(K)が3.3mEq/L未満の場合は,1時間あたり20〜40mEqの速度で3.3mEq/Lになるまで補充したあとで,インスリンを投与するという意見もあるa),b).血清Kが5.0mEq/L以下のときには,輸液中のK濃度を20〜30mEq/Lに調節して補充する.
糖尿病ケトアシドーシスにおける重炭酸塩の投与やリンの補充が生命予後や病態の改善に寄与するというデータはない6),7),8)

 
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