(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
17.高齢者の糖尿病
アブストラクトテーブル
論文コード | 対象 | 方法 | 結果 |
1)Bando Y et al, 2001 コホート研究 レベル4 | 20~83歳の糖負荷試験を受けた日本人(13,694人) | コホートによる横断調査 | 加齢とともに空腹時血糖値126mg/dLに対応する糖負荷後2時間血糖値が高値となった |
2)Iozzo P et al, 1999 コホート研究 レベル4 | 18~85歳の欧州在住非糖尿病(957人) | グルコースクランプ法 | 性,BMI,空腹時血糖値,インスリン感受性,ウエスト・ヒップ比を調整し検討したところ,肝通過後のインスリン分泌率は加齢とともに低下した |
3)Basu R et al, 2003 コホート研究 レベル3 | 健常な米国人高齢者(67人)および若年者(21人) | 試験食摂取およびブドウ糖経静脈投与 | minimal modelを用いて算出した試験食摂取後およびブドウ糖静脈投与後のインスリン分泌,インスリン作用は高齢者で有意に低下していた.加齢そのものでなく,高齢者における脂肪組織量の増加が,この原因と考えられた |
4)DeFronzo RA, 1979 コホート研究 レベル4 | 21~84歳の健常な米国人(84人) | グルコースクランプ法 | 高齢者のインスリン感受性は若年者と比較し低下していた.インスリン感受性の低下と年齢の間には有意な相関関係が認められ,加齢とともにインスリン抵抗性が増強すると考えられた |
5)厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室,2003 コホート研究 レベル4 | 国民栄養調査のうち糖尿病実態調査に応じた日本人(5,346人) | コホートによる横断調査 | 加齢とともに糖尿病の頻度が増加した |
6)Harris MI et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 無作為に抽出した20歳以上の米国人(18,825人) | コホートによる横断調査 | 加齢とともに糖尿病の頻度が増加した |
7)Araki A et al, 1993 コホート研究 レベル4 | 60歳以上の日本人糖尿病(110人) | 最長18年,コホートに対する後向き追跡(5年以上,平均6.9年間)調査 | 血糖コントロール不良,糖尿病罹病期間および持続性蛋白尿は糖尿病網膜症発症の危険因子である.糖尿病発症年齢は無関係であった |
8)Morisaki N et al, 1994 コホート研究 レベル4 | 60歳以上の日本人糖尿病(114人) | コホートに対する後向き追跡(5年間)調査 | 血糖コントロール不良が唯一有意な糖尿病網膜症発症・進展の危険因子であった |
9)Tanaka Y et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 60~75歳の日本人糖尿病(123人) | コホートに対する後向き追跡(4~6年間)調査 | 血糖コントロール不良は早期糖尿病腎症発症の危険因子である.ただし,早期腎症から顕性腎症への進展の危険因子は高血圧であった |
10)Kuusisto J et al, 1994 コホート研究 レベル4 | 65~74歳の地域(フィンランド)在住2型糖尿病(229人) | コホートに対する前向き追跡(平均3.5年間)調査 | 血糖コントロール不良は冠動脈疾患発症の危険因子であり,その傾向は女性で顕著であった |
11)Kuusisto J et al, 1994 コホート研究 レベル4 | 65~74歳の地域(フィンランド)在住2型糖尿病(229人) | コホートに対する前向き追跡(平均3.5年間)調査 | 血糖コントロール不良は脳血管障害発症の危険因子であり,その傾向は女性で顕著であった |
12)Beks PHJ et al, 1997 コホート研究 レベル4 | 50~74歳の75g OGTTを施行した地域(オランダ)白人住民(708人) | コホートによる横断調査 | HbA1cおよび糖負荷後2時間血糖値高値は頸動脈狭窄の危険因子である |
13)Wahl PW et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 65~100歳の地域(米国)住民4,515人と黒人262人 | コホートによる横断調査 | 高齢者では空腹時血糖値のみで糖尿病と診断されるものより糖負荷後高血糖から糖尿病と診断されるものが多かった |
14)Barrett-Corner E et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 空腹時血糖値が126mg/dL未満の50~89歳の地域(米国)住民(1,858人) | コホートに対する前向き追跡(平均7年間)調査 | 糖負荷後2時間血糖値200mg/dL以上は女性の心血管障害,虚血性心疾患死の強い危険因子である(ただし,男性では有意な危険因子ではなかった) |
15)De Vegt F et al, 1999 コホート研究 レベル4 | 50~75歳の地域(オランダ)住民(2,363人) | コホートに対する前向き追跡(平均8年間)調査 | 空腹時血糖値,糖負荷後2時間血糖値,HbA1cは全死亡および心血管障害死の重要な危険因子であるが,糖負荷後2時間血糖値では非糖尿病域から,すでにその傾向を示した |
16)The DECODE Study group, 1999 コホート研究 レベル4 | 60~79歳の地域(欧州)住民(6,239人) | コホートに対する前向き追跡(4~10年間)調査 | 糖負荷後2時間血糖値200mg/dL以上のみから糖尿病と診断された高齢者の死亡率は,既知糖尿病および空腹時血糖値126mg/dL以上から糖尿病と診断された例と同等であった |
17)井藤英喜,1996 コホート研究 レベル4 | 日本人糖尿病 | コホートに対する前向きあるいは後向き調査 | 日本人高齢者糖尿病の前向きあるいは後向き追跡調査の結果をみると,空腹時血糖値140mg/dL,HbA1c 7%以上,糖負荷後2時間血糖値250mg/dLあるいは糖尿病網膜症,微量アルブミン尿症を認める例では糖尿病網膜症あるいは糖尿病腎症の発症・進展頻度の高いことから,これらにあてはまる症例は高齢者であっても厳格な治療対象とすべきとした |
18)Katakura M et al, 2003 コホート研究 レベル4 | 平均HbA1c 6.8%の日本人高齢者(65歳以上)2型糖尿病(390人) | コホートに対する前向き追跡(3年間) | 平均HbA1c 6.8%と比較的良好な血糖コントロール状態の高齢者糖尿病の生命予後は一般高齢者とほぼ同様であった.また腎機能低下,脳血管障害既往が生命予後不良の危険因子であったが,HbA1cと生命予後との間に有意な関係は認められなかった |
19)Miller CK et al, 2002 RCT レベル2 | 糖尿病罹病歴1年以上の65歳以上の米国人2型糖尿病(98人) | RCT.指導群vs.コントロール群[観察期間10週間] | 教育理論に基づいた食事指導により,より良好な血糖コントロール状態が達成できた |
20)Takahashi M et al,2004 RCT レベル2 | 新規糖尿病患者(30人)および通院歴2年以上(38人)の60歳以上の日本人2型糖尿病(68人) | RCT.通常栄養食事指導群vs.簡易栄養食事指導群[観察期間2~3ヵ月] | 新規患者においては,簡易栄養食事指導は,食品交換表を用いた通常の栄養食事指導と同等の効果をもたらした |
21)Bijnen FCH et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 64~84歳の糖尿病(49人)を含む地域(オランダ)住民(802人) | コホート前向き追跡(10年間)調査,運動量は自己申告 | 週3回以上,1回20分以上の歩行,サイクリングにより全死亡,心血管障害死の頻度が低下した |
22)Wannamethee SG et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 52~73歳の地域(英国)男性一般住民(5,934人) | コホートに対する前向き追跡(4年間)調査 | 軽度あるいは中等度の身体活動の中年期からの継続,あるいは高齢期からの開始により全死亡および心血管障害死の頻度が低下した |
23)Ellekjar H et al, 2000 コホート研究 レベル4 | 50歳以上の脳卒中既往のない地域(ノルウェー)女性一般住民14,101人(糖尿病の頻度不明) | コホートに対する前向き追跡(10年間)調査 | 50~69,70~79および80~101歳のすべての年齢層において身体活動量が多いほど脳血管障害死の頻度が低下した |
24)Vita AJ et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 63~72歳の米国ペンシルバニア大学卒業生1,741人(糖尿病の頻度不明) | コホートに対する前向き追跡(8年間)調査 | 中年から高齢期にかけて喫煙習慣,肥満がなく,十分な身体活動を行った者では高齢期でのADL低下の発生頻度が低かった |
25)Weuve J et al, 2004 コホート研究 レベル4 | 70~81歳の米国在住女性看護師18,766人(糖尿病の頻度不明) | コホートに対する前向き追跡(2年間)調査 | 定期的な身体活動や歩行の実施に,認知機能の低下予防効果がある.運動量が多いほど,その効果は高いが,1.5時間/週程度の歩行でも,その効果は認められた |
26)Johnston PS et al, 1998 RCT レベル1 | HbA1c 6.5~10%,FPG≧140mg/dLの60歳以上の米国人糖尿病(411人) | 多施設での2重盲検RCT.プラセボvs.αグルコシダーゼ阻害薬vs.スルホニル尿素薬[観察期間56週] | αグルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール)は,高インスリン血症,体重増加,低血糖を伴うことなくHbA1cを低下させた |
27)Meneilly GS et al, 2000 RCT レベル2- | カナダ人高齢者2型糖尿病(45人) | 多施設での2重盲検RCT.プラセボvs.αグルコシダーゼ阻害薬[観察期間12ヵ月] | αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)は,インスリン感受性改善作用を一部介してHbA1cを低下させた |
28)Gregorio F et al, 1999 RCT レベル2 | 70歳以上で,グリベンクラミド7.5またはグリクラジド120mg/日にかかわらずFPG≧200mg/dLかつHbA1c≧9%のイタリア人2型糖尿病(198人) | 多施設でのオープンラベルRCT.スルホニル尿素薬vs.スルホニル尿素薬+ビグアナイド[観察期間18ヵ月] | グリベンクラミド15またはグリクラジド240mg/日までの増量,あるいはメトホルミンの追加投与(1700mg/日まで)により血糖コントロール状態は同様に改善した |
29)Herz M et al, 2002 RCT レベル2 | 60~80歳,スルホニル尿素の最大投与量でFPG>140mg/dLかつHbA1cが基準値の上限の1.2倍以上の2型糖尿病143人(チェコスロバキアなど8国) | 多施設でのオープンラベルRCT.グリブライド15mg/日vs.混合型インスリン[観察期間16週] | グリブライド15mg/日と比較し,超速攻型インスリンを25%,中間型インスリンを75%含む混合型インスリン(Humalog Mix 75/25)でより顕著な血糖改善効果を認めた |
30)Burge MR et al, 1998 RCT レベル2 | 55~75歳(平均65.1歳)のスルホニル尿素薬で治療されているHbA1c 6.8~12%,BMI<35の米国人2型糖尿病(52人) | 2重盲検RCT.1週間のプラセボ投与後,グリブライドまたはグリピジドを1週間服薬後23時間の絶食試験 | プラセボ,グリブライドまたはグリピジド10および20mgを1週間服薬後23時間絶食試験を実施したところ,プラセボに比較し実薬では血糖値は低値,エピネフリンが高値となった.しかし,血糖値は低血糖域には達せず,高齢者でスルホニル尿素薬を避けるべきとする理由は見出せなかった |
31)Seltzer HS, 1989 症例報告 レベル5 | 薬物性低血糖症(1,418人) | 低血糖を惹起した薬剤の種類を検討した | スルホニル尿素薬による低血糖は薬物性低血糖の64%を占め,その約2/3は高齢者であった |
32)Ben-Ami H et al, 1999 症例報告 レベル5 | 糖尿病治療薬により低血糖を生じたイスラエル人糖尿病(102人) | 7年間の後向き調査 | 低血糖の危険因子は,高齢(低血糖例の80%は60歳以上),腎不全およびエネルギー摂取低下,感染症などであった |
33)Shorr RI et al, 1997 コホート研究 レベル4 | 65歳以上の米国公的医療保険加入者(19,932人)における重症低血糖(586人) | コホートに対する後向き追跡(5年間)調査 | スルホニル尿素薬およびインスリン使用例での低血糖発症率は,それぞれ,1.23および2.76/100人・年であった.退院30日以内,高年齢(75歳以上),多剤併用などが低血糖の危険因子であった |
34)Murata GH et al, 2004 コホート研究 レベル4 | 退役軍人健康保険に加入している平均年齢66.5±8.7歳の,インスリン治療中の2型糖尿病(344人) | コホートに対する前向き追跡(1年間)調査 | 低血糖[血糖自己測定(2.4±0.9回/日)で血糖値が≦60mg/dLであった場合]の自覚症の強さは,加齢とともに軽微となるが,糖尿病に対する知識が多いほど,血糖コントロールが不良なほど,また糖尿病細小血管症があれば高値となった |
35)Jaap AJ et al, 1998 コホート研究 レベル4 | 70歳以上のインスリン治療期の英国人2型糖尿病(132人) | 後向きアンケート調査(調査期間は2ヵ月) | 高齢者では,若・壮年者と異なり,ふらふらして気が遠くなる感じ,落ち着かない感じなどの非典型的中枢神経症状が多かった |
36)Salpeter S et al, 2006 メタアナリシス レベル3 | メトホルミン投与糖尿病(47,846人年)およびメトホルミン非投与糖尿病(38,221人年) | 1959年から2005年に報告されたメトホルミン(単独あるいは他の経口糖尿病薬との併用)とプラセボを前向きに比較した206研究(期間:1ヵ月以上) | メトホルミン投与例の乳酸アシドーシス発症頻度は6.3/100,000人年と,メトホルミン非投与例の7.8/100,000人年と比較しむしろ低値であった |
37)Calabrese AT et al, 2002 コホート研究 レベル4 | メトホルミンを投与された入院糖尿病(204人) | コホートによる横断調査 | メトホルミンを投与された人の10%は,80歳以上であった |
38)Morgan CLI et al, 2000 コホート研究 レベル4 | 地域(英国)在住糖尿病(10,709人) | コホートによる横断調査 | 高齢者糖尿病では,20~30%が複数の血管合併症をもち,大血管症の合併率が高かった |
39)Araki A et al, 2004 コホート研究 レベル3 | 65歳以上の日本人糖尿病(1,135人) | コホートによる横断調査(多施設共同研究) | 高齢者,特に80歳以上,複数血管合併症例,インスリン治療例,well-being低下例,認知機能低下例,視力障害例では生活機能障害の合併頻度が高い |
40)Gregg EW et al, 2000 コホート研究 レベル3 | 60歳以上の,糖尿病(1,030人)を含む地域(米国)住民(6,588人) | コホートによる横断調査 | 糖尿病における生活機能障害(400m以上を休まずに歩けない,階段10段を休まずに昇れない,電気掃除機が使えない,拭き掃除ができない,ごみ掃除ができない,整理整頓ができない,歩行速度の低下,椅子からの立ち上がり能力の低下,バランスをとる機能の低下)の頻度は,非糖尿病の2~3倍であった |
41)Gregg EW et al, 2002 コホート研究 レベル3 | 65歳以上の,糖尿病(527人)を含む地域(米国)女性住民(8,344人) | コホートに対する前向き追跡(12年間)調査 | 糖尿病における生活機能障害(400m以上を休まずに歩けない,階段10段を休まずに昇れない,力のいる家事ができない,買物ができない,食事を用意できない)の発生頻度は,非糖尿病の2~2.5倍であった |
42)Cukierman T et al, 2005 コホート研究 レベル2 | 糖尿病および非糖尿病 | 糖尿病と認知機能に関する前向き追跡調査の系統的集積とメタアナリシス | 1年以上,脱落率30%未満の25の前向き追跡研究結果をメタアナリシスすると,非糖尿病と比較し,糖尿病では認知機能低下速度が1.2~1.5倍,認知症発症率は1.6倍高値であった |
43)Launer LJ, 2005 コホート研究 レベル3 | 糖尿病および非糖尿病 | 糖尿病と認知機能に関する疫学調査と認知機能低下に関する基礎的検討報告の集積 | 糖尿病が,認知機能低下,認知症の危険因子とする疫学データが多くなってきたこと,この関係は高血糖自体の脳機能への影響,あるいは糖尿病に合併することの多い高血圧,高脂血症,高インスリン血症などによる影響と考えられることを述べた総説 |
44)Araki A et al, 2004 コホート研究 レベル3 | 63歳以上の,日本人糖尿病376人 | コホートに対する前向き追跡(3年間)調査 | well-being低値は,糖尿病負担感とともに,脳卒中の独立した有意な危険因子のひとつであった |
45)Rosenthal MJ et al, 1998 コホート研究 レベル3 | 65歳以上の米国在住糖尿病(135人)と非糖尿病(142人) | コホートに対する前向き追跡(3年間)調査 | 死亡率は3,250/100,000人年であり非糖尿病と同等であったが,糖尿病の入院頻度は非糖尿病の2倍であった.また,うつは糖尿病の入院および死亡の最も強い危険因子であった |
46)Lifford KL et al, 2005 コホート研究 レベル3 | 50~75歳の,糖尿病(4,277人)を含む米国在住女性看護師(81,845人) | コホートに対する前向き追跡(4年間)調査 | 糖尿病(特に罹病期間が10年以上)では,尿失禁の有病率,発症率が,それぞれ1.28および1.21倍高値であった |