(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
17.高齢者の糖尿病
解説
5.高齢者糖尿病の特徴と治療の視点
高齢者糖尿病では,複数の糖尿病細小血管症,大血管症38),糖尿病とは無関係の疾患,またそれらの疾患や老化を原因としてADL低下,認知機能低下,低栄養など自立した生活,自己管理を困難とする生活機能障害を持つ例の頻度が高くなる39),40),41).
認知症は高齢者の医療における大きな問題のひとつであるが,糖尿病が認知機能低下の危険因子であること,糖尿病では認知症の発症頻度の高いことが,25の前向き追跡調査(多くは高齢者のみを追跡対象としている)のメタアナリシスで明らかにされている42).糖尿病における脳血管障害の多発,高血圧,高脂血症あるいは高インスリン血症などの合併頻度の高いこと42)といったことのみではなく,高血糖自体も認知機能低下の原因になると考えられている42),43).
高齢者糖尿病の治療においては,糖尿病,糖尿病細小血管症,大血管症のみならず,他疾患および認知症,ADLの低下などの生活機能障害の発症あるいは悪化予防が重要である.したがって,血糖のみならず,体重,血圧,血清脂質などの適切な管理(表1),他疾患の適切な管理,さらに適切な食生活,運動の実施などにも十分な配慮を行う必要がある.
高齢者糖尿病の医療においては,QOLの維持・向上が重要である.QOLの低いことは脳卒中の危険因子であり44),QOLの主要な低下要因のひとつであるうつ状態は入院や死亡の危険因子である45).また,尿失禁は高齢者のQOLを低下させる大きな要因のひとつであるが,糖尿病は高齢者女性の尿失禁の危険因子である46).
インスリン治療の導入や厳しい生活規制など糖尿病の治療自体がQOLの低下要因となることがある.QOLの低下を最小のものとするため,その必要性と長期的にはQOL維持に有用であることを十分に説明し,治療がQOLを低下させることがないように細心の注意を払い,糖尿病の状態のみならず,個々の患者の身体的,精神・心理的,社会的背景および本人の希望を十分に考慮した,それぞれの患者に最適と考えられる治療を実施すべきである(表2).また,尿失禁に関しても適切な問診で把握し,適切な医療を実施すべきである.
表1 高齢者糖尿病における危険因子の治療目標値と留意点
表2 高齢者糖尿病の治療において考慮すべきこと
認知症は高齢者の医療における大きな問題のひとつであるが,糖尿病が認知機能低下の危険因子であること,糖尿病では認知症の発症頻度の高いことが,25の前向き追跡調査(多くは高齢者のみを追跡対象としている)のメタアナリシスで明らかにされている42).糖尿病における脳血管障害の多発,高血圧,高脂血症あるいは高インスリン血症などの合併頻度の高いこと42)といったことのみではなく,高血糖自体も認知機能低下の原因になると考えられている42),43).
高齢者糖尿病の治療においては,糖尿病,糖尿病細小血管症,大血管症のみならず,他疾患および認知症,ADLの低下などの生活機能障害の発症あるいは悪化予防が重要である.したがって,血糖のみならず,体重,血圧,血清脂質などの適切な管理(表1),他疾患の適切な管理,さらに適切な食生活,運動の実施などにも十分な配慮を行う必要がある.
高齢者糖尿病の医療においては,QOLの維持・向上が重要である.QOLの低いことは脳卒中の危険因子であり44),QOLの主要な低下要因のひとつであるうつ状態は入院や死亡の危険因子である45).また,尿失禁は高齢者のQOLを低下させる大きな要因のひとつであるが,糖尿病は高齢者女性の尿失禁の危険因子である46).
インスリン治療の導入や厳しい生活規制など糖尿病の治療自体がQOLの低下要因となることがある.QOLの低下を最小のものとするため,その必要性と長期的にはQOL維持に有用であることを十分に説明し,治療がQOLを低下させることがないように細心の注意を払い,糖尿病の状態のみならず,個々の患者の身体的,精神・心理的,社会的背景および本人の希望を十分に考慮した,それぞれの患者に最適と考えられる治療を実施すべきである(表2).また,尿失禁に関しても適切な問診で把握し,適切な医療を実施すべきである.
表1 高齢者糖尿病における危険因子の治療目標値と留意点
1)体重 | ||
<治療目標値> | ||
BMI=22 [BMI=体重kg/(身長,m)2] | ||
<留意点> | ||
高齢者において若・壮年者と同様にBMI22が最も疾病が少ないというevidenceは十分ではない.またBMI22を目指した減量の有効性を明らかにしたRCTはない.しかし,肥満は高齢者において,耐糖能低下,大血管症,あるいはADL低下などの危険因子となることからBMI22を目標として体重を管理することが妥当であると考えられる. | ||
2)血糖 | ||
<治療目標値> | ||
正常化をはかることが望ましい. それが難しい場合は,空腹時血糖値140mg/dL未満,HbA1c 7%未満を目標とする. | ||
<留意点> | ||
血糖は正常化をはかることが望ましいが,高齢者の場合,種々の条件からその達成が難しいことがある.そのような場合でも,空腹時血糖値140mg/dL未満,HbA1c 7%未満を目標とする. 十分な血糖コントロールが維持できない場合は,種々の合併症の発症・進展の有無を定期的に検索することが必要である. | ||
3)血清脂質 | ||
<治療目標値> | ||
(1)血清総コレステロール 冠動脈疾患(-):200mg/dL未満 冠動脈疾患(+):180mg/dL未満 (2)血清LDLコレステロール 冠動脈疾患(-):120 mg/dL未満 冠動脈疾患(+):100 mg/dL未満 (3)血清中性脂肪:150mg/dL未満 (4)血清HDLコレステロール:40mg/dL以上 | ||
<留意点> | ||
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版」では,少なくとも70歳までは上記の若・壮年者と同様の脂質管理を行うべきとしている.しかし,75歳以上の例に関しては,十分なevidenceのないことから,個々の患者の医学的,社会的背景を考慮して,主治医の判断で対応すべきとしている. なお,上記冠動脈疾患とは,確定診断された心筋梗塞,狭心症である. | ||
4)血圧 | ||
<治療目標値> | ||
収縮期血圧:130mmHg未満 拡張期血圧:80mmHg未満 | ||
<留意点> | ||
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン(JSH2004)」では,前期高齢(65~74歳)でも,後期高齢(75歳以上)でも140/90mmHg未満を最終降圧目標とするとされている.しかし,後期高齢で収縮期血圧160mmHg以上の中等度・重症高血圧の場合は,まず150/90mmHg未満を暫定的降圧目標とし,慎重に降圧することが必要である. 一方,血管合併症の多発する糖尿病では年齢にかかわらず130/80mmHg未満を降圧目標とすることとしている.臓器血流障害,自動調節能力障害による徴候(めまい,立ちくらみなどの脳虚血性兆候や狭心症症状など)の有無に注意しつつ緩徐な降圧を心掛けることが必要である. |
表2 高齢者糖尿病の治療において考慮すべきこと
糖尿病の状態 | |
耐糖能,病型,病態,合併症の状態など | |
他疾患の状態 | |
他疾患の有無,重症度,生命予後など | |
日常生活機能 | |
基本的ADL:食事,排泄,移動,更衣,整容,入浴 手段的ADL:買い物,調理,家事,家計,電話,薬の管理,利用可能な交通手段,社会活動 | |
精神・心理機能 | |
認知機能(改定長谷川式スケール,ミニメンタルテストなどで評価) うつ状態(Geriatric Depression Scale:GDSなどで評価) 意欲(鳥羽式スケールなどで評価) | |
社会・経済的機能 | |
家族構成,家族や友人との交流状態,住居,経済的状態,地域の介護機能など | |
QOL | |
フィラデルフィア老年医学センター(PGC)モラールスケールなどで評価 |