(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
17.高齢者の糖尿病
解説
4.高齢者における糖尿病治療と留意点
高齢者糖尿病においても,食事療法は高血糖,高脂血症あるいは肥満の是正に有用である19),20).食事療法の指導にあたっては,基本的には日本糖尿病学会編集の食品交換表を用いるが,その理解が難しい場合はより簡易な指導媒体による指導を考慮することもひとつの方法である20).
高齢者においても定期的な身体活動や歩行を含む運動療法の実施は糖尿病代謝異常の是正に有用であるばかりでなく,生命予後21),22),大血管症の予防21),22),23),ADLの維持24),あるいは認知機能も低下予防25)に有用であることが示唆されており,実施すべき治療法であると考えられる.しかし,骨・関節疾患,虚血性心疾患,肺疾患,糖尿病腎症第3期B(顕性腎症後期)以上の糖尿病腎症を含む腎疾患,中等度以上の非増殖性糖尿病網膜症あるいは増殖性糖尿病網膜症などを有する例においては,運動の実施による病態の悪化,心血管イベントの誘発などを生じないため,運動強度が軽〜中等度の運動を選択し,かつ症状,検査所見の推移の十分な監視のもとに運動療法を実施すべきである.
高齢者においても,糖尿病治療薬は糖尿病による代謝異常の是正に有用である26),27),28),29).しかし,高齢者では加齢に伴う腎機能の低下などによる薬物排泄の遅延,低血糖が懸念される.したがって,腎排泄型,長期作用型あるいは血糖低下作用の強い薬物は慎重に投与すべきであり,少量からの投与開始,慎重な増量を心掛けることが重要である.
高齢者糖尿病の糖尿病治療薬による治療においては低血糖が問題にされることが多いが,高齢者で糖尿病治療薬による低血糖が多くなることを明らかにしたRCTによるevidenceはない30).しかし,糖尿病治療薬による重症低血糖は高齢者31),32),特に後期高齢者(75歳以上の高齢者),多剤(糖尿病治療薬以外)併用例,退院直後の例33),腎不全例,食事摂取量低下例32)などに発症しやすいとされているので,このような症例への糖尿病治療薬の投与,投与後の経過観察はより慎重に行うべきである.重症低血糖は長期作用型でしかも腎排泄型のSU薬で惹起されることが多いので,腎不全患者ではこれらの薬剤の使用は原則として避けるべきであろう.また,高齢者では筋肉量の減少などのため血清クレアチニン値が低くなる傾向があるので,血清クレアチニン値のみから腎機能を推定することは危険とされていることに注意する必要がある.高齢者の腎機能の推定にあたってはCockcroft-Gaultのクレアチニンクリアランス推測式や日本腎臓病学会慢性腎臓対策小委員会によるMDRD簡易式による推定GFR値(「8.糖尿病腎症の治療」の表3を参照)により判断するのが妥当とされている.
高齢者では低血糖の自覚症が軽微であることが多い34).また,高齢者では典型的な低血糖症状のみならず,ふらふらして気が遠くなる感じ,落ち着かない感じ,力が入らない感じ,あるいは錯乱35),ときに認知症様症状,うつ様症状など非典型的な中枢神経症状を主症状として訴える例も少なくないので,他疾患あるいは高齢者でよくみられる症状として低血糖が見逃すことのないよう注意が必要である.また,糖尿病に対する知識の増加は低血糖の自覚症を強化する34)と考えられるので,十分な低血糖教育が必要である.糖尿病治療薬による重症低血糖は,発熱,下痢,嘔吐,あるいは食欲不振を伴う疾患に罹患した場合,いわゆるシックデイに発症することが多い.逆に,シックデイには高血糖になることもあり,シックデイにおける糖尿病治療薬の扱い方は難しい.したがって,他疾患罹患率の高い高齢者においては,シックデイの糖尿病治療薬の扱い方,対処法に関する教育を十分行うべきであるa).
最近のメタアナリシスによるとメトホルミン投与例における乳酸アシドーシスの発症頻度(6.3/100,000人年)は,非投与例のそれ(7.8/100,000人年)とほぼ同等であり,メトホルミン投与で乳酸アシドーシスが多発するとはいえないとしている36).しかし,一般的には,80歳以上の高齢者,80歳未満であっても腎機能低下,心不全,代謝性アシドーシス,造影剤静脈注射後48時間以内,肝機能障害,低酸素血症など乳酸アシドーシスの危険因子がある場合は,メトホルミンの投与は原則として避けるべきとされている37).
高齢者においても定期的な身体活動や歩行を含む運動療法の実施は糖尿病代謝異常の是正に有用であるばかりでなく,生命予後21),22),大血管症の予防21),22),23),ADLの維持24),あるいは認知機能も低下予防25)に有用であることが示唆されており,実施すべき治療法であると考えられる.しかし,骨・関節疾患,虚血性心疾患,肺疾患,糖尿病腎症第3期B(顕性腎症後期)以上の糖尿病腎症を含む腎疾患,中等度以上の非増殖性糖尿病網膜症あるいは増殖性糖尿病網膜症などを有する例においては,運動の実施による病態の悪化,心血管イベントの誘発などを生じないため,運動強度が軽〜中等度の運動を選択し,かつ症状,検査所見の推移の十分な監視のもとに運動療法を実施すべきである.
高齢者においても,糖尿病治療薬は糖尿病による代謝異常の是正に有用である26),27),28),29).しかし,高齢者では加齢に伴う腎機能の低下などによる薬物排泄の遅延,低血糖が懸念される.したがって,腎排泄型,長期作用型あるいは血糖低下作用の強い薬物は慎重に投与すべきであり,少量からの投与開始,慎重な増量を心掛けることが重要である.
高齢者糖尿病の糖尿病治療薬による治療においては低血糖が問題にされることが多いが,高齢者で糖尿病治療薬による低血糖が多くなることを明らかにしたRCTによるevidenceはない30).しかし,糖尿病治療薬による重症低血糖は高齢者31),32),特に後期高齢者(75歳以上の高齢者),多剤(糖尿病治療薬以外)併用例,退院直後の例33),腎不全例,食事摂取量低下例32)などに発症しやすいとされているので,このような症例への糖尿病治療薬の投与,投与後の経過観察はより慎重に行うべきである.重症低血糖は長期作用型でしかも腎排泄型のSU薬で惹起されることが多いので,腎不全患者ではこれらの薬剤の使用は原則として避けるべきであろう.また,高齢者では筋肉量の減少などのため血清クレアチニン値が低くなる傾向があるので,血清クレアチニン値のみから腎機能を推定することは危険とされていることに注意する必要がある.高齢者の腎機能の推定にあたってはCockcroft-Gaultのクレアチニンクリアランス推測式や日本腎臓病学会慢性腎臓対策小委員会によるMDRD簡易式による推定GFR値(「8.糖尿病腎症の治療」の表3を参照)により判断するのが妥当とされている.
高齢者では低血糖の自覚症が軽微であることが多い34).また,高齢者では典型的な低血糖症状のみならず,ふらふらして気が遠くなる感じ,落ち着かない感じ,力が入らない感じ,あるいは錯乱35),ときに認知症様症状,うつ様症状など非典型的な中枢神経症状を主症状として訴える例も少なくないので,他疾患あるいは高齢者でよくみられる症状として低血糖が見逃すことのないよう注意が必要である.また,糖尿病に対する知識の増加は低血糖の自覚症を強化する34)と考えられるので,十分な低血糖教育が必要である.糖尿病治療薬による重症低血糖は,発熱,下痢,嘔吐,あるいは食欲不振を伴う疾患に罹患した場合,いわゆるシックデイに発症することが多い.逆に,シックデイには高血糖になることもあり,シックデイにおける糖尿病治療薬の扱い方は難しい.したがって,他疾患罹患率の高い高齢者においては,シックデイの糖尿病治療薬の扱い方,対処法に関する教育を十分行うべきであるa).
最近のメタアナリシスによるとメトホルミン投与例における乳酸アシドーシスの発症頻度(6.3/100,000人年)は,非投与例のそれ(7.8/100,000人年)とほぼ同等であり,メトホルミン投与で乳酸アシドーシスが多発するとはいえないとしている36).しかし,一般的には,80歳以上の高齢者,80歳未満であっても腎機能低下,心不全,代謝性アシドーシス,造影剤静脈注射後48時間以内,肝機能障害,低酸素血症など乳酸アシドーシスの危険因子がある場合は,メトホルミンの投与は原則として避けるべきとされている37).