(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
15.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病


解説

1.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病
糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病(GDM)などの糖代謝異常妊娠では表1に示したように,母児にさまざまな合併症が生じうる.糖尿病合併妊娠では,妊娠高血圧症候群などの産科的母体合併症の発症,網膜症などの糖尿病合併症の増悪,先天奇形,巨大児,新生児低血糖症,新生児低カルシウム血症などの周産期合併症,児が成長した時の糖尿病や肥満の発症などの頻度が上昇する.妊娠時に診断目的で施行した75gブドウ糖負荷試験において非妊娠時の判定基準の糖尿病域に至らないGDMでは,周産期合併症の中でも巨大児や新生児低血糖症,母親の将来の糖尿病発症が主要な問題となる.糖尿病合併妊娠と糖尿病域に至らないGDMとは合併症の種類や程度が異なるので,GDMの中で糖尿病型を満たすものは糖尿病と同様に取り扱うこととし,糖尿病域に至らないGDMとは区別することにしている.
以前のGDMの概念では,妊娠時に耐糖能低下をきたすが分娩後に正常化するものとされていた.しかし,この定義では分娩後にならないと診断が確定しないのでは実地臨床上問題があること,児の合併症は妊娠中の血糖値の程度によって左右され,分娩後の正常化の有無とは直接的には関係がないこと,妊娠時に発見される耐糖能低下には妊娠前から存在するものが多く含まれることなどからGDMの定義の見直しがなされたものである.
またGDMの診断基準は国際的に統一されておらず,なお暫定的である.わが国では75g経口糖負荷試験で,負荷前値100mg/dL以上,1時間値180mg/dL以上,2時間値150mg/dL以上のうち,2点以上を満たすものとする診断基準が用いられているa),b).このGDM診断基準値は健常妊婦の平均値+2SDによって定められたが,児の合併症の頻度ともおおむね相関する20).GDMの診断基準は元来,母親の将来の糖尿病発症を指標として定められたが,現在,周産期合併症に基づくGDM診断基準作成のための,国際的大規模前向き研究(HAPO Study21))が行われている.国際的に新しい診断基準が提案されるまでは,当面の間従来の診断基準を用いることが現実的な対応であると考えられる.


表1 糖代謝異常妊娠の母児合併症
母体合併症
  • 1)糖尿病合併症
  • 糖尿病ケトアシドーシス
  • 糖尿病網膜症の悪化
  • 糖尿病腎症の悪化
  • 低血糖(インスリン使用時)
  • 2)産科合併症
  • 流産
  • 早産症
  • 妊娠高血圧症候群
  • 羊水過多(症)
  • 巨大児にもとづく難産
児合併症
  • 1)周産期合併症
  • 胎児仮死・胎児死亡
  • 先天奇形
  • 巨大児
  • 肩甲難産による分娩障害
  • 胎児発育遅延
  • 新生児低血糖症
  • 新生児高ビリルビン血症
  • 新生児低カルシウム血症
  • 新生児多血症
  • 新生児呼吸窮迫症候群
  • 肥厚性心筋症
    2)成長期合併症
  • 肥満・糖尿病

 
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