(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
11.糖尿病大血管症
解説
1.疫学(大血管症の危険因子)
冠動脈疾患は,欧米諸国では,死亡原因の30〜50%を占め,日本においても脳血管障害とともに,死因の上位を占める.一方,わが国における脳血管障害の発症率は従来から高く,その予防は日本人ではきわめて重要な課題である.従来,日本人の冠動脈疾患の発症率は欧米の約5分の1程度とされていたが,日本人2型糖尿病患者における冠動脈疾患の発症率は欧米の約2分の1まで増加している.また,脳血管障害の発症率も増加傾向にある.
糖尿病は大血管症の重要な危険因子のひとつで,1型,2型糖尿病患者では,非糖尿病者に比べて冠動脈疾患の頻度は2〜4倍に上昇する.糖尿病だけではなく耐糖能が境界型のものでも冠動脈疾患の発症リスクは正常型に比べて高く,特にブドウ糖負荷後2時間値が高いものでリスクが高いと報告されている1),2).女性の冠動脈疾患発症のリスクは男性の約1/2であるが,糖尿病患者では,冠動脈疾患のリスクとしての性差は減少する3).
また,糖尿病患者では,心筋虚血が存在しても明確な症状に欠けることが多い4).冠動脈疾患の既往がない糖尿病患者の心筋梗塞発症率は,非糖尿病者で心筋梗塞の既往がある者の再発率とほぼ同等で,心筋梗塞の既往がある糖尿病患者の心筋梗塞再発率は心筋梗塞の既往がある非糖尿病者の心筋梗塞再発率よりもさらに高い5),6),7),8),9),10),11).さらに,心筋梗塞後に心不全を併発することが多く,再発の頻度も4倍高い12).
脳血管障害も糖尿病患者では高く,久山町研究では,糖尿病患者における脳梗塞発症リスクは,非糖尿病者の約3倍であった2).糖尿病における脳血管障害の特徴は,脳梗塞の発症が多いことである.一方,脳出血およびくも膜下出血の頻度は低い.脳梗塞の中でもラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の頻度が多い13),14),15).また,冠動脈疾患同様,糖尿病に合併する脳血管障害は予後が不良であり,死亡率も高い15),16).
糖尿病患者における閉塞性動脈硬化症の頻度も非糖尿病者の約4倍と高く,壊疽,下肢の切断の原因となっている17).糖尿病に合併する閉塞性動脈硬化症では,糖尿病神経障害の合併により,虚血による痛みを感じにくく,閉塞性動脈硬化症の存在が隠蔽されやすい.また,病変がびまん性で,大腿動脈以下の末梢に認められる傾向にある.閉塞性動脈硬化症合併2型糖尿病患者は,非合併2型糖尿病患者に比べて心血管疾患死が高率である18).
1型糖尿病においても大血管症の発症率は高く,欧米の報告では,1型糖尿病患者における冠動脈疾患の頻度は非糖尿病者の2〜4倍である19).特に,腎症を合併している1型糖尿病患者で大血管症の発症頻度が増加する20),21).
大血管症の危険因子には,加齢,男性であること,高血圧,脂質代謝異常[高LDLコレステロール(LDL-C)血症,低HDLコレステロール(HDL-C)血症,高トリグリセリド血症],高血糖,肥満,喫煙などがあり,前2者を除くものが是正可能な因子である.UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)の結果によると,2型糖尿病における冠動脈疾患の危険因子は,高LDL-C血症,低HDL-C血症,高血圧,高血糖,喫煙であった22).同じく,UKPDSの結果によると,2型糖尿病における脳卒中発症の危険因子は,年齢,男性であること,高血圧,心房細動であった23).糖尿病患者における閉塞性動脈硬化症の危険因子は,喫煙,高血圧,高脂血症,加齢である18).久山町研究では,糖尿病患者における心血管疾患発症の危険因子は,空腹時血糖値,HbA1c,血清総コレステロール値,LDL-C値,BMI,収縮期血圧であった24).JDCS(Japan Diabetes Complications Study)の8年次中間解析結果によると,LDL-C値と性別(男性),トリグリセリド値が冠動脈疾患の,そして収縮期血圧が脳卒中の独立した危険因子であった25).糖尿病腎症も心血管疾患の独立した危険因子である26),27),28).UKPDSでは,腎症のない2型糖尿病患者の心血管疾患死は年間0.7%であるのに対し,微量アルブミン尿で2.0%,顕性蛋白尿で3.5%,腎不全期で12.1%であることが報告されている26).
腎症を合併した1型糖尿病患者は,高血圧や脂質代謝異常を合併する頻度が高く,2型糖尿病同様,大血管症の危険因子の重複により大血管症発症のリスクが増加している29).
肥満は内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満に分類されるが,内臓脂肪型肥満は大血管症の危険因子を重複し,しばしばメタボリックシンドロームの状態を呈する.2型糖尿病においても,メタボリックシンドロームの合併により心血管疾患発症のリスクが増加する30).
糖尿病は大血管症の重要な危険因子のひとつで,1型,2型糖尿病患者では,非糖尿病者に比べて冠動脈疾患の頻度は2〜4倍に上昇する.糖尿病だけではなく耐糖能が境界型のものでも冠動脈疾患の発症リスクは正常型に比べて高く,特にブドウ糖負荷後2時間値が高いものでリスクが高いと報告されている1),2).女性の冠動脈疾患発症のリスクは男性の約1/2であるが,糖尿病患者では,冠動脈疾患のリスクとしての性差は減少する3).
また,糖尿病患者では,心筋虚血が存在しても明確な症状に欠けることが多い4).冠動脈疾患の既往がない糖尿病患者の心筋梗塞発症率は,非糖尿病者で心筋梗塞の既往がある者の再発率とほぼ同等で,心筋梗塞の既往がある糖尿病患者の心筋梗塞再発率は心筋梗塞の既往がある非糖尿病者の心筋梗塞再発率よりもさらに高い5),6),7),8),9),10),11).さらに,心筋梗塞後に心不全を併発することが多く,再発の頻度も4倍高い12).
脳血管障害も糖尿病患者では高く,久山町研究では,糖尿病患者における脳梗塞発症リスクは,非糖尿病者の約3倍であった2).糖尿病における脳血管障害の特徴は,脳梗塞の発症が多いことである.一方,脳出血およびくも膜下出血の頻度は低い.脳梗塞の中でもラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の頻度が多い13),14),15).また,冠動脈疾患同様,糖尿病に合併する脳血管障害は予後が不良であり,死亡率も高い15),16).
糖尿病患者における閉塞性動脈硬化症の頻度も非糖尿病者の約4倍と高く,壊疽,下肢の切断の原因となっている17).糖尿病に合併する閉塞性動脈硬化症では,糖尿病神経障害の合併により,虚血による痛みを感じにくく,閉塞性動脈硬化症の存在が隠蔽されやすい.また,病変がびまん性で,大腿動脈以下の末梢に認められる傾向にある.閉塞性動脈硬化症合併2型糖尿病患者は,非合併2型糖尿病患者に比べて心血管疾患死が高率である18).
1型糖尿病においても大血管症の発症率は高く,欧米の報告では,1型糖尿病患者における冠動脈疾患の頻度は非糖尿病者の2〜4倍である19).特に,腎症を合併している1型糖尿病患者で大血管症の発症頻度が増加する20),21).
大血管症の危険因子には,加齢,男性であること,高血圧,脂質代謝異常[高LDLコレステロール(LDL-C)血症,低HDLコレステロール(HDL-C)血症,高トリグリセリド血症],高血糖,肥満,喫煙などがあり,前2者を除くものが是正可能な因子である.UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)の結果によると,2型糖尿病における冠動脈疾患の危険因子は,高LDL-C血症,低HDL-C血症,高血圧,高血糖,喫煙であった22).同じく,UKPDSの結果によると,2型糖尿病における脳卒中発症の危険因子は,年齢,男性であること,高血圧,心房細動であった23).糖尿病患者における閉塞性動脈硬化症の危険因子は,喫煙,高血圧,高脂血症,加齢である18).久山町研究では,糖尿病患者における心血管疾患発症の危険因子は,空腹時血糖値,HbA1c,血清総コレステロール値,LDL-C値,BMI,収縮期血圧であった24).JDCS(Japan Diabetes Complications Study)の8年次中間解析結果によると,LDL-C値と性別(男性),トリグリセリド値が冠動脈疾患の,そして収縮期血圧が脳卒中の独立した危険因子であった25).糖尿病腎症も心血管疾患の独立した危険因子である26),27),28).UKPDSでは,腎症のない2型糖尿病患者の心血管疾患死は年間0.7%であるのに対し,微量アルブミン尿で2.0%,顕性蛋白尿で3.5%,腎不全期で12.1%であることが報告されている26).
腎症を合併した1型糖尿病患者は,高血圧や脂質代謝異常を合併する頻度が高く,2型糖尿病同様,大血管症の危険因子の重複により大血管症発症のリスクが増加している29).
肥満は内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満に分類されるが,内臓脂肪型肥満は大血管症の危険因子を重複し,しばしばメタボリックシンドロームの状態を呈する.2型糖尿病においても,メタボリックシンドロームの合併により心血管疾患発症のリスクが増加する30).