(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
10.糖尿病足病変
解説
3.フットケア
糖尿病足病変で切断に至る例の多くは足潰瘍が壊疽に進行したものである.その足潰瘍や壊疽の基礎病態は,糖尿病神経障害と末梢動脈疾患による血流障害である.この2つの基礎病態のうち,糖尿病神経障害を有するが末梢動脈疾患はない糖尿病患者が,1年後にはじめて足潰瘍を発症した率は7.2%であった5).つまり,糖尿病足潰瘍や壊疽を予防するには,神経障害によって足趾が変形(鎚状足趾や足のアーチ構造の消失など)したり,神経障害によって痛みを感じにくくなっている胼胝の段階で発見し,適切な処置を継続することが必要であるa),b),c),d).
自覚症状が乏しい患者で足趾の変形や胼胝などを発見するには,症状がない患者の足を診察する以外にない.しかし,糖尿病の外来で糖尿病患者全員の足を毎回診察するのは非現実的である.よって,足潰瘍や壊疽になる頻度の高いハイリスク患者を選択して,足の診察を定期的に行うべきである.そのハイリスク患者とは,足切断や足潰瘍の既往がある患者,足趾に変形や胼胝がある患者,Semmes-Weinsteinモノフィラメント(5.07)を用いた検査で知覚が低下している患者6),間欠性跛行やABI(ankle-brachial index)低値(足の動脈圧と上腕の血圧の比0.8未満)などから末梢動脈疾患合併が示唆される患者,腎機能障害,特に腎不全患者3),視力障害,血糖コントロール不良,糖尿病の罹病年数が長い患者,などである7),8),9),10).糖尿病性腎不全患者の足切断率は,腎不全のない糖尿病患者での切断の4〜10倍とされている.
以上のように足病変のリスクはさまざまであるが,前向き調査で有効性が確認されているリスク分類としては,糖尿病足病変に関する国際ワーキンググループによるリスク分類がある11)(表1).
足病変のリスクが高い患者を診るときは,足の違和感や痛みや胼胝の痛みの有無を問診したり,アキレス腱反射やモノフィラメントを用いて神経障害の程度や変化を確認する.足と足趾の診察では,足の乾燥や角化,足趾の変形や胼胝の有無,白癬菌症の有無,血流障害の確認を行う.知覚低下やアキレス腱反射消失,皮膚の変化や足趾の変形や胼胝を認めた場合は,予防的なフットケアを指導すると同時に,継続して足や足趾の診察を行うべきである.ハイリスク患者を対象とした予防的なフットケアや予防プログラムは有効であったと報告されている12),13),14),15),16).
また,履き物の不具合が足病変発症や足潰瘍再発の原因となることが少なくない.しかし,比較的軽度の足潰瘍既往者を対象に,適正に作った靴や中敷の効果を無作為化調査で評価した調査では,治療靴や中敷よりも,定期的な足の診察によって足潰瘍の再発が予防できたという報告がある17).つまり,ハイリスク患者では足を直接定期的に診察することが,足病変や足潰瘍の再発予防上重要である.わが国には足治療士の制度がないので,糖尿病を治療する医師や看護師がハイリスク患者の足を定期的に診察する必要がある.足に白癬菌症や胼胝を発見した場合は,白癬菌を同定したり,胼胝を削るために皮膚科に依頼する.
表1 糖尿病足病変に関する国際ワーキンググループによるリスク分類
―3年後の潰瘍発生率と適正な診察間隔11), a)
自覚症状が乏しい患者で足趾の変形や胼胝などを発見するには,症状がない患者の足を診察する以外にない.しかし,糖尿病の外来で糖尿病患者全員の足を毎回診察するのは非現実的である.よって,足潰瘍や壊疽になる頻度の高いハイリスク患者を選択して,足の診察を定期的に行うべきである.そのハイリスク患者とは,足切断や足潰瘍の既往がある患者,足趾に変形や胼胝がある患者,Semmes-Weinsteinモノフィラメント(5.07)を用いた検査で知覚が低下している患者6),間欠性跛行やABI(ankle-brachial index)低値(足の動脈圧と上腕の血圧の比0.8未満)などから末梢動脈疾患合併が示唆される患者,腎機能障害,特に腎不全患者3),視力障害,血糖コントロール不良,糖尿病の罹病年数が長い患者,などである7),8),9),10).糖尿病性腎不全患者の足切断率は,腎不全のない糖尿病患者での切断の4〜10倍とされている.
以上のように足病変のリスクはさまざまであるが,前向き調査で有効性が確認されているリスク分類としては,糖尿病足病変に関する国際ワーキンググループによるリスク分類がある11)(表1).
足病変のリスクが高い患者を診るときは,足の違和感や痛みや胼胝の痛みの有無を問診したり,アキレス腱反射やモノフィラメントを用いて神経障害の程度や変化を確認する.足と足趾の診察では,足の乾燥や角化,足趾の変形や胼胝の有無,白癬菌症の有無,血流障害の確認を行う.知覚低下やアキレス腱反射消失,皮膚の変化や足趾の変形や胼胝を認めた場合は,予防的なフットケアを指導すると同時に,継続して足や足趾の診察を行うべきである.ハイリスク患者を対象とした予防的なフットケアや予防プログラムは有効であったと報告されている12),13),14),15),16).
また,履き物の不具合が足病変発症や足潰瘍再発の原因となることが少なくない.しかし,比較的軽度の足潰瘍既往者を対象に,適正に作った靴や中敷の効果を無作為化調査で評価した調査では,治療靴や中敷よりも,定期的な足の診察によって足潰瘍の再発が予防できたという報告がある17).つまり,ハイリスク患者では足を直接定期的に診察することが,足病変や足潰瘍の再発予防上重要である.わが国には足治療士の制度がないので,糖尿病を治療する医師や看護師がハイリスク患者の足を定期的に診察する必要がある.足に白癬菌症や胼胝を発見した場合は,白癬菌を同定したり,胼胝を削るために皮膚科に依頼する.
表1 糖尿病足病変に関する国際ワーキンググループによるリスク分類
―3年後の潰瘍発生率と適正な診察間隔11), a)
グループ | リスク | 3年後の潰瘍発生率 | 適正な診察間隔 |
グループ0 | 神経障害なし | 5.1% | 1年に1回 |
グループ1 | 神経障害あり | 14.3% | 半年に1回 |
グループ2 | 神経障害/血管障害/足の変形 | 18.8% | 3ヵ月ごと |
グループ3 | 足潰瘍の既往あり | 55.8% | 1〜3ヵ月に1回 |