(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
9.糖尿病神経障害の治療


解説

6.自律神経障害の治療
自律神経障害が出現すると,自律神経の関与する全身臓器の機能異常をきたすため,発汗異常,起立性低血圧,胃無力症,便通異常,膀胱機能障害,勃起障害,無自覚低血糖などの多彩な症状を示す.神経障害が軽症の場合は,血糖コントロールの改善と生活習慣の改善を行えば,これらの機能障害は改善することが多い.しかし,神経障害が進行し,日常生活を障害する場合は,症状に応じた薬物による対症療法が必要である.
起立性低血圧に対しては,まず血圧低下をきたしやすい薬剤を中止するとともに,立位時などに急激な体位変換を避けるように指導する.食事の少量頻回摂取は食後の血圧低下予防に有効である.弾性下着による下肢・下腹部の圧迫は起立性低血圧に有効であり,塩分摂取,酢酸フルドロコルチゾンの投与も有効であるが,これらは浮腫や心不全をきたしやすく注意が必要である.昇圧薬も症例によっては有効であるが,臥位での高血圧をきたしやすく,臨床的有用性を考慮しながら使用すべきである.
胃無力症に対しては,食事の少量頻回摂取,脂肪および繊維の摂取制限を行う.軽症例では,これらの対症療法のみで症状が改善することも多い.薬物療法が必要な場合は,メトクロプラミド,ドンペリドンが有効であるが,いずれも長期使用により副作用として錐体外路症状をきたしやすく注意が必要である.抗生物質のエリスロマイシンも消化管運動改善作用のあることが報告されているが32),わが国では胃無力症に対する使用は承認されていない.
勃起障害に対しては,まず勃起障害をきたしやすい薬剤の中止が必要である.薬物療法が必要な症例にはホスホジエステラーゼ阻害薬であるシルデナフィル33)あるいはバルデナフィル34)が有効である.ただし,虚血性心疾患に対してニトログリセリンや亜硝酸薬を使用している場合は,ホスホジエステラーゼ阻害薬の使用は重篤な血圧低下をきたすおそれが大きいことから禁忌である.ホスホジエステラーゼ阻害薬が無効の場合は泌尿器科医へ紹介する.
罹病期間が長く,神経障害の進展した症例では,無自覚低血糖を起こすリスクがある.このような症例には頻回の血糖自己測定を行わせ,できる限り低血糖を避けることが必要である(「20.糖尿病の療養指導・患者教育」の項参照).一度,重篤な低血糖を起こすと,その直後は無自覚低血糖を起こしやすくなることから,しばらくの間,目標血糖値をやや高めに設定するほうがよい.


 
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