(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
4.運動療法


解説

4.運動と血糖の変化
運動による血糖の変化は,そのときの代謝状態や運動の種類によりさまざまである.
健常者では中等度の強度の運動を行った場合,血液中のブドウ糖は骨格筋に取り込まれて利用されるが,インスリンの低下とグルカゴンの上昇により肝臓での糖産生が増加することにより血糖値はほとんど変化しない.2型糖尿病患者が同様の運動を行った場合,高血糖が存在するとともに運動中でもインスリンはさほど低下しないために肝臓での糖産生はあまり増加しないにもかかわらず,骨格筋での糖利用は増加するので,運動中の血糖値は低下する.また,運動終了後においてもグリコーゲン合成やインスリン感受性の亢進により血糖値は低下すると考えられている.したがって,インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療を行っている患者では,運動中のみならず運動当日〜翌日にも低血糖を生じるおそれがあるので注意が必要である.たとえば日中にいつもより余計に運動する場合には,速効型あるいは超速効型インスリンにて治療している症例では運動前のインスリン投与量を減少させ,中間型あるいは混合型インスリンにて治療している場合は朝のインスリン投与量を減少させるなどの調節が必要である.インスリンの投与量の調節は運動強度や運動の持続時間により異なるが,投与インスリン量を1/2〜2/3に減量するのが一般的であり,運動後や夕食前の血糖値に応じて夕食前のインスリン量も調節する必要がある場合もある.夕方以降に運動を行う場合には夜間の低血糖にも注意する必要がある.
一方,インスリン欠乏状態で全身性の強い運動を行った場合,肝臓での糖産生の増加は正常に生じるが,糖利用の増加が障害されるために運動中または運動後にかえって血糖は上昇し,ケトーシスを生じる可能性があると考えられている.1型糖尿病患者でケトーシスを起こしやすい症例などでは運動に際して投与インスリン量をあまり減らさず,補食で調整するとよい場合がある.
インスリン治療中の糖尿病患者が運動療法を行う場合の最適な時間帯についてはさまざまな意見があり,強化インスリン療法中の1型糖尿病患者においては早朝空腹時に行うのが最も低血糖が少ないとの報告28)もあるが,朝食後に行うと食後の血糖コントロールが改善するとの報告29)もある.
このように運動による血糖の変化はそのときの血糖値,インスリン投与法,運動の時間帯,持続時間,運動量などによって影響を受けるため,運動前,運動中,運動後の血糖自己測定を行い,運動による血糖の変化を把握し,食物摂取やインスリン療法の調整や運動療法の変更などで対応しなければならず,インスリン治療をしている糖尿病患者は運動の血糖に与える影響を知っておく必要がある.


 
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