(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
2.糖尿病治療の目標と指針


解説

2.血糖コントロールの指標と評価
血糖コントロールの指標と評価(表1)を示す.
血糖コントロール「優」とは,耐糖能正常者の上限値に基づいて選択された領域である.すなわち,HbA1c,空腹時血糖値,食後2時間血糖値の上限を健常人の正常上限である5.8%1),110mg/dL2),140mg/dL3)とした.
「良」の上限値は細小血管症の発症予防や進展抑制のための基準として選択されており,Kumamoto StudyにおいてHbA1cが6.5%未満,食後2時間血糖値が180mg/dL未満であれば細小血管合併症の出現する可能性が少ないことが報告4)されていることに基づいている.Kumamoto Studyはインスリン治療中の2型糖尿病患者によるスタディであることを考慮し,空腹時血糖値については,伊藤らによるHbA1cと空腹時血糖値との関係5)から決定したが,この値(130mg/dL)は,同じく伊藤らによる,空腹時血糖値が126mg/dL以上で糖尿病網膜症の罹患率や有病率が有意に上昇するとの成績6)にもおおよそ符合した値となっている.
血糖コントロールが「可」とは,下記の「不可」に述べるような治療法の変更を要する状態では必ずしもないが,それまでの治療の徹底により「良」ないしそれ以上に向けて,改善の努力を行うべき領域である.なお,HbA1cと細小血管症出現との関係には連続性が認められる4),7).米国においてHbA1c 7.0%未満が血糖コントロールの目標として採用されていること8),UKPDS9),DCCT10),Kumamoto Study4)において,合併症の発症と進展が抑制された強化療法群の平均HbA1cが7.0%であったことを鑑み,7.0%未満を血糖コントロール「可」の中でもよりコントロールがよい「不十分」とし,他を「不良」とした(この境界の血糖値は定めない).
血糖コントロールが「不可」とは,細小血管症への進展の危険が大きい状態であり,治療法の再検討を含めて何らかのアクションを起こす必要がある場合を指す.HbA1cと細小血管症出現との関係には連続性が認められ,閾値はないが,たとえばDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)においてもHbA1cが8.0%を超えると網膜症のリスク増加の傾きが大きくなること10),わが国でもHbA1cが8.0%を超えると著明に網膜症のリスクが増えることが明らかにされていること4),11),また,UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)の従来療法群ではそのHbA1cの中央値が7.9%で,この群において有意に細小血管合併症の発症が多かったこと12)から,HbA1c 8.0%をひとつの区切りとした.食後2時間血糖値についてはKumamoto Studyにおいて細小血管症に明らかな上昇がみられる220mg/dL以上を「不可」とし4),空腹時血糖値については「良」の上限値と同様に伊藤らによるHbA1cと空腹時血糖値との関係5)を参考に決定した.
細小血管症の発症予防や進展抑制のためには「良」または「優」の領域を目指すことが望ましい.
なお,空腹時血糖値,食後2時間血糖値の基準については,今後さらにevidenceの集積が必要であること,これらにHbA1cを加えた三者間の関係は治療法により異なるため,おのおのの領域の境界値として示した三者の基準値が必ずしも同一レベルの血糖コントロールを表すものではないことを付言する.また,以上の評価は主に細小血管症に対するリスクの観点からのものである.75g OGTT 2時間血糖値が心血管疾患における,血圧,脂質とは独立した危険因子であることがDECODE study13)により明らかにされた.大血管症のリスクに関しては,今後検討が必要である(「11.糖尿病大血管症」の項参照).
以上とは別に,妊娠(妊娠前から分娩までの間)に際してはHbA1c 5.8%未満,空腹時血糖値100mg/dL未満,食後2時間血糖値120mg/dL未満で低血糖のない状態を目標とすることを銘記されたい(「15.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病 」の項参照).


表1 血糖コントロールの指標と評価
指標 コントロールの評価とその範囲
不可
不十分 不良
HbA1c(%) 5.8未満 5.8〜6.5未満 6.5〜7.0未満 7.0〜8.0未満 8.0以上
6.5〜8.0未満
空腹時血糖値(mg/dL) 80〜110未満 110〜130未満 130〜160未満 160以上
食後2時間血糖値(mg/dL) 80〜140未満 140〜180未満 180〜220未満 220以上
  • 注1)血糖コントロールが「可」とは,治療の徹底により「良」ないしそれ以上に向けての改善の努力を行うべき領域である.「可」の中でも7.0%未満をよりコントロールがよい「不十分」とし,他を「不良」とした(この境界の血糖値は定めない).
  • 注2)妊娠(妊娠前から分娩までの間)に際しては,HbA1c 5.8%未満,空腹時血糖値100mg/dL未満,食後2時間血糖値120mg/dL未満で,低血糖のない状態を目標とする(「15.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病 」の項参照).
  • 注3)各国ごとの国内のHbA1cは標準化されている.日本におけるHbA1c値と国際標準とされるIFCC,あるいは米英の標準HbA1c値とを比較する場合には換算が必要である16),17)
  • 注4)HbA1c値は血中ヘモグロビンの半減期の変動や化学修飾によっても変動する.腎性貧血に対してエリスロポエチンを使用している場合などがこれに該当する18).このような状況ではグリコアルブミンを血糖コントロールの評価の参考とする(肝硬変,ネフローゼ症候群などにおいて,血中アルブミンの半減期の変動によりグリコアルブミンの値は変動するので注意が必要である).
  • 注5)1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)はHbA1c,グリコアルブミンに比して短期の血糖変化をとらえ,食後高血糖に対して感度が高いという特徴があり,血糖コントロールの評価の参考とすることがある.


 
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