(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
1.糖尿病診断の指針
解説
5.正常型と境界型の基準および境界型の取り扱い
正常型については1982年の日本糖尿病学会の基準値は空腹時<110mg/dL,1時間値<160mg/dL,2時間値<120mg/dLのすべてを満たすものと定められていた.これは,正常型とは数年間経過を観察しても糖尿病型に悪化するものがほとんどないという観点から選ばれた数値だった.現在の判定基準では,1時間値の基準値を省き,2時間値の基準値は<120mg/dLから<140mg/dLに引き上げてられている.これによって「正常型」から「糖尿病型」へ悪化する率は若干増加するが,それでも年間1%未満にとどまる.ちなみに境界型から糖尿病型への悪化率は年間4〜6%である.正常型の中でも,1時間値が180mg/dLを超えると糖尿病型への悪化率が増えるので,注意を要する4).
境界型には糖尿病発病前のもの,糖尿病が改善した状態,何らかの身体的ストレスで健常者の耐糖能が一次的に悪化したものなど,いろいろな状態が含まれる.境界型は正常型に比べて糖尿病型に悪化する危険が高く,動脈硬化性合併症の危険が高いという特徴がある8).大血管症にはいろいろの危険因子があり,血糖値だけからその危険を予測する線を引くことは困難なので,境界型と正常型とを分けるカットオフ値は,糖尿病型への悪化のリスクを目安にして定められた.
境界型は生活指導(食事,運動,肥満があればその是正)を行って,定期的に体重,血圧,血中脂質を含めた検査を行い,追跡するのが望ましい.特にメタボリックシンドロームに属するものは大血管症の危険が高いと考えられており,積極的に生活指導すべきである(「付録:メタボリックシンドローム」の項参照).
米国糖尿病学会やWHOでは空腹時血糖値で定義したIFG(impaired fasting glucose)と2時間値で定義したIGT(impaired glucose tolerance)とを区別しているが,日本糖尿病学会では両者をまとめて境界型と呼ぶ.個人別ではIFGとIGTは一致しないことが多く,両者は異なる代謝異常をあらわすとみなされるようになってきた.ちなみに動脈硬化症に関しては,IGTのほうがIFGよりも危険度が高いという成績が多い9).日本のデータではIFGに属するものの中にOGTTでは糖尿病型を示すものが30%以上含まれるので,IFGについてはOGTTを行って判定するのが望ましい4).
米国糖尿病学会は2003年に,空腹時血糖値の正常上限値を110mg/dL未満から100mg/dL未満に引き下げた5).多くの疫学調査で,これまでの基準によるIFGの頻度はIGTより少なく,これはIFGのカットオフ値が相対的に高かったためと考えられたこと,ROC曲線(receiver operator characteristic curve)を用いて,のちに糖尿病に悪化するリスクと空腹時血糖値との関係を求めたところ,3集団のデータで感度と特異性が最も優れた値は93〜103mg/dLだったこと,の2つの理由による.しかし,この改訂に対してはいくつかの批判が寄せられた10),11),12).基準値引き下げによってIFGの頻度が2〜4倍に増加してしまう(65歳以上では住民の43.5%がIFGになる10)),新たにIFGに組み入れられたものでは動脈硬化症の危険因子を持つものは少ない11),12)などである.糖尿病や動脈硬化症のリスクがIGTと同等の群を求めるに際しては,空腹時血糖値の基準値を引き下げるよりも,血糖以外の危険因子を併用するほうがよいという意見もあり12),空腹時血糖値の基準値を110mg/dL未満から100mg/dL未満に引き下げるという提案は,米国以外では広く受け入れられている状態ではない.
境界型には糖尿病発病前のもの,糖尿病が改善した状態,何らかの身体的ストレスで健常者の耐糖能が一次的に悪化したものなど,いろいろな状態が含まれる.境界型は正常型に比べて糖尿病型に悪化する危険が高く,動脈硬化性合併症の危険が高いという特徴がある8).大血管症にはいろいろの危険因子があり,血糖値だけからその危険を予測する線を引くことは困難なので,境界型と正常型とを分けるカットオフ値は,糖尿病型への悪化のリスクを目安にして定められた.
境界型は生活指導(食事,運動,肥満があればその是正)を行って,定期的に体重,血圧,血中脂質を含めた検査を行い,追跡するのが望ましい.特にメタボリックシンドロームに属するものは大血管症の危険が高いと考えられており,積極的に生活指導すべきである(「付録:メタボリックシンドローム」の項参照).
米国糖尿病学会やWHOでは空腹時血糖値で定義したIFG(impaired fasting glucose)と2時間値で定義したIGT(impaired glucose tolerance)とを区別しているが,日本糖尿病学会では両者をまとめて境界型と呼ぶ.個人別ではIFGとIGTは一致しないことが多く,両者は異なる代謝異常をあらわすとみなされるようになってきた.ちなみに動脈硬化症に関しては,IGTのほうがIFGよりも危険度が高いという成績が多い9).日本のデータではIFGに属するものの中にOGTTでは糖尿病型を示すものが30%以上含まれるので,IFGについてはOGTTを行って判定するのが望ましい4).
米国糖尿病学会は2003年に,空腹時血糖値の正常上限値を110mg/dL未満から100mg/dL未満に引き下げた5).多くの疫学調査で,これまでの基準によるIFGの頻度はIGTより少なく,これはIFGのカットオフ値が相対的に高かったためと考えられたこと,ROC曲線(receiver operator characteristic curve)を用いて,のちに糖尿病に悪化するリスクと空腹時血糖値との関係を求めたところ,3集団のデータで感度と特異性が最も優れた値は93〜103mg/dLだったこと,の2つの理由による.しかし,この改訂に対してはいくつかの批判が寄せられた10),11),12).基準値引き下げによってIFGの頻度が2〜4倍に増加してしまう(65歳以上では住民の43.5%がIFGになる10)),新たにIFGに組み入れられたものでは動脈硬化症の危険因子を持つものは少ない11),12)などである.糖尿病や動脈硬化症のリスクがIGTと同等の群を求めるに際しては,空腹時血糖値の基準値を引き下げるよりも,血糖以外の危険因子を併用するほうがよいという意見もあり12),空腹時血糖値の基準値を110mg/dL未満から100mg/dL未満に引き下げるという提案は,米国以外では広く受け入れられている状態ではない.