(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
1.糖尿病診断の指針


ステートメント

1.糖尿病の診断 グレードAコンセンサス
慢性高血糖を確認し,さらに症状,臨床所見,家族歴,体重歴などを参考として総合判断する1),2),3),4)


2.高血糖の判定区分 グレードAコンセンサス
空腹時血糖値,75g糖負荷試験(OGTT)2時間値の組み合わせにより,表1のごとく糖尿病型,正常型,境界型に分ける.随時血糖値≧200mg/dLも糖尿病型とする4)

表1 空腹時血糖値および75g糖負荷試験(OGTT)2時間値の判定基準
(静脈血漿値,mg/dL,括弧内はmmol/L)
  正常域 糖尿病域
空腹時血糖値
75g OGTT 2時間値
<110(6.1)
<140(7.8)
≧126(7.0)
≧200(11.1)
75g OGTTの判定 上記の両者を満たすものを正常型とする 上記のいずれかを満たすものを糖尿病型とする
正常型にも糖尿病型にも属さないものを境界型とする
随時血糖値≧200mg/dL(≧11.1mmol/L)の場合も糖尿病型とみなす.
正常型であっても,1時間値が180mg/dL(10.0mmol/L)以上の場合は,180mg/dL未満のものに比べて糖尿病に悪化する危険が高いので,境界型に準じた取り扱い(経過観察など)が必要である.
(文献4から引用)


3.糖尿病型と糖尿病の診断 グレードAコンセンサス
別の日に行った検査で糖尿病型が2回以上認められれば,糖尿病と診断できる.ただし次の条件のうち1つがある場合は,糖尿病型の高血糖が1回認められれば糖尿病と診断してよい4)
  • (1)糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少など)がある.
  • (2)HbA1c≧6.5%.
  • (3)明らかな糖尿病網膜症がある.
なお,疫学調査で集団の糖尿病の頻度を調査する場合は糖尿病型の高血糖が1回認められれば,糖尿病とみなしてよい.


4.過去に「糖尿病」の証拠がある場合 グレードBコンセンサス
現在検査した血糖値が糖尿病型の基準以下であっても,過去に上記「3.糖尿病型と糖尿病の診断」の条件が満たされた記録があり糖尿病があったと判定される場合は糖尿病として対応する4)


5.反復検査で糖尿病が再確認できない場合 グレードBコンセンサス
数ヵ月の間隔で血糖値,OGTTを反復検査して,経過を観察する4)


6.正常型と境界型 グレードBコンセンサス
正常型では糖尿病型への悪化率は年間1%未満である4)
境界型は糖尿病型への悪化率が高く,動脈硬化性合併症の頻度が増加する.境界型は生活指導(食事,運動,肥満があればその是正)を行い,定期的に検査する4)
境界型のうち,メタボリックシンドロームに属するものについては「付録:メタボリックシンドローム」の項を参照のこと.


7.糖負荷試験を行う場合 グレードAコンセンサス
10時間以上絶食の後,朝食前に75gグルコースを含む溶液を服用させる.空腹時,負荷後30〜60分おきに採血して血糖値を測定する.空腹時と2時間値の測定は必須で,臨床の場では途中時点の血糖値も調べるのが望ましい.可能であれば空腹時と30分後のインスリン値を測定して,初期インスリン反応を調べる.それは次の理由による.
  • (1)正常型であっても,1時間血糖値が高いものでは糖尿病型に悪化する率が高い.
  • (2)正常型,境界型でインスリン分泌指数[0〜30分のインスリン上昇量(µU/mL)と,血糖上昇量(mg/dL)の比(ΔIRI/ΔPG)]が0.4以下のものでは糖尿病型に進展しやすい6)


8.糖尿病の分類と代謝異常の関係 グレードAコンセンサス
表2に糖尿病および関連する糖代謝異常の成因分類を示す.1型糖尿病,2型糖尿病,その他の特定の機序,疾患によるもの,および妊娠糖尿病に大別する.図1に病型分類と代謝異常の程度との関係を示す4)

表2 糖尿病とそれに関連する耐糖能低下*の成因分類
  • 1型(β細胞の破壊,通常は絶対的インスリン欠乏に至る)
    • 自己免疫性
    • 特発性
  • 2型(インスリン分泌低下を主体とするものと,インスリン抵抗性が主体で,それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある)
  • その他の特定の機序,疾患によるもの
    • 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
      • 1)膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常
      • 2)インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
    • 他の疾患,条件に伴うもの
      • 1)膵外分泌疾患
      • 2)内分泌疾患
      • 3)肝疾患
      • 4)薬剤や化学物質によるもの
      • 5)感染症
      • 6)免疫機序によるまれな病態
      • 7)その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの
  • 妊娠糖尿病
:一部には,糖尿病特有の合併症をきたすかどうかが確認されていないものも含まれている.
(文献4から引用)


図1 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の懸念
図1:糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の概念
右向きの矢印は,糖代謝異常の悪化(糖尿病の発症を含む)を表す.矢印の線のうち,破線の部分は,「糖尿病」と呼ぶ状態を表す.左向きの矢印は糖代謝異常の改善を表す.矢印の線のうち,破線部分は頻度の少ない事象を表す.たとえば,2型糖尿病でも,感染時にケトアシドーシスに至り,救命のために一時的にインスリン治療を必要とする場合もある.また,糖尿病がいったん発病した場合には,糖代謝が改善しても糖尿病とみなして取り扱うという観点から,左向きの矢印は黒く塗りつぶした線で表した.その場合,糖代謝が完全に正常化するに至ることは多くないので,破線で表した.
糖尿病領域のうち,インスリン非依存状態は従来のNIDDM,インスリン依存状態は従来のIDDMに相当する.
(文献4より引用)


9.糖尿病の病型や合併症の把握 グレードAコンセンサス
診断にあたっては糖尿病の有無のみならず,病型,代謝異常の程度,合併症の有無やその程度について把握するように努める.


 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す