(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

6-11.咳喘息(Cough Variant Asthma)

前文

Cough Variant Asthma(咳喘息)とは,慢性咳嗽を唯一の臨床症状とする喘息の亜型と定義され,成人にも小児にも見られる。文献上で一致する咳喘息の基準としては,(1)以前に喘息と診断されたことがない,(2)喘鳴や呼吸困難発作などの喘息症状がない,(3)日中のスパイログラムで異常を認めない,(4)身体所見や胸部X線所見に異常を認めない,(5)メサコリンに対する気道反応性の亢進(気道過敏性)を認めることである。本疾患の罹患率は報告されていないが,喘息への移行が問題視されている。

推奨:慢性咳嗽を主訴とする患者を診察する場合,咳喘息も必ず考慮すべきである。
科学的根拠

PubMedで"Cough Variant Asthma"と入力すると,54編の論文が検索された。各々の論文やその抄録を検討し,重要な13編の論文を取り上げた。その後さらに文献検索を行い,重要な新しい文献を1編追加し,訂正を行った。

"Cough Variant Asthma"という疾患概念は最初に成人の6症例で報告1)された。その後小児でも同様な症例が存在することが報告2)されるとともに,"Cough Variant Asthma"という診断名が小児で初めて使用3)された。

慢性咳嗽のみを主訴とすることが診断上最も重要であるが,その持続期間に関する明確な基準はなく,最近の文献4)では「少なくとも3週間以上」と記載されている。咳喘息では気道過敏性の存在は必要条件であるが,十分条件でないことが報告4)されており,注意が必要である。すなわち,アレルギー性鼻炎や後鼻漏,胃食道逆流,気道ウイルス感染後でも気道過敏性を認めるので,慢性咳嗽のみを主訴とし,気道過敏性を認めても,慢性咳嗽を主訴とする他疾患を除外することが咳喘息の診断には必須である。また,ピークフローで日内変動を認めることを示唆する論文5),6)が報告されている。

β2刺激薬の有効性はA判定の論文4)で示されており,この文献によれば,慢性咳嗽患者でβ2刺激薬が有効であれば,咳喘息と診断できる。その他,短期間のプレドニゾロン経口投与は診断的治療として有用であること7),さらにその後の慢性管理における吸入ステロイド薬の有用性8)のみならず吸入ステロイド薬の早期治療の必要性9)がB判定の論文で示されている。

また,慢性咳嗽を主訴とし,吸入ステロイド薬が有効な疾患として,Eosinophilic Bronchitisという概念が提唱10),11) ,12)されている。本疾患は好酸球性気道炎症の存在が必須であり,気道過敏性を認めない点のみが咳喘息と異なる。本疾患とCVAとの関連13),またアトピー性咳嗽との関連14)は,現時点では不明である。

科学的証拠文献表
文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Corraoら1)
1979
  1. 6名
  2. 16〜40歳
  3. 1975.4〜1976.7に慢性咳嗽のみを主訴として受診した患者
  1. 症例報告
  2. 健常者群との比較
  3. 肺機能,気道過敏性,気管支拡張薬に対する反応性
  1. スパイログラムは正常であるが,△N2は亢進している
  2. 気道過敏性の亢進が持続する
  3. 気管支拡張薬が奏効する
結論:気管支喘息の亜型である
II-2
B
Hannawayら3)
1982
  1. 32名(男児18名,女児14名)
  2. 3〜17歳(29名が10歳以下)
  3. 2ヶ月以上持続する慢性咳嗽のみを主訴とする患者
  1. 症例報告
  2. 24名で5-96ヶ月間のフォローアップ
  3. 経口テオフィリン薬に対する反応,喘息発症の有無
  1. 32名全員で経口テオフィリン(20-24mg/kg/24hr)により,咳嗽が有意に改善した
  2. 長期間フォローアップできた24名中18名が喘息を発症した
  3. 11名が軽症で,7名が中等症であった
結論:Cough variant asthmaは小児でも見られ,見逃されやすい疾患である
II-3
B
Irwinら4)
1997
  1. 19名(4名が途中で来院せず,解析より除外)
  2. 55±16歳
  3. 気道過敏性が陽性で,3週間以上持続する慢性咳嗽を主訴とする患者
  1. 1.3mgメタプロテレノールを1日4〜5回吸入(二重盲検,クロスオーバー)
  2. 各1週間投与
  3. 気道過敏性,咳嗽回数,自己評価による咳嗽重症度
メタプロテレノールは
  1. 喘息群の咳嗽重症度を有意に改善したが,非喘息群では改善しなかった
  2. 咳嗽回数を両群で有意には改善しなかった
  3. 喘息群ではプラセボもメタプロテレノールも気道過敏性を有意に亢進させたが,非喘息群では,有意な変化を認めなかった
結論:1週間の吸入β2 刺激薬の治療後,Cough variant asthmaによる咳嗽のみが有意に改善した
I
A
Tokuyamaら6)
1998
  1. 7名
  2. 6〜9歳
  3. Cough variant asthmaの患者
  1. 喘息患者群17名(6〜10歳)とコントロール群8名(6〜10歳)との群間比較試験
  2. 1週間
  3. ピークフロー(午前6時,午後4時,午後10時に測定)における日内変動
  1. ピークフローにおける日内変動は,コントロール群で10.4±0.8%,喘息群で20.5±1.3%,CVA群で23.6±3.6%であり,CVA患者の日内変動はコントロール群より有意に大きく,喘息群と差を認めなかった
結論:ピークフローの日内変動を検討することは,CVAの診断に有用である
II-1
B
Doanら7)
1992
  1. 10名
  2. 4〜71歳
  3. 2ヶ月〜20年間持続する慢性咳嗽を主訴とする患者
  1. 20-60mg/日の経口プレドニゾロン
  2. 5日〜2ヶ月の診断的治療
  3. 咳嗽の改善
  1. プレドニゾロンは,9名の患者で3日以内に咳嗽を改善させた。残りの1名では,40mg/日を1週間と25mg/日を1週間で咳嗽が改善した
  2. その後,全員が吸入ステロイド薬で管理可能であった
結論:短期間のプレドニゾロンの診断的治療は,CVAの診断に有用である
II-3
B
Brightlingら11)
1999
  1. 91名
  2. 28〜76歳
  3. 1996.1〜1997. 12の間に受診した,3週間以上持続する慢性咳嗽を主訴とする新患患者
  1. 各種検査による慢性咳嗽の原因疾患の診断
  2. 慢性咳嗽の診断のために一般的に実施される各種検査に加え,誘発喀痰中の細胞比率を実施した
  1. 91名中12名がeosinophilic bronchitisと診断された
  2. 本疾患は可逆的な気道狭窄による症状がなく,スパイログラムやピークフロー,気道過敏性が正常範囲以内で,喀痰中に好酸球(>3%)を認めるものである
結論:本疾患は慢性咳嗽の原因疾患の一つであり,誘発喀痰は咳嗽検索に重要である
II-2
B
結論

咳喘息の厳密な診断には,スパイログラムや気道過敏性の有無,誘発喀痰の検索,さらに他疾患の除外などが必要である。しかしながら,日常臨床では,経口や吸入ステロイド薬,β2刺激薬,徐放性テオフィリン薬などによる診断的治療を行うことが一つの選択枝として推奨される。

参考文献
  1. Corrao WM, Braman SS, Irwin RS. Chronic cough as the sole presenting manifestation of bronchial asthma. N Engl J Med 1979; 300: 633-7. (評価 II-2,B)
  2. Cloutier MM, Loughlin GM. Chronic cough in children: a manifestation of airway hyperreactivity. Pediatrics 1981; 67: 6-12. (評価 II-3,B)
  3. Hannaway PJ, Hopper GD. Cough variant asthma in children. JAMA 1982; 247: 206-8. (評価 II-3,B)
  4. Irwin RS, French CT, Smyrnios NA, Curley FJ. Interpretation of positive results of a methacholine inhalation challenge and 1 week of inhaled bronchodilator use in diagnosing and treating cough-variant asthma. Arch Intern Med 1997; 157: 1981-7. (評価 I,A)
  5. Gibson PG, Mattoli S, Sears MR, Dolovich J, Hargreave FE. Increased peak flow variability in children with asymptomatic hyperresponsiveness. Eur Respir J 1995; 8: 1731-5. (評価 II-1,B)
  6. Tokuyama K, Shigeta M, Maeda S, Takei K, Hoshino M, Morikawa A. Diurnal variation of peak expiratory flow in children with cough variant asthma. J Asthma 1998; 35: 225-9. (評価 II-1,B)
  7. Doan T, Patterson R, Greenberger PA. Cough variant asthma: usefulness of a diagnostic-therapeutic trial with prednisone. Ann Allergy 1992; 69: 505-9. (評価 II-3,B)
  8. Cheriyan S, Greenberger PA, Patterson R. Outcome of cough variant asthma treated with inhaled steroids. Ann Allergy 1994; 73: 478-80. (評価 II-3,B)
  9. Niimi A, Matsumoto H, Minakuchi M, Kitaichi M, Amitani R. Airway remodelling in cough-variant asthma. Lancet 2000; 356: 564-5. (評価 II-1,B)
  10. Gibson PG, Dolovich J, Denburg J, Ramsdale EH, Hargreave FE. Chronic cough: eosinophilic bronchitis without asthma. Lancet 1989; 1(8651): 1346-8. (評価 II-1,B)
  11. Gibson PG, Hargreave FE, Girgis-Gabardo A, Morris M, Denburg JA, Dolovich J. Chronic cough with eosinophilic bronchitis: examination for variable airflow obstruction and response to corticosteroid. Clin Exp Allergy 1995; 25: 127-32. (評価 II-3,B)
  12. Brightling CE, Ward R, Goh KL, Wardlaw AJ, Pavord ID. Eosinophilic bronchitis is an important cause of chronic cough. Am J Respir Crit Care Med 1999; 160: 406-10. (評価 II-2,B)
  13. Niimi A, Amitani R, Suzuki K, Tanaka E, Murayama T, Kuze F. Eosinophilic inflammation in cough variant asthma. Eur Respir J 1998; 11: 1064-9. (評価 II-1,B)
  14. Fujimura M, Songur N, Kamio Y, Matsuda T. Detection of eosinophils in hypertonic saline-induced sputum in patients with chronic nonproductive cough. J Asthma 1997; 34: 119-26. (評価 II-1,B)

 

 
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