(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

6-4-2-4.β2刺激薬と抗コリン薬

前文

高齢者においてもβ2刺激薬が気管支拡張薬の第1選択薬として用いられる。しかしその効果と副作用は,老化による薬物代謝と標的臓器の変化によって影響されることから,充分な副作用のモニタリングが必要である。長期間作動性あるいは徐放性のβ2刺激薬が開発されたため,高齢者における喘息の長期管理がより容易になった。

推奨:高齢者における吸入β2刺激薬の気管支拡張作用は若年者に比べて劣り,かつ心・循環器系の副作用(狭心症,高血圧,不整脈等)も発現しやすい点を考慮して使用する必要がある。吸入薬のコンプライアンスが悪い患者には経口薬が推奨される。慢性閉塞性肺疾患を合併する場合には吸入抗コリン薬を併用することが望まれるが,前立腺肥大のある患者では抗コリン薬で尿閉をきたし易いので注意を要する(B)
科学的根拠

喘息,高齢者,β2刺激薬,抗コリン薬で検索し,最近10年間の219編の論文を対象にその要旨を検討したが,高齢者に限定した論文はほとんど見あたらず,成人喘息の一部として高齢者群が検討されていた。

高齢者喘息の気管支拡張作用薬としては,β2刺激薬が若年者ほど効果的ではないものの第1選択薬であるが,COPD合併例やβ2刺激薬に低反応性の乏しい症例には抗コリン薬の吸入が相対的に有効性があるので,病態や気道反応性を考慮して両剤を併用することが効果的である13),14),15)

β2刺激薬は,経口薬より全身への副作用が軽微とされる定量噴霧式吸入薬(metered dose inhaler, MDI)を上手に吸入できない高齢者には,スペーサーの使用,あるいは同等の効果が得られるネブライザー吸入が有効とされている16)

近年,長期間作動性β2刺激薬の吸入薬と経口薬の間には,慢性喘息発作に対する有用性(臨床効果と副作用)は有意差がないことも報告されており17),コンプライアンスの良い経口薬は高齢者喘息の慢性発作管理における選択薬の一つとなろう。

高齢者は若年者に比べて,β2刺激薬による全身性副作用,特に心・循環器系(狭心症や頻脈・不整脈など)が多く見られる。例えば陳旧性心筋梗塞患者に不整脈が,また虚血性心疾患患者に狭心症発作のリスクが高いことが報告されている18)

(RCT)

論文コード
(年代順)
対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン結果評価
Ullah MIら13)
1981
  1. 29例(外因性 11,内因性 18)
  2. 外因性 35歳,内因性 54歳
  3. 軽症、中等症
salbutamol吸入群 vs
ipratropium br吸入群
二重盲検法,4週間
  1. 病型に係わらず40歳未満ではsalbutamolが有効,ipratropium br.は効果が乏しい。
    β2刺激薬に低反応の高齢者ではipratropium br.及び両薬剤の併用が望まれる
II-B
van Schayck CPら14)
1991
  1. 188例
  2. 51.0±13.0歳
  3. 軽症、中等症喘息
    慢性気管支炎
salbutamol単回吸入群 vs ipratropium br.単回吸入群 二重盲検法,12ヶ月
  1. FEV1.0の改善率は,喘息ではsalbutamol>ipratropium br.
    慢性気管支炎では両剤に有意差なし。
    アレルギー素因(+),60歳未満ではsalbutamol>ipratropium br.
    アレルギー要因(-),60歳以上ではsalbutamol
II-B

結語

気管支拡張薬としては吸入β2刺激薬が最も効果的であるが,コンプライアンスの悪い場合は経口薬を用いる。また慢性閉塞性肺疾患を合併する場合には吸入抗コリン薬が有効である。なお高齢者であるが故に副作用の発現に注意しなければならない。今後は長期間作動性・徐放性β2刺激薬が長期管理薬としての役割を担う可能性がある。

 

 
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