(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

6-3.思春期及び20代早期の喘息

前文

思春期及び20代早期における喘息は,いくつかの特徴があり,治療管理上,小児喘息にも中高年喘息にもない注意を要する1)

小児期における疫学調査では,喘息罹患率は国内外いずれも増加を続けており,それが成人の罹患率にどう影響してくるのかの検討や,喘息死の要因や喘息の寛解,難治化を分析する上でも重要な年齢層である。

推奨:思春期・青年期喘息の治療管理では,生活が不規則で受診が不定期になる。服薬コンプライアンスが低い,β2MDIの過度依存が多くなる,実質的に単身所帯である,等の小児期とは大きく異なる受療態度,心理・社会的背景を生じてくるので,病態,治療方針,使用薬剤等を本人と十分に話し合い,治療ならびに医師・患者関係を組み直すことが重要である。
科学的根拠
1.特徴
  1. IgE値は低下の傾向にあるが成人よりは高く,家族歴も濃厚でアトピー型が多い2),3)。したがって,環境アレルゲンの影響も大きい4)
  2. 食物アレルゲン陽性者は少ない。
  3. 薬物治療に対しての反応が悪くなり,小児に比べて発作入院期間がやや長引くが,患者・家族とも退院を急ぐ傾向にある。
  4. 寛解していく時期ではあるが,この時期に発作の多発している患者は,成人まで持ち越す可能性が高い。この時期に気道過敏性の高い者では再発の可能性が高い5)
  5. 月経により発作が左右される女子がある。
  6. 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary diseases: COPD)の合併は,極めて少ない。
  7. 感染合併や無気肺は生じ難いが,air leak syndrome(縦隔気腫,皮下気腫,気胸)を伴う率は相対的に高い6)
  8. 親子関係,友人関係,学業,進学,就職などに関連する心理・社会的ストレスが多く,生活が乱れやすい。
  9. 治療の主導権が親から患者本人に移り,服薬コンプライアンスが低下し,治療がおろそかになることが多い。
  10. 受療率が激減する。
  11. 小児期に比して喘息死亡が急増する。
  12. 職業の自由な選択が障害される7)
  13. 慢性期のピークフローの低下が重症度に比例して低下することが認められるようになる時期である。
  14. 喘息の治癒を望み,症状をコントロールする治療に不満である25)
死亡率が高い理由

思春期〜青年期に死亡が多発する理由としては,次のことが考えられる8)

  1. 服薬率の低下:治療の主導権の患者本人への移動があり,親の監督から外れる。治療が発作時の対症的治療になりやすい9)
  2. 受診回数の低下:学業や仕事の質,量の増加で日中の受診ができにくい。このことは救急受診を増すリスクファクターとなる10)
  3. 病態の質的変化の認識不足:成人喘息化への認識と指導が十分になされない。ステロイド薬の吸入による成長発達障害の危惧をしなくてよい年齢になったにもかかわらず,治療の強化が足りない11)。気道攣縮も強くなる12)
  4. 小児病棟/外来にも内科病棟/外来にも不適合:思春期・青年期病棟/外来が存在しにくい。小児科医と内科医の治療管理方法の違いがあり,移行がスムーズにいかない。
  5. 実質的な単身所帯化:生活が乱れやすい。補助者,助言者の不在による受診の遅れを来しやすい。社会・経済的にも不安定である13),14)
  6. 心理・経済・社会的要因の増加:これらの要因が急激に増す年齢層で,個人での対応にも限界がある。

死亡を防ぐには,古くから,97の論文をまとめたBenatar15)の指摘したように,医師と患者の教育,医療機関への適切な受診,家庭治療が無効な際の対処を指導することが重要であることは認識されていたが,近年,心理・経済・社会的要因も重視されている16),17)。心理的・精神的要因が死亡に関与したと思われるケースレポートが多く出されているが統計学的に検討するのが困難な分野である18),19),20)。これらの要因は前記項目1.のコンプライアンスにも影響する21),22)

以上のことは,最近問題になっている都市中心部居住の非白人で社会経済的に低い層に多発する喘息死やnear fatal asthmaの諸要因と(麻薬や喫煙などの要素を除けば)近似している23),24)。しかし思春期,青年期の喘息に対する免疫・アレルギー・神経・内分泌・精神・社会的要因にわたる系統だった研究・知見は極めて少ない25),26)

結論

思春期・青年期喘息の治療・管理では次のことが重要である。

  1. 受診が不定期になりやすい。
  2. 服薬コンプライアンスが悪い。
  3. β2刺激薬の過度依存になりやすい。
  4. 内科への移行の時期が難しい。
  5. 吸入ステロイド薬を使用していない患者は使用の可否を再検討する。
  6. 治療方針,使用薬剤等を本人と十分に話し合い,医師・患者関係を組み直すことが必要である。

文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Hurら2)
1997
  1. 2041
  2. 20〜22歳
  3. ロサンゼルスとサンジエゴに住む1986年の学校をベースとした禁煙研究に参加した者
  1. 郵送質問紙法
気管支喘息の家族暦が本人の喘息に強い相関がある。小児期の両親の多量喫煙や家の真菌発生も有意に関係がある。IV
B
Europian Community Respiratory Health Survey(ECRHS)-Italy3)
1998
  1. 875
  2. 20〜44歳
  3. ECRHSが無作為抽出した20〜40歳の成人男女
  1. スクリーニング質問表を郵送し回答のあったもの20%に検査承諾を頼んだ
  2. メサコリンによる気道過敏性試験,FEV1.0,FEV1.0%,アレルゲン皮膚テスト,総lgE,特異lgE,気道症状をチェック
検査項目のそれぞれがメサコリンによる気道過敏性に影響を与えているIII
A
O'Hollaren4)
1991
  1. 11
  2. 11〜25歳
  3. 呼吸停止を起こしたことのある11例のアルテルナリア感受性喘息患者(うち2例は死亡)
  1. メイヨークリニックに記録された症例のレトロスペクティブ研究,対照は99例の呼吸停止を起こしていない喘息患者
  2. 1980〜1989年にメイヨークリニックに記録された患者
北部ミッドウエストで夏〜初秋に呼吸停止が生じ,うち10人がアルテルナリアの皮膚テスト陽性で,検査した9名とも特異的lgEも高く,対照に比べオッズは200倍高かった。小児〜青年期喘息にはアルテルナリアの曝露は呼吸停止の危険因子であるIII
B
日本小児アレルギー学会喘息死委員会9)
1998
  1. 137
  2. 0〜28歳
  3. 日本小児アレルギー学会員よりの喘息死亡例報告
  1. 学会員からの死亡例報告を受け,第2次調査
  2. 1990〜1997
病院内死亡が78例(58%)であり,13歳以上では他の年齢層に比べて,来院途中の5例や救急車内死亡の6例が多かった。死亡に関与した要因の主なものは,適切な受診の遅れが69.3%,予期せぬ急激な悪化が67.9%であった。適切な受診時期の遅れの原因として,家族の判断の誤りが48.9%,患者の判断の誤りが47.4%,定量噴霧式吸入器(MDI)によるβ2刺激薬の過度依存が29.2%と多かったV
Beverら11)
1999
  1. 42
  2. 23.6±3.4歳
  3. 小児期に吸入ステロイド薬を投与された青年期喘息
  1. 小児期に吸入ステロイド薬を投与された42例を非投与群の対照43例と成長後の身長を比較した
  2. 臨床症状,肺機能,アレルギー検査を施行
吸入ステロイド薬頓用群は軽度の発育抑制があり得るが喘息重症度にも関係があるかもしれない。IV
B
Langら16)
1994
  1. 258
  2. 全年齢
  3. 1969年から1991年間のフィラデルフィアでの喘息死症例
  1. 喘息死亡数と大気汚染物質,人種,性,社会経済的因子の相関を見た
  2. 1969〜1991年
喘息死亡率は上昇しているが大気汚染との関係はない。貧困者,少数民族,特に黒人に死亡率が高いので,都市部に集中にし対策を講ずるべきである。III
A
灰田ら19)
1995
  1. 87
  2. ?
  3. 4医療施設に通院中の喘息患者
  1. 質問紙表による心理テストで対照とした健常者16例
  2. 心理テストはTPI,CAI,YG,CMI,MAS,SDS
心理(学的)検査の結果,多くの重症喘息患者では予後に対する悲観的な気持ち,治療に対する意欲の減退に加え,コンプライアンスに影響しうる不安定外交型の性格特性,疾病逃避傾向を有する症例が多いことが判明した。喘息の重症化,難治化,ステロイド薬依存性,喘息死の背景因子になっている可能性もあり,今後十分な対応を工夫していく必要がある。IV
C
豊島ら20)
1997
  1. 13
  2. 10〜20歳
  3. 筆者の病院の小児科経験した喘息死
  1. 病歴,YGテスト
  2. 1976〜1993年
喘息死・ニアデス患者に,YG性格検査でのB,Dタイプが多く,重症化,難治化にはC,Eタイプが関係することと逆説的である。経済格差の(特に医療的には)小さいわが国でも,地域急病救急医療体制の充実度が喘息死と逆比例する(大阪の調査)。喘息死・ニアデスの予防には,ヒトが心理的,社会的,倫理的な存在であることを重視して,全人的医療を日常的に実践できる医療環境の実現が必要である。V
C
Bosleyら21)
1995
  1. 102
  2. 18〜70歳
  3. ロンドン南東部の4開業医と1病院の外来喘息患者
  1. 心理テスト(HADS,IIP),インタビュー結果とβ2刺激薬と吸入ステロイド薬のコンプライアンスの比較
  2. 実吸入数はターボヘラーコンピューターで自動記録した
72例が試験を終了したが37例がコンプライアンスが悪く,このグループは有意に抑うつが高く,不安の平均値も有意ではないが高かった。コンプライアンスの悪い患者は心理社会的因子が関係していると考えられた。IV
B
Millerら22)
1992
  1. 26
  2. 平均28.2歳
  3. 発作で入院した87例中の致死的発作例(PFA)
  1. 1987〜1990年の間に喘息発作で入院した患者の背景因子をPFA26例とその他の61例で比較
PFA患者はステロイド薬内服回数が多く,入院までの発作期間が短く,入院期間は長く,ピークフローは低く,精神病と低コンプライアンスが多かった。ステロイド薬を安易にかつ大量に使う患者はPFAの率が高い。III
C

参考文献
  1. 長野 準,小林節雄,宮本昭正編.思春期喘息 第33回六甲カンファレンス.ライフサイエンス出版,東京 1993.
  2. Hu FB, Persky V, Flay BR, et al. An epidemiological study of asthma prevalence and related factors among young adults. J Asthma 1997; 34:67-76. (評価 IV-B)
  3. Europian Community Respiratory Health Survey (ECRHS)-Italy:Determinants of bronchial   responsiveness in the Europian Community Respiratory Health Survey in Italy:evidence of an independent role of atopy, fatal serum IgE levels, and asthma symptoms. Allergy 1998; 53:673-681. (評価 III-A)
  4. O'Hollaren MT, Yunginger JN, Offord KP, et al. Exposure to an aeroallergen as a possible precipitating factor in respiratory arrest in young patients with asthma. N Eng J Med 1991; 324: 359-363. (評価 III-B)
  5. Zhong NS, et al. Is asymptomatic bronchial hyperresponsiveness an indication of potential asthma? A2-year followup of young students with bronchial hyperresponsiveness. Chest 1992; 102: 1104-1109. (評価 IV-B)
  6. 西間三馨.重症気管支喘息死の予後と治療.日小呼誌 1990; 1: 10-26.
  7. Haahtela T, Lindholm H, Bjorksten F, et al. Prevalence of asthma in Finish young men. Brit  Med J 1990; 601: 266-268.
  8. 西間三馨.思春期喘息へのアプローチ.アレルギー 1989; 38: 1295-1301.
  9. 日本アレルギー学会・喘息死委員会.喘息死委員会レポートユ97.日小ア誌 1998; 12: 349-357. (評価 V)
  10. Lozan P, Connel FA, Koepsel TD. Use of health services by African-American children with  asthma on Medicaid. JAMA 1995; 274:469-473.
  11. van Bever HP, Desager KN,Lijssens N, et al. Does treatment of asthmatic children with inhaled corticosteroids affect their adult height? Pediatr Pulmonol 1999; 27:369-375. (評価 IV-B)
  12. 松井猛彦,木村壽子.乳児の喘息死 治療への提言.アレルギーの臨床 1994; 420-424.
  13. Weisberg SC, Olson DH, Sveum RJ, et al. Family system model of asthma in children:consortium national study. J Allergy Clin Immunol 1995; 95: 226.
  14. Strunk RC, Mrezek DA, Fuhrman GS, et al. Physiologic and psychologic characteristics associated with death dut to asthma in childhood: a case control study. JAMA 1985; 254: 1193-1198.
  15. Benatar S. Fatal asthma. N Engl J Med 1986; 314: 423-429.
  16. Lang DM, Polansky M. Patterns of asthma mortality in Philadelphia from 1969 to 1991. N Engl J Med 1994; 331: 1542-1546. (評価 III-A)
  17. Lang DM. Trends in US asthma mortality: good news and bad news. Ann Allergy Asthma  Immunol 1997; 78: 333-337.
  18. Miller BD. Depression and asthma:A potentially lethal mixture. J Allergy Clin Immunol 1987;  80: 481-486
  19. 灰田美知子, 伊藤幸治, 牧野荘平, 宮本昭正.気管支喘息患者の心理的プロフィール(I) 重症度別検討.アレルギー 1995; 44: 16-25. (評価 IV-C)
  20. 豊島協一郎.喘息死・ニアデスの予防.呼吸 1997; 16:1493-1498. (評価 V-C)
  21. Bosley CM, Fosbury JA, Cochrane GM. The psychological factors associated with poor compliance with treatment in ashtma. Eur Respir J 1995; 8: 899-904. (評価 IV-B)
  22. Miller TP, Greenberger PA, Patterson R. The diagnosis of potentially fatal asthma in hospitalized adults: patient characteristics and increased severity of asthma. Chest 1992; 102: 515-518. (評価 III-B)
  23. Corn B, Hamrung G, Ellis A, et al. Patterns of asthma death and near-death in an inner-city tertiary care teaching hospital. J Ashtma 1995; 32:405-412.
  24. Sly RM. Mortality from asthma. J Allergy Clin Immunol 1988; 82: 705-717.
  25. Nagata S, Irie M, Mishima N. Stress and asthma. Allergy International 1999; 48: 231-238.
  26. 西間三馨.青年期を中心とした心身症の病態の解明とその治療法に関する研究.厚生省精神・神経疾患委託研究 平成10年度報告書 p1999: 1-7 .
 
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