(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

6-2.運動誘発性喘息

6-2-1.成人の運動誘発性喘息

前文

運動誘発喘息は小児に限らず,成人の気管支喘息患者においてもかなり普遍的に見られる現象であり1),一般にコントロール不良の患者や重症度の高い患者ほど起こりやすく,気道狭窄も高度になる傾向がある。また,運動の強度が増し継続時間が長くなるほど,発症する可能性が高くなり,重症度が増すことが知られている。

小児の場合と同様に,大きな発作を起こしてすぐの時期を除いて運動の制限は不要であり,むしろトレーニングにより運動誘発喘息は起こりにくくなる。冷たく乾燥した空気は発作を誘発しやすいので,当初はこのような環境を避けてトレーニングを行う方がよい。また,長距離走も長時間の過換気を伴うため,発作を誘発しやすいとされており2),導入トレーニングとしては不適切と考えられる。

実際に運動を行う場合,事前に十分な準備運動を行うことで発作をある程度予防できる。屋内であれば,予め温度と湿度を上げておくことも予防に役立つ。冬期に屋外で運動を行う場合には,鼻や口をスカーフなどで覆うことも効果があるとされている。また,運動誘発喘息は通常比較的短時間で自然に回復するので,運動中に変調を感じた場合,早めに休みをとれば重症化を防ぐことができる。

推奨:運動誘発性喘息の薬物による予防には,吸入β2刺激薬,クロモグリク酸ナトリウム(DSCG),抗ロイコトリエン薬が有用である。また,吸入ステロイド療法により,喘息のコントロールが保たれれば発作は起こりにくくなる。
科学的根拠(薬物療法)

運動前のβ2刺激薬吸入は予防効果がある3),4)が,本邦で現在発売されている吸入β2刺激薬はすべて短時間作用型であって,長時間の運動には適していない。吸入抗コリン薬との併用により予防効果を長く持続させることができるとされている5)

クロモグリク酸ナトリウム(DSCG)も運動の20〜30分前に吸入すると予防効果6)がある。副作用はほとんどなく,やはり吸入β2刺激薬との併用で更に予防効果が高められる7)

テオフィリン製剤にも予防効果が見られるが,単独ではその効果は強くない。動悸・頻脈などの副作用も見られるので,運動中に血中濃度が上昇するような使用には疑問がある。従って,運動前に頓服させるよりも,喘息そのもののコントローラーとして用いる方が適切である。

近年,運動誘発喘息にアラキドン酸代謝系が関与していることが示唆され,ロイコトリエン (LTD4)拮抗剤の効果が注目されている。本邦で発売されているプランルカストのみでなく,海外で認可されたザフィルルカスト8),モンテルカスト9)も運動誘発喘息の抑制効果に優れていることが報告されている。また,吸入β2刺激薬を長期間連用していると運動誘発喘息の抑制効果が減弱してくるとされているが,ロイコトリエン拮抗剤の効果は連用しても減弱しないことが報告されている10)

吸入ステロイドは運動直前に使用しただけでは予防効果を示さない。しかし,吸入ステロイド療法の継続によって,喘息がコントロールされて気道過敏性が改善した患者では運動誘発喘息が生じにくくなることが報告されている11),12)。スポーツ選手など,継続的に運動を行う必要のある気管支喘息患者に対しては第一選択とすべきである。

科学的証拠文献表

文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Spector3)
1993
  1. システミック・レビュー
運動誘発喘息の予防には吸入β2刺激薬が効果的であり,DSCGと組み合わせると90%以上の患者に効果がある。I
A
Millqvistら4)
2000
  1. 9名
  2. 気温10℃でのエルゴメーター負荷により気道収縮が生じることが確認されている喘息患者
  1. 前治療無し,β2刺激薬吸入後,セルロース・マスク着用,β2刺激薬吸入後にセルロース・マスク着用の4つの状態で冷気下に運動負荷
治療なしでは冷気運動負荷により1秒量で平均27%の低下が見られたが,吸入β2刺激薬では7%の低下,マスクの使用では12%の低下であった。両者の併用では一秒量の低下が見られなかった。III
A
Smithら5)
1988
  1. 12名
  2. 成人
  1. フェノテロール (200mg),サルブタモール(200mg),臭化イプラトロピウム(80mg),またはその組み合わせを吸入後,過換気負荷。
  2. 負荷後30分,2時間,4時間
  3. 一秒量測定
吸入β2刺激薬単独では一秒量の低下に対する予防効果の持続時間は短く,臭化イプラトロピウムとの併用で気管支拡張効果が最も長く持続する。II
B
Jonesら6)
1983
  1. 12名
  2. 平均22.3歳
  1. DSC(10mg)またはプラセボを吸入後運動負荷。
  2. 負荷後60分まで
  3. 一秒量測定
DSCG吸入は運動負荷後の一秒量の低下を抑制し,正常状態への回復を早めた。II
A
Woolleyら7)
1990
  1. 12名
  2. 18〜28歳
  1. テルブタリン(0.5mg),DSCG(2mg),その組み合わせ,またはプラセボ吸入後に運動負荷
  2. 負荷後30分まで。
  3. 一秒量測定。
どちらの薬剤も2時間前の吸入で運動誘発喘息を抑制し,組み合わせ吸入は4時間前の吸入でも抑制効果が見られた。II
A
Dessangesら8)
1999
  1. 24名
  2. 成人
  1. ザフィルルカスト20mg,80mg,またはプラセボを1日2回内服
  2. 1剤を2週間内服し,2週目に朝の内服後,2時間目と8時間目に運動負荷。1週間ウォッシュ・アウトし,他の薬剤にクロス・オーバー。
  3. 一秒量のグラフのAUC(area under the curve)。
ザフィルルカストは20mg,80mgともに内服後,2時間目と8時間目の運動誘発喘息を有意に抑制した。II
A
Leffら9)
1998
  1. 110名
  2. 15〜45歳
  1. モンテルカスト10mgまたはプラセボを1日1回内服
  2. 4,8,12週目に運動負荷。
  3. 一秒量のグラフのAUC(area under the curve)
モンテルカストは12週にわたって運動誘発喘息を有意に抑制した。II
A
Edelmanら10)
2000
  1. 119名
  2. 成人
  1. 多施設・無作為比較試験。モンテルカスト10mgを1日1回内服,またはサルメテロール50mgを1日2回内服。
  2. 8週間
  3. 一秒量のグラフのAUC(area under the curve)
モンテルカストもサルメテロールも3日目にはほぼ同等な運動誘発喘息抑制効果を示した。サルメテロールの抑制効果は4週目から減弱したが,モンテルカストの効果は8週にわたって維持された。II
A
Vathenenら11)
1991
  1. 40名
  2. 成人
  1. ブデソニド1,600mg/日またはプラセボを吸入
  2. 6週間
ブデソニドはヒスタミン吸入,運動負荷或いは乾燥気の過換気による一秒量の低下を抑制した。これら3つの刺激に対する反応は互いに相関していた。II
A
Waalkensら12)
1993
  1. 55名
  2. 7〜18歳
  1. サルブタモール600mg/日にブデソニド600mg/日またはプラセボを加え吸入
  2. 中央値22ヶ月
  3. プラセボでコントロール不良となったときは途中からブデソニドに変更
8ヶ月目の時点でプラセボ群では運動誘発喘息が82%に見られたのに対して,ブデソニド群では55%であった。プラセボ群からブデソニドへの変更により運動誘発喘息は59%に減少した。II
A

結論

運動誘発喘息を予防するためには,β2刺激薬,抗炎症薬を用いて,喘息のコントロールを良好に維持しておくことが重要である。

参考文献
  1. Virant FS. Exercise-induced bronchospasm: epidemology, pathophysiology, and therapy. Med Sci Sports Exerc 1992; 24: 851-855.
  2. Helenius IJ, Tikkanen HO, Haahtela T. Association between type of training and risk of asthma in elite athletes. Thorax 1997; 52: 157-160.
  3. Spector SL. Update on exercise-induced asthma. Ann Allergy 1993; 71: 571-577. (評価 I A)
  4. Millqvist E, Bengtsson U, Lowhagen O. Combining a beta2-agonist with a face mask to prevent exercise-induced bronchoconstriction. Allergy 2000; 55: 672-675. (評価 III B)
  5. Smith CM, Anderson SD, Seale, JP. The duration of action of the combination of fenoterol hydrobromide and ipratropium bromide in protecting against asthma provoked by hyperpnea. Chest 1988; 94: 709-717. (評価 II B)
  6. Jones RM, Horn CR, Lee DV, et al. Bronchodilator effects of disodium cromoglycate in exercise-induced bronchoconstriction. Br J Dis Chest 1983; 77: 362-369. (評価 II A)
  7. Woolley M, Anderson SD, Quigley BM. Duration of protective effect of terbutaline sulfate and cromolyn sodium alone and in combination on exercise-induced asthma. Chest 1990; 97: 39-45. (評価 II A)
  8. Dessanges JF, Prefaut C, Taytard A, et al. The effect of zafirlukast on repetitive exercise-induced bronchoconstriction: the possible role of leukotrienes in exercise-induced refractoriness. J Allergy Clin Immunol 1999; 104: 1155-1161. (評価 II A)
  9. Leff JA, Busse WW, Pearlman D, et al. Montelukast, a leukotriene-receptor antagonist, for the treatment of mild asthma and exercise-induced bronchoconstriction. N Engl J Med 1998; 339: 147-152. (評価 II A)
  10. Edelman JM, Turpin JA, Bronsky EA, et al.(Exercise Study Group)Oral montelukast compared with inhaled salmeterol to prevent exercise-induced bronchoconstriction. A randomized, double-blind trial. Ann Intern Med 2000; 132: 97-104. (評価 II A)
  11. Vathenen AS, Knox AJ, Wisniewski A, et al. Effect of inhaled budesonide on bronchial reactivity to histamine, exercise, and eucapnic dry air hyperventilation in patients with asthma. Thorax 1991; 46: 811-816. (評価 II A)
  12. Waalkens HJ, van Essen-Zandvliet EE, Gerritsen J, et al. The effect of an inhaled corticosteroid(budesonide)on exercise-induced asthma in children. Eur Respir J 1993; 6: 652-656. (評価 II A)
 
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