(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載

 

6.種々の側面

6-1.アスピリン喘息

前文

成人喘息の約10%はアスピリンをはじめとする酸性非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs, NSAIDs)により喘息発作を起こす。これをアスピリン喘息という。時に意識障害を伴うほどの大発作となり,死の転帰をとることがある。

アスピリン喘息と呼ばれているが,アスピリンのみならず,化学構造に共通性のない全ての酸性NSAIDs(インドメタシン,フェノプロフェン,ナプロキセン,ジクロフェナク,ケトプロフェン,ピロキシカム,メフェナム酸など)によって発作が誘発されるので,これらの薬剤の持つ共通の薬理作用であるシクロオキシゲナーゼ阻害作用が過敏反応に深く関与していると考えられている。

最近の研究によりアスピリン喘息ではペプチドロイコトリエン(LTC4,LTD4,LTE4,CysLTs)の産生がもともと亢進しており,また,アスピリン負荷によりCysLTsの産生が更に増加することが明らかになっている1),2)。したがって,アスピリン喘息患者のNSAIDs服用時の発作は,増加したCysLTsにより惹起されていると考えられる。また,CysLTsの産生に最終的に関わ るLTC4合成酵素の発現がアスピリン喘息患者の気道において亢進していることも報告されている3)。したがって,アスピリン喘息ではもともとCysLTsの産生が亢進しているところにNSAIDsを服用するとプロスタグランジンの産生が抑制され,PGE2を介する抑制系が作動しなくなる結果,CysLTsの産生が更に増加し,発作に至ると考えれば発症機序は説明できる。

アスピリン喘息は小児には稀であり,30歳代から40歳代に発症することが多い。また,慢性鼻炎,慢性副鼻腔炎,嗅覚障害,鼻茸を合併することが多い。診断は上記の臨床像を手掛かりとして詳細に問診し,NSAIDsで喘息が誘発されたエピソードを確認することでなされる。しかし,NSAIDsによる発作の誘発歴をもつ患者は60%程度であり,残りの40%は,NSAIDsを用いた負荷試験により診断される。負荷試験としては世界的にはリジン-アスピリンを用いた吸入試験が行われることが多いが,わが国ではその入手が不可能なので,スルピリンあるいはトルメチンによる吸入試験が代わりに用いられている。

推奨:アスピリン喘息患者はNSAIDs以外にも食用黄色4号(タートラジン)、安息香酸ナトリウム,パラベンなどの食品・医薬品添加物に対する過敏性を持っていることがあるので,NSAIDsのみならず発作を誘発する可能性があるこれらの物質を避けることが大切である。
アスピリン喘息患者が鎮痛・解熱薬を必要とする場合,アセトアミノフェン,塩基性NSAIDs(塩酸チアラミド,エモルファゾン,メピリゾール,塩酸チノリジンなど)は安全に投与できる。
アスピリン喘息患者の発作時にはリン酸エステル型製剤(デカドロン,リンデロンなど)を使用するのがよい。
科学的根拠

Medlineにて1973年から1999年の期間のアスピリン喘息に関する文献を検索して得られた234論文のうち40論文を査読した。

クロモグリク酸ナトリウムはアスピリン喘息患者のアスピリンにより誘発された気道収縮を抑制することが報告されている4),5)。その他,ケトチフェン6),アシクロビル7),プロスタグランジンE1製剤8),プロスタグランジンE2製剤9),サルメテロール10)(我が国では未承認)がアスピリンやスルピリンにより誘発された気道収縮を抑制することが報告されている。また,発症機序の項で述べたようにアスピリン喘息においてはCysLTs産生が増加しており,NSAIDsによりその産生が更に高まることが知られているが,CysLTsの産生に関わる5-リポキシゲナーゼ阻害薬11)やCysLTs受容体拮抗薬12),13)がNSAIDsにより誘発された発作に有効であることが報告されている。

アスピリン喘息患者に5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるザイリュートン(我が国では未承認)を投与してその臨床効果を検討した臨床試験では本薬により1秒量やピークフローをはじめとする種々のパラメーターの改善が認められている。したがって,アスピリン喘息には抗ロイコトリエン薬が有用である14)

アスピリン喘息患者の日常生活上の注意,安全に用いることのできる鎮痛・解熱薬については喘息予防ガイドラインに記載されており,アスピリン喘息患者はNSAIDsを避けるだけでなく,食用黄色4号,安息香酸ナトリウム,パラベンなどの食品・医薬品添加物をも避けることが勧められている15)。また,鎮痛・解熱薬については通常量のアセトアミノフェンと塩基性NSAIDsは安全であると記載されている15)

急性発作時の治療に関しては,喘息予防・管理ガイドラインにおいてアスピリン喘息ではコハク酸エルテル型ステロイド薬(ソルコーテフ,サクシゾン,水溶性プレドニン,ソル・メドロールなど)の静注により発作の増悪や誘発が生じることがあるので注意が必要であり,アスピリン喘息が否定できないときには,リン酸エステル型製剤(デカドロン,リンデロンなど)を使用することが推奨されている15)

結論

クロモグリク酸ナトリウム,ケトチフェン,アシクロビル,プロスタグランジンE1,E2製剤,サルメテロール,5-リポキシゲナーゼ阻害薬,CysLT受容体拮抗薬がNSAIDsにより誘発された発作に有効である。また,アスピリン喘息の長期管理には抗ロイコトリエン薬が有用であるが,非アスピリン喘息と比較してより有用であるか否かは現時点では不明である。

文献対象
  1. 例数
  2. 年齢
  3. 対象
試験デザイン
  1. 方法
  2. 観察期間(導入+試験)
  3. その他(効果判定など)
結果・考案・副作用評価
Cowburnら3)
1998
  1. AIA,非AIA,コントロールの気道生検組織をアラキドン酸経路の諸酵素に対し,免疫染色した。
  1. AIAでは非AIA,コントロールと比較してLTC4合成酵素を発現している細胞が増加していた。
Dahlenら14)
1998
  1. 40名
  2. 44.1±1.7
  3. AIA患者
  1. Zileuton 600mg×4あるいはプラセボを6w投与。交差させる前に4wのwash out期を設定(二重盲検プラセボ対照ランダム化交差比較試験)。
  2. 2+16
  3. FEV1.0,ピークフロー,気道過敏性,症状スコア
  1. ZILEUTON投与群ではプラセボ群に比較して呼吸機能,気道過敏性の改善,β2刺激薬のrescue useの減少,鼻症状の改善が認められた。
II-B

 
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