(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載
4-4.乳幼児喘息の管理と治療
前文
最近,我が国では,アレルギー疾患発症の低年齢化が進んでいると言われている。その理由は,現在のところ明らかではないが,環境因子の急激な変化や遺伝的要因も関与していると考えられている。アトピー素因をもった乳幼児は,この時期,免疫学的に食物アレルゲンや吸入アレルゲンの感作をうける時期である。呼吸器系は,解剖学的に,気管支や細気管支の構造が脆弱で,気管支平滑筋の発達も未熟なため,末梢気道のコンダクタンスが著しく小さく,また,気管支粘液腺の単位面積当たりの数が多く,分泌物の産生が多いなどの特徴を有している。そのため,呼吸機能では,年長児や成人と比較して,末梢気道の抵抗が大きく,換気障害を起こしやすく,容易に気道狭窄や肺虚脱を起こすという特徴がある。また,乳児では,薬物代謝機構が未熟で,中枢神経系も成熟段階にあるためテオフィリンでは痙攣を来しやすく,薬物投与には細心の注意を要する。以上の様な特徴を十分に理解し,乳幼児喘息の管理と治療に当たることが重要である。
欧米では,乳幼児喘息の管理と治療に,吸入ステロイドであるベクロメタゾン,ブデソニドやフルチカゾンが,MDI(定量噴霧)や液剤をネブライザーにて用いられ,その有用性が論じられている。しかし,わが国では,これら薬剤や剤形が認可されていないものもあり,さらに吸入ステロイド自体の,乳幼児の安全性に関して結論が出ていないとの理由から,年長児と同様に,乳児でも少なくとも中等症以上が対象となりうる。
本章では,乳幼児喘息について,まず発症因子や病態からみた発症予防ならびに管理と,薬物による治療にフォーカスをあてて,その適切な方法を論じた。
1)乳幼児喘息の発症因子と病態からみた発症予防ならびに管理
乳児期におけるアレルゲンからの回避は,アレルギー疾患発症の予防に有用である。
科学的証拠
乳児喘息の発症に関連して,親の喫煙と,喘息あるいは気道過敏性の亢進との関連について検討がなされている1),2),3)。喫煙の有無については,親からアンケート調査にて確認しているものがほとんどであるが,タバコの受動喫煙量を,尿中のニコチン量を測定することにより推定している報告もある4)。報告されている全ての研究で,乳児の受動喫煙は喘鳴性疾患の発症ならびに気道過敏性の亢進に対する危険因子であると述べられている2),3)。また,母親の妊娠中の喫煙に関しても,発症因子として重要であると言及されている1)。特に,家族歴で喘息のある家系においては注意を要することが加えられている。
生後1年以内の下気道感染,特にRSウイルスによる細気管支炎の罹患は,家族歴でアレルギー疾患を有する場合では,その後の喘息ないしは反復する喘鳴の発症および一般的なアレルゲンの感作成立において重要である5),6),7)。
アレルギー疾患発症の予防に関しては,食物アレルゲンの除去8),9),10)だけでなく吸入アレルゲンの回避も重要で,2歳までの喘息発症の予防となり得るとの報告がみられる8),11),12)。乳児期においても吸入アレルゲンとして重要なものは,室内塵ダニであり,特に,乳児が接する時間の多いベッドにおいて曝露量が多いため注意を要する13),14)。