(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載
4-3-2. β2刺激薬
前文
小児の6〜18歳の年齢層に対するβ2 刺激薬に関するランダム・対照試験の文献はPub Medでの検索では限られたものになっている。小児で検索しても,対象に16〜18歳の症例が一部含まれているに過ぎない,成人を主な対象とした論文が多数検索された。根拠の一部は,成人喘息の治験から類推せざるを得なかった。
これでも検索されない項目については,アレルギー関連和文学会誌を検索し,これで不十分な場合は和文非学会誌にその根拠を求めた。
科学的根拠
β2刺激薬は速効性があり,気管支平滑筋を弛緩させ,急性発作の第一選択薬である。吸入投与は,全身投与に比し即効性で吸入直後から効果が得られ,全身投与に比し少量で効果が得られて副作用発現が少ない,という利点がある。
急性発作での病院での治療は,先ずβ2刺激薬のネブライザーによる吸入を行う。ネブライザーによる吸入β2刺激薬吸入に反応しない,あるいは発作が持続する場合,アミノフィリン,ステロイド静脈内投与,補液など他の発作治療を追加する1)。
重症発作では,β2刺激薬吸入で,効果は得られても一過性で換気・血流比の不均衡の増大によって低酸素血症が却って悪化することもあり,酸素を同時に投与し,症例に応じ,他の発作治療を併用する。
救急室でβ2刺激薬MDIに吸入補助器具を使用して頻回に吸入することによりネブライザーによる吸入と同等の効果が得られる2)。しかし,病院外での頻回の使用は適切な受診時期の遅れをもたらして喘息死の要因となる可能性があり3),勧められない。
家庭でのβ2刺激薬MDIの使用にあたっては,喘息死を防ぐため,1)過度依存・過信を来しやすく,これが喘息への安易な対応や発作時の適切な受診時期の遅れを来す要因になる可能性があること,2)頓用薬であること,3)使用回数の増加は対症療法が不十分で,慢性気道炎症に対する治療をステップ・アップする必要性を示唆していること,4)思春期喘息では特に上記を来しやすいこと,5)使用上の注意を徹底し用法・用量を守らせること,を医療関係者,患者,家族に周知させることが必要である1)。わが国で小児への適応が設定されているβ2刺激薬MDIはサルブタモールと塩酸プロカテロールである。
エピネフリン投与は,喘息発作時の小児での検討ではβ2刺激薬に比し改善効果が得られるということはなく4)
,効果持続時間も短く,α作用,β1作用による副作用リスクが高いので,アナフィラキシーや血管性浮腫では第一選択薬であるが,小児の喘息発作では慎重に投与する1)。 急性発作でβ2刺激薬吸入は有効であるが,効果には限界があり,十分な効果が得られない場合は,他の治療法を加えるか,治療の変更が必要である。 イソプロテレノールは,半減期が短く,β1作用も強いが,サルブタモールより強い気管支平滑筋弛緩作用を有する薬剤である。 イソプロテレノール持続吸入療法は,わが国の小児の喘息ガイドラインの特色の一つで,急性発作時,他の発作治療薬に反応せず重症化する際に試みても有効で,重症発作による人工呼吸管理を減少させた,とされる。 臨床効果は量依存性があり,呼吸不全に近い状態ではdl-体イソプロテレノール吸入液50mL(生食水500mLに溶解)を要することもあるが心・循環器系の重篤な副作用が出現するリスクも高くなり5),多くは少量(10mL以下)時に中等量(15〜20mL)でコントロールが可能6)である。 本療法にl-体イソプロテレノール注射液(プロタノール-LR)をプロタノール-LR量:1mL/体重(kg)(生食水500mLに溶解),あるいは2〜10mg程度を投与する方法7)も推奨されている。 l-体は活性型で,dl-体は活性型のl-体と不活性型のd-体が半量ずつ混合されたもので,活性の多くはl-体によってもたらされると考えられている。 l-体の量を同じにすると気管支拡張効果,副作用に差はない8)とされ,第33回日本小児アレルギー学会・ワークショップ:イソプロテレノール吸入療法(日小ア誌1996;4:306-313)で,2施設からdl-体とl-体を同量にして本療法を行うと臨床効果,副作用に差を認めなかったと報告されたが,これに反対する意見7)もある。 呼吸不全に至る前に本療法を行えばイソプロテレノールが少量でも有効率が高く副作用出現率が低いが,l-体10mg程度でも心筋障害を呈した症例9)や不整脈10)が報告されており,適応は,患者のリスクと利益に配慮し,慎重に判断すべきである。 本療法は,副作用を避けるため,十分酸素を投与し,ECG,SpO2をモニタリング,血液ガス,血清CPK,GOT,LDH,カリウムをチェックし,呼吸不全への移行を注意しながら行うべきである。 イソプロテレノール吸入療法は,急性発作時,他の発作治療薬に反応せず重症化する際に試みて有効であるが,心・循環器系の副作用もあり,慎重に行うべきである。 本療法について,適応,投与時期,投与薬剤,投与量について未だ意見の一致を見ていない。 わが国で現在使用されているβ2刺激薬は作用時間が比較的短い4〜6時間のもの(短時間作動性)が多く,経口薬で塩酸ツロブテロール,塩酸プロカテロール,臭化水素酸フェノテロール,塩酸クレンブテロール,フマル酸ホルモテロール,塩酸マブテロールなどは比較的長時間作動性である。 長期管理薬としてのβ2刺激薬は,気管支拡張作用が12時間以上持続する長時間作動性β2刺激薬吸入薬(サルメテロール,フォルモテロール)2回投与が欧米のガイドラインでは採用されている。 β2刺激薬経口薬による長期管理について,バンブテロールは,非活性型テルブタリンで徐々に消化管から吸収され活性型に変換され24時間気管支拡張作用が持続する経口薬であるが,長時間作動性β2刺激薬吸入薬サルメテロール1日2回と同等の効果が認められ,特に夜間発作のコントロールに有効である11)。 一方,短期作動性β2刺激薬吸入薬の1日4回の定期的吸入はかえって悪化することもあり,発作頓用薬としての使用が推奨される12)。 しかし,長時間作動性β2刺激薬経口薬は,発作抑制作用は吸入ステロイド薬より劣り,気道過敏性を改善せずβ2刺激薬により発作を抑制できても抗炎症作用がないことが示唆され14)ている。その使用に当たっては,抗気道炎症作用のある薬剤と併用し,発作がコントロールされたらβ2刺激薬は頓用に切り換える。β2刺激薬経口薬は局所投与による吸入β2刺激薬に比し同等の気管支拡張作用を得るための薬剤量が多いため全身性の副作用が出やすく,速効性も劣る。一方,薬剤コンプライアンスが吸入剤より優れ,吸入薬に要する手技上の困難がない,過量投与や過信による適切な受診時期の遅れを来し難い,といった利点がある。 わが国で開発されたβ2刺激薬貼付薬,塩酸ツロブテロール・テープは,皮膚に貼付したテープから塩酸ツロブテロールを徐々に放出,同剤は皮膚から吸収され,気管支拡張作用を発現する。最高血中濃度には貼付8〜12時間後に到達し,有効血中濃度は約24時間持続し,1日1回の貼付により発作がコントロールされる15)。嘔吐を伴う咳嗽などで経口投与が困難な場合や就寝後の発作,早朝の発作などに1回投与で有用である15)が,長期管理薬としての評価は未だ確立されていない。他のβ2刺激薬経口薬との併用は注意を要する。 β2刺激薬は連用し有効であるが,本剤のみではアレルギー性気道炎症は改善せず,抗気道炎症作用のある薬剤と併用することが必要で,β2刺激薬貼付薬の長期管理薬としての評価は未だ確立されていない。β2刺激薬は発作がコントロールされたら頓用に切り換える。結論
科学的根拠
結論
科学的根拠
(バンブテロールはわが国では未発売)結論
文献 | 対象
| 試験デザイン
| 結果・考案・副作用 | 評価 |
Kerem Eら2) 1993 |
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| II B |
文献 | 対象
| 試験デザイン
| 結果・考案・副作用 | 評価 |
Ruddy RMら4) 1986 |
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| II B |
文献 | 対象
| 試験デザイン
| 結果・考案・副作用 | 評価 |
足立ら7) 1992 |
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| III B |
大澤ら8) 1997 |
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| II B |
文献 | 対象
| 試験デザイン
| 結果・考案・副作用 | 評価 |
Wallaert Bら11) 1999 |
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| II B |
Taylorら12) 1998 |
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| II B |
Wempe JBら13) 1992 |
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| II B |
Wempe JBら14) 1992 |
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| II B |
馬場 実ら15) 1995 |
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| II B |
参考文献
- 厚生省免疫・アレルギー研究班.喘息予防ガイドライン1998改訂版(牧野荘平,古庄巻史,宮本昭正 監修).協和企画 2000; 30-48. (評価 VI,A)
- Kerem E, Levison H, Schuh S, et al. Efficacy of albuterol administered by nebulizer versus spacer device in children with acute asthma. J Pediatr 1993; 123:313-7. (評価 II,B)
- 日本小児アレルギー学会・喘息死委員会.日本小児アレルギー学会・喘息死委員会レポート'96.日小ア誌 1997; 11: 317-327. (評価 VI,A)
- Ruddy RM, Kolski G, Scccarpa N, et al. Aerosolized metaproterenol compared to subcutaneous epinephrine in the emergency treatment of acute childhood asthma. Pediatr Pulmonol 1986; 2:230-236. (評価 II,B)
- 高増哲也,栗原和幸,五藤和子,猪又直子.小児気管支喘息発作に対するdl体イソプロテレノール持続吸入療法 I.アスプールR大量持続吸入療法.アレルギー 1998; 47: 504-510. (評価 III,B)
- 高増哲也,栗原和幸,五藤和子,猪又直子.小児気管支喘息発作に対するdl体イソプロテレノール持続吸入療法 II.アスプール少量持続吸入療法―大量療法との比較.アレルギー 1998; 47: 573-581. (評価 III,B)
- 足立雄一,吉住 昭,五十嵐隆夫,ほか.小児気管支喘息重症発作に対するイソプロテレノール持続吸入療法,発作の重症度による効果の差の検討(早期実施の試み).アレルギー1992; 41: 654-661. (評価 III,B)
- 大澤正彦,小田嶋 博,津田恵次郎,梅野英輔,ほか.イソプロテレノール持続吸入療法についての検討,第2報,l-isoproterenolとdl-isoproterenolにおける気管支拡張作用と心拍数増加作用の比較.日小ア誌 1997; 11:81-85. (評価 II,B)
- 三好麻里,足立佳代,櫻井 隆,児玉荘一.l体イソプロテレノール持続吸入療法中に心筋障害,うっ血性心不全を呈した3歳幼児例.日小ア誌 1999;13(2):51-58. (評価 V,D)
- 野々村和男,島田司巳.イソプロテレノール持続吸入療法中に頻拍性不整脈を認めた重症気管支喘息の1例.日小ア誌 1995; 7: 230-231. (評価 V,D)
- Wallaert B, Brun P, Ostinelli J, Murciano D and the french bambuterol study group.A comparison of two lomg-acting β-agonists, oral bambuterol and inhaled salmeterol, in the treatment moderate to severe asthmatic patients with noctual symptoms. Respir Med 1999; 93: 33-38. (評価 II,B)
- Taylor DR, Town GI, Herbison GP, et al. Asthma control during long-term treatment with regular inhaled salbutamol and salmeterol. Thorax 1998; 53: 744-52. (評価 II,B)
- Wempe JB, Tammeling EP, Postma DS, et al. Effects of budesonide and bambuterol on circadian variation of airway responsiveness and nocturnal symptoms of asthma. J Allergy Clin Immunol 1992; 90: 349-57. (評価 II,B)
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- 馬場 実,三河春樹,中島光好.小児気管支喘息に対するHN-078(Tulobuterol貼付剤)の臨床的検討―塩酸ツロブテロールドライシロップとの二重盲検比較.小児科診療 1995; 58: 1316-1333. (評価 II,B)