(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載
4-3.小児喘息の管理と治療
4-3-1.キサンチン誘導体
前文
喘息治療薬は長期管理薬(controller)と発作治療薬(reliever)に分類されているが,キサンチン誘導体は,その両者に関与する重要な薬剤である。すなわち徐放性テオフィリン薬はcontrollerとして喘息の長期管理に,テオフィリンのエチレンジアミン塩であるアミノフィリンはrelieverとして発作治療に使用されている。前者の効果の相当部分は抗炎症作用であり,後者のそれは気管支拡張作用が主体である。
小児では特に低年齢層での吸入療法がうまくできないため,効果が不十分であったり,吸入療法が経口薬に比べてコンプライアンスが不良であったりすることから,徐放性テオフィリン薬の適用はかなり広い。日本小児アレルギー学会の小児気管支喘息治療管理ガイドライン20001) によれば,喘息の長期管理として軽症持続型(ステップ2)以上のすべての喘息患児に対して徐放性テオフィリン薬のRTC(round the clock)療法が勧められている。また喘息発作に対しては中発作以上の治療としてアミノフィリンの静注または点滴静注が勧められている。しかし,キサンチン誘導体は,その治療血中濃度域が狭く,かつそれが副作用を発現する中毒域と接近しているために,使用にあたっては十分の注意が必要である。特に小児においては薬物動態が年令によって大きく異なること,テオフィリンクリアランスが感染症や発熱,その他の要因に影響を受けやすいことに留意しなければならない。副作用として中枢神経症状,消化器症状,循環器症状などがあるが,小児においては特にテオフィリン関連痙攣に注目しなければならない。なかでも乳幼児においては生理的にも痙攣を起こしやすい時期であり,血中濃度が治療域であっても痙攣を誘発することがあるので細心の注意が必要である。いずれにせよキサンチン製剤の適正使用にあたっては薬物速度論の知識とTDM(Therapeutic Drug Monitoring;薬物濃度モニタリング)によって適切な投与を行うことが望ましい。
科学的根拠
文献の検索法は,まずNational Library of Medicine, Advanced Medline Searchより小児気管支喘息の治療管理に関するキサンチン誘導体の有効性と安全性に関する127論文を集め,それについて検索した。ここではその中から科学的根拠の質の高い論文49編について検討し,中でも重要な15論文を引用して述べる。
(1) 長期管理におけるテオフィリンのRTC療法
徐放性テオフィリン薬の投与量と最高血中濃度と最低血中濃度との関係を検討し,有効かつ安全な投与量を決定した研究2)によれば,血中濃度10μg/mLを目標にした場合のテオフィリンの投与量および投与法は次のようになる。体重15kg以下では10mg/kg/日,体重15〜30kgでは15mg/kg/日,体重31〜40kgでは12mg/kg/日,体重41〜50kgでは10mg/kg/日とし,この投与量を分2で朝と就寝前に2回,定期的に経口投与する。
かつては有効かつ安全なテオフィリンの血中濃度は10〜20μg/mLとされていたが,最近のガイドラインによれば5〜15μg/mLを目標とすべき血中濃度としている1)。この変更は5μg/mL以上で気管支拡張効果が見られることがあり,また同じ低濃度で抗炎症効果があるという報告に基づく2)。また20μg/mL以下でも消化器症状を中心とした副作用が見られるが,20μg/mL以上では濃度依存的に副作用の頻度が増えるので,15μg/mLを上限とするのは妥当な線である3)。テオフィリンのRTC療法中には定常状態に達する5日以降にTDMを行って血中濃度の調整を行うのが理想的である。長期管理におけるテオフィリンのRTC療法と他の薬剤との優劣を比較した報告も多数見られる。徐放性テオフィリン薬,速放性テオフィリン薬,トリメトキノールによる3群の二重盲検比較試験では,臨床面でも肺機能検査の面でも治療成績は徐放性テオフィリン群が有意に優れていた4)。テオフィリンと吸入性クロモグリク酸ナトリウムとの比較試験では,テオフィリン群の方が有意に無症状日数が多くなっている5)。また吸入ステロイド薬による治療との比較では両者とも対象になった軽症〜中等症の喘息患児の治療に有用であるが,症状改善率はステロイド薬の吸入がより強力であった。ただステロイド薬の吸入で一部の患児に成長抑制が見られたが,テオフィリン群の副作用は一過性であった6)。
(2) 喘息発作に対するアミノフィリンの静脈内投与
アミノフィリン1mg/kgの投与で血中濃度がおよそ2μg/mL上昇することから,血中濃度10μg/mLを目標に初期投与量を設定し,5〜20%ブドウ糖に混じて,20分以上かけて静注または点滴静注する。あらかじめテオフィリンが投与されていない場合は2〜15歳で6mg/kgの投与が推奨されている。2歳未満の乳幼児ではキサンチン代謝の個体差が大きいため,血中濃度を測定しながら投与した方がよい。あらかじめテオフィリンが経口投与されている場合は,1歳以上であれば静注の初期投与量を3〜4mg/kgとする2)。
これらの治療を行っても発作が軽快しないなら,入院管理の条件でアミノフィリンの持続点滴による維持療法に移る。血中濃度5〜15μg/mLを目標に,2〜15歳には0.8〜1.2mg/kg/hの維持量を投与する。投与量の設定はテオフィリンクリアランスによって左右されるが,クリアランスは個人差が大きいので,投与後12〜24時間にTDMを施行し用量の調節を行った方がよい。2〜6歳では年令別クリアランス平均値が等しく,もっともクリアランス値の高い年令層であるが,安全性を考慮して0.9mg/kg/hが適量である。この年齢層以降は緩やかにクリアランスが低下していくので,投与量は0.8mg/kg/hとする2)。2歳未満ではテオフィリン代謝酵素である肝臓チトクロームP450の発達過程にあり,月齢とともにクリアランスの平均値は上昇していく。6ヶ月の乳児のクリアランスは幼児の半分であり,また1歳以下の年令層では個人差がきわめて大きく,乳児に対する初期投与量の設定は困難である2)。
急性発作時のアミノフィリン静注療法に関しては古くからその有効性を認めた報告が多い7)。サルブタモール吸入やエピネフリン注射を対照薬とした広範囲の比較試験において,アミノフィリン静注療法が特に優れていたとの証拠は得られていない。しかしβ2刺激薬を併用することでよりその効果が増強される。喘息発作治療に吸入β2刺激薬+ステロイド静注を使用中の患児に対するアミノフィリン静注の併用効果は証明されていない8)。
(3) テオフィリンの血中濃度と副作用
テオフィリンの毒性は血中濃度に影響されることが多い。軽症の副作用は10μg/mL以下の血中濃度でも起こりうるが,重症で致死的な副作用は20μg/mL以下では稀である9)。1980年から1997年まで国内で報告された副作用症例は徐放性テオフィリン薬450例,576件,アミノフィリン注射薬109例,224件,合計559例,800件であった。このうち中枢神経症状(痙攣,頭痛,意識障害,振戦,昏睡など)41.6%,消化器症状(嘔気,嘔吐,腹痛など)22.0%,皮膚症状(発疹,薬疹,掻痒感)9.0%,循環器症状(頻脈,不整脈,期外収縮)8.5%であった10)。
血中濃度が30μg/mL以上になることは慢性過量投与の例に多い(全体の88%)が,その94%に副作用が発生している。血中濃度25〜50μg/mLの範囲で見ると,有症状は71%であり,50μg/mL以上になると副作用が頻発している11)。
テオフィリン関連痙攣はもっとも重視される副作用である。クリアランスに影響を及ぼす因子は様々であるが,小児ではそのほかに生理的に最も痙攣を起こしやすい時期であることに注目しなければならない12)。国内で報告のあったテオフィリン関連痙攣の症例は徐放性テオフィリン薬によるもの82例,アミノフィリン注射薬によるもの53例,計135例であり,5歳以下が105例(77.8%)であった13)。痙攣時に血中濃度が測定されていたのは89例であり,血中濃度が15μg/mL以上で痙攣を起こした症例が50例(56.2%)であった。血中濃度が5μg/mL未満で痙攣を起こした症例は5例(いずれも中枢神経症状の既往のあるもの)であった。
テオフィリンは肝臓で代謝されるが,その早さは個人差が大きく,投与量が同じでも,時にテオフィリン血中濃度が上昇して重篤な副作用を起こすことがある。特に小児科領域では先に述べたように,年令的要因を考慮しなくてはならない。またテオフィリンの代謝は肝障害による肝代謝の低下,あるいは肝代謝酵素に影響を及ぼす種々の薬物との相互作用によっても影響を受ける14)。クリアランスを低下させ,副作用発現の危険性を増大させる薬物は多数あるが,中でもマクロライド系抗生剤,ニューキノロン系抗生剤などは,日常診療においてよく使われる薬剤だけに注意を要する。喘息患児には抗アレルギー薬とテオフィリン薬を併用する場合が多いが,抗ヒスタミン作用を持つ抗アレルギー薬との併用は易痙攣作用があるとして危険視するものもいる。発熱およびウイルス性上気道炎の際にはクリアランスが低下するといわれており,投与量を半量にした方がよい15)。
結語
キサンチン誘導体の使用にあたっては,徐放性テオフィリン薬のRTC療法による長期管理にせよ,アミノフィリンの静脈内投与による急性発作の治療にせよ,その臨床効果を評価する一方で,常に副作用のことを念頭に置くべきである。特に小児の場合はテオフィリンクリアランスは個人差が大きく,さらに発熱,ウイルス感染,食事内容,併用薬剤などの影響を受けやすい。中でも乳幼児に使用する場合は,投与量には細心の注意をはらうことが大切である。テオフィリンの有効かつ安全な投与を考えた場合,目標血中濃度は10μg/mLに設定した方がよい。さらに可能な限りTDMによって投与量を補正していくことが望ましい。
キサンチン誘導体(小児)の文献
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